美味しい物を食べると幸せになる。
だけど、それを作ることにも、人を幸せにする力があるのだろうか?
様々なセクシュアリティの人が集まって、普段作らない料理を作るイベント「Kitchen」が、東京都内で定期的に開催されている。
主催は、LGBTにまつわるユニークな視点の記事を発信するネットメディア「やる気あり美」だ。
やる気あり美代表の太田尚樹さんは「料理を通して、相手と自分の共通点を知れる」と話す。
どうして違うセクシュアリティの人と料理を作るんですか? 何を話してるんですか? アタラシイ対話の取り組みについて、太田さんに聞いてみた。
■ 条件はたった一つ
Kitchenの参加条件は、たったひとつ。「どんなセクシュアリティに対しても、イエスな姿勢を持っていること」です。LGBTの知識はなくても大丈夫。
ガチな料理イベントで、2時間半かけて調理して食べます。その後にトークセッションをしてまた歓談に戻ります。全部で4時間くらいだけどあっという間に終わってしまう、中身の濃いイベントです。
セクシュアリティを受け入れるといっても、別に自分のセクシュアリティを話さなくてもいい。話したい人が話せる世界をつくる、それがKitchenです。
■ メニューはあえて難しく
料理のいいところは、緊張せずに人と喋れることです。気を使う人や人見知り同士が集まっても、一緒に料理を作り上げるという共通のゴールのために協力すると、気兼ねなく会話できる。お酒も自由に飲めるので、結構すぐに打ち解けてフランクに話せます。
それに料理って、やっぱり楽しいんですよね。何かをつくるってシンプルに面白くて、性別に関係なく誰でも楽しめることだと思う。
メニューは、あえて普段作らない難しいものにしているんです。本場のインドカレーとか、粉から作るピザとか。難易度が高いと工作みたいで楽しいし、達成感がある。
こじんまりしている方が一体感があって濃いコミュニケーションができるから、人数は最大25人くらいにしています。
1人で来る人、友達で参加する人、年齢も様々で色んな方がいらっしゃいます。
グループを5つくらいに分けて、それぞれのグループが違うメニューを制限時間内に作って、最後に真ん中のテーブルに集めて、全員で食べます。
各テーブルには、スタッフがファシリテーターとしてつきます。料理中は何を話してもOK。料理もどうつくってもいい。基本はマジで料理の話をしますね。
中には、時間が足りないチームも出ちゃうんですよね。そういう時は他のチームが手伝ってくれる。
インドカレーを作った時、僕のチームはスパイスを炒めたはいいものの、想像していたより味が薄くなるという事態になってしまって。困っていたら、隣のテーブルの子に「こういう時、意外と砂糖入れるといいですよ」と助けてもらったこともありました。助け合うことで、チーム間の連携も生まれる。
■ 自然と会話が始まる
自分のセクシュアリティは、自己紹介の時には言わないんです。だからみんなお互いのセクシュアリティを知らないままに料理をする。
ノンケ(異性愛者)の人もレズビアンも、ゲイの人もトランスジェンダーの人もいるという中で、僕らファシリテーターだけ「太田・ゲイ」とか書いてセクシュアリティをオープンにする。それで料理の会話をしながら、ちょっとセクシュアリティの話にも触れます。
例えば、料理について話している中で、僕が「やっぱり男の心をつかむのは胃袋だと思っていて」と話すと、「僕ノンケなんで、男性が男性の気持ちをつかみたいという気持ち、わからないから聞きたいです」と言う男の子がいたり、「私も彼女と料理作りにはまっていて」と言いだす女の子がいたりする。
会話の中で自然と、「この人のセクシュアリティってそうなんだ」って思うんですけれど、料理に集中してるから緊張しないんですよね。メインは料理で会話はサブだから、緊張感をいい感じでごまかせる。
■ 真面目スイッチ、オン!
食後のトークセッションの時に意識しているのは"真面目スイッチを押す"ことです。実はちょっと話したいなと思っていた真面目なテーマを、トークセッションで話します。笑いながらだけど。
例えば、職場で何か嫌なことある?といったような話がスイッチになって、トークセッション後に、食事に戻った時に「さっきの話の続きを聞いて」と自然と真面目な話ができる。
気楽な話から入って、ちゃんと真面目な話もできるイベントです。僕たち、参加者の満足度を二次会参加率で測っているんですけれど、95%くらいの人たちが参加するんですよ。4時間やった後なのに。だからすごくいいイベントだなっていう自負はあります。
■ 目指すのは、マツコデラックスさん
Kitchenはすごく楽しいイベントだから続けているんですけれど、必要性があるなという気持ちからはじめました。
僕は、企業向けの研修で話をすることもあります。でもこれまで、「知識を持って帰ってもらう」研修をしてきて、参加者の心の動いてなさを実感してきました。
特に、年齢の高い男の人はそうかな。なかには、「今の社会には、LGBTを受け入れなきゃいけない圧力がある」って怒ってくる人もいる。
受け入れたいという姿勢がない人に、知識を伝えても、受け入れられないと思うんです。研修で「日本にはLGBTの人が何パーセントいます」と知ったところで、LGBTキモいって思っている人が、キモくなくならないと思うんですよね。
それが、どうやったらキモくなくなるかっていうと、身近にLGBTの人がいてその人に好感を持つ、とか好きなアーティストがゲイで親近感が湧くとかだと思う。
例えば、黒人の差別問題にしても、ネルソン・マンデラのような運動家たちがいたのと同時に、マイケル・ジャクソンのように音楽で人の心を掴んだ人もいた。
僕たちそれを、「理解とラブ」って呼んでます。理解を作るものと愛着を作るもの。
差別を無くす時に必要なのはその「理解とラブ」の両輪だと思う。
LGBTにももっとラブの部分が必要なのではと考え、始めたのがやる気あり美です。僕たちが目指すのは、運動家じゃなくてマツコデラックスさん。
だからやる気あり美のイベントも、理解を作るもの(研修)より愛着を作るものがいい、そう思ってKitchenを始めました。
料理自体が楽しい、ということもあるけれど、それよりみんなで料理するという共同作業が大事なんです。ゴールがあって、そこに到達するための共同作業があって、その中でカジュアルな会話をするって愛着が湧く。
研修がLGBTとそうじゃない人の違うことを頭で学ぶ場だとしたら、KitchenはLGBTとそうじゃない人が、違わないことを体感する場所。
だけど正直、違う部分はみんなすでに知っている。だから「知ってました〜」で終わっちゃう。だからこそ、Kitchenで「違わないな」って感じる時間が大事だよね、と思ってやっています。
これまで10回以上やってきて色々なフィードバックがあるけれど、嬉しかったのはゲイの人から「ゲイの友達以外、家族にも誰にもカミングアウトしたことなかったけれど、ここだったら言ってもいいなって思った」と言われたこと。
どんなセクシュアリティに対してもイエスな世界になると、これまで話せなかった人も、気楽に自分のことを話せるようになるんだなあ、と思いました。
LGBTに関して、これを覚えてもらいたいとか、伝えたいメッセージとかはないんです。ただ参加者に「なんかいい人だったなあ」って思ってもらえたらいい。なんかまあとりあえずいい人たちだったな、って思ったら、次の日LGBTのニュース見るときの気分が変わると思うから。
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