不妊治療における「体の痛み」とは? 私の経験と不妊治療専門医の言葉

クリニックや治療法にもよるが、高度治療になるほど注射や諸々の処置の回数は多く、体に痛みを感じる機会も少なくない。

不妊の検査や治療を受けたことのあるカップルは6組に1組といわれる日本。決して他人事ではない数字だが、不妊治療に関する情報はまだ広く一般に普及してるとはいえない。8年間の不妊治療を経験したライターの神田りさ子さんが伝える、その現実とは?

初期検査から痛みを伴うこともある

「はい、力を抜いてくださいねー」。

不妊治療のクリニックで、医師や看護婦さんから何度も言われた言葉だ。優しい口調であることが多いが、それでもつい体に力が入ってしまう。「痛いの、くるのかな......!?」と、自然に身構えてしまうのだ。

不妊治療=辛い治療というイメージはすっかり定着しているが、その理由のひとつに体の負担が挙げられる。クリニックや治療法にもよるが、高度治療になるほど注射や諸々の処置の回数は多く、体に痛みを感じる機会も少なくない。

こうした不妊治療における体の痛みについて、自身も不妊治療を経験した不妊治療専門医であり、「ポジティブ妊活7つのルール」などの著書のある医療法人オーク会の田口早桐先生に話を聞いたところ、「やはり検査や治療の中で痛みを伴うことはありますね。ただし個人差もあります」と教えてくれた。私自身は比較的痛みには強い方だと思うが、それでも痛かった思い出は少なくない。今回は私が経験した「体の痛み」を紹介したい。

不妊治療の初期段階において痛かったのが、卵管造影検査だ。これは卵管に詰まりがないかなどを調べる検査で、子宮口から造影剤を注入し、レントゲンで確認するもの。この造影剤が通るときに痛みを伴うことが多く、田口先生も痛みを伴う検査だという。

私の場合は、生理痛がやや重くなったかなぁという程度だった。卵管に造影剤が通っていくと聞いていたせいか、細いところに無理矢理太いものが通っていくような痛みにも感じた。

この卵管造影検査は、造影剤が通ることで卵管の通りが良くなる傾向があり、検査後の周期は妊娠しやすくなるという。だからこそ「この痛みに耐えれば、きっと明るい未来が待っているはず......!」と私は自らを奮い立たせ、検査を受けた。結局そのときは、妊娠にかすりもしなかったけれど......。

●●注射が束になってやってくる!?

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卵管造影検査が不妊治療における痛みの入口なら、二の丸とも言うべき痛みが、注射のオンパレードだ。

不妊治療、中でも高度治療に進んで驚いたことに、注射の多さが挙げられる。それまで大きな病気のなかった私は、注射なんてはるか昔の予防接種以来、ずっとしてこなかった。それが不妊治療の世界に足を踏み入れたとたん、注射が束になってやってくるような、そんな錯覚にとらわれた。

治療の前段階、検査でも採血のために腕に針を刺す機会は多い。そしていざ治療が始まると、通院のたびに注射、注射、また注射。人によっては二日おきに注射に通わなければならなかったりもする。

中でも痛いのは、筋肉に直接薬剤を投入する筋肉注射だ。「痛いですよ」と事前に聞いていても、針を刺されてギューっと薬剤を注入する間中、「イタタタタ......」と思わず声が出て、自然に体も逃げてしまう。治療のための薬剤なのに、まるで体に悪いものを注入されているような気分にすらなる。

田口先生いわく、「筋肉注射が痛い場合は、痛みが少ない自己注射などに切り替えるという手もあります。ただそれは費用的にけっこうかかるんですよね」とのこと。体の痛みをとるか、財布の痛みをとるか。悩ましい選択肢である。

●●卵子を取り出す採卵、その痛みの回避方法とは

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そして本丸とも言うべき痛みは、採卵だと思う。田口先生も「セミナーなどでも採卵の痛みについての質問が毎回出ますし、怖いと思っている方も多いみたいです」と明かしてくれた。

採卵とは、卵巣内から卵子を取り出すこと。この取り出した卵子と精子を体外で受精させ、その後に子宮内に移すのが、いわゆる体外受精だ。卵巣に針をさしてエイヤッと体外に取り出すわけだから、イメージからしてもう痛そうなのである。

ただしこの採卵はクリニックによって麻酔がきく。田口先生も「痛みは人によっては大きなストレスになります。無理して我慢するよりも、麻酔を使って痛みを減らすほうが良いケースも多いと思います」と言う。

実際、私も採卵時には麻酔を使ってもらっていた。私は多嚢胞性卵巣症候群という排卵障害があり、排卵誘発剤を使うと卵子が沢山できてしまうことが多かった。採卵数が多いと痛みも強くなるため、医師からも毎回麻酔を勧められていた。静脈麻酔というもので、この経験は治療の中でもインパクトがあった。

●●まさにイリュージョン!? な麻酔体験と術後の苦しみ

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採卵の流れとしては、検査などに続いて手術台の上にのぼる。ちなみに採卵とはれっきとした手術のひとつだ。初めての採卵時、「手術室に入って......」という看護師さんの説明に、「え、手術なんですか!?」とびっくりしたのを覚えている。

手術台では「はい、今から麻酔を効かせますからね」と言われ、くるかくるかと身構えているうちに、意識が途切れてしまう。朦朧とするような助走のような時間はなく、本当にストンと意識がなくなるのだ。そしてふと気付けばポンポンと肩を叩かれ、「無事に終わりましたよー」。

この静脈麻酔は、採卵後約3分以内に目を覚ますという。私は毎回目を覚ますたびに「え、いつの間に終わったの!?」と狐に包まれたような気持ちになった。最初の採卵後、「どうだった?大丈夫?」と夫が心配そうに聞いてきたが、思わず「イリュージョンだった......」と答えてしまい、夫をキョトンとさせてしまったほど。だから私自身、採卵時の痛みというのはあまり記憶にない。

ただしだからといって痛くなかったわけではない。私は毎回採卵数が多めだったので、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になることが多かった。OHSSとは、刺激によって卵巣が腫れて腹水がたまる症状のこと。重症化はしなかったものの、嫌な鈍い痛みが術後数時間にわたって続くことがあった。その痛みを感じるたびに、「たくさん卵を生んだんだなあ」という、妙な気持ちになったものだ。これも広義的には「産みの苦しみ」なのかもしれないとも思った。

ちなみに麻酔の使用はクリニックによっても方針が異なる。採卵でとれる卵子の数を抑えた、いわゆる低刺激系のクリニックでは麻酔を使わないところもある。こうしたクリニックに通っていた友人に聞いたところ、「チクチクッとするぐらいで、思ったよりも痛くなかった」と言っていた。とはいえ、ネット上には無麻酔は痛かったという声も少なくないので、クリニックの技術や個人の感じ方にも差があるのだろう。

田口先生いわく、「採卵数にもよりますし、また卵巣の場所によっても痛みは変わってきます。たとえば卵巣が子宮の奥にあるような患者さんの場合だと、子宮を採卵の針が通るため痛みが強いですよとご説明することもあります」という。

治療を受けていると、こうした痛みを伴うシーンこそ、医師や看護師からの丁寧な説明があった方がありがたいと気付く。田口先生も「何をされているかわからないのは、恐怖心につながると思うんですよね。だから患者さんにはなるべく丁寧に説明するようにしています」という。

●●体の痛みよりも耐えられないのが......

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不妊治療にこうした「体の痛み」はつきものだが、それは決して耐えられないものではなかった。注射の痛みも採卵の恐怖も、いつしか慣れてしまったほどだ。

そもそも子供を出産するときには、自然分娩であれば相当な痛みが伴う。太古の昔からそれを重ねてきた女性の体は、不妊治療の痛みにも耐えられるようにできているのではないかとすら思った。田口先生も「痛みを伴う治療もありますが、だから治療を諦めますという人はいません。治療を諦める人はもっと別の理由、むしろ心の痛みのほうだと思います」と語る。

本当にそうなのだ! 苦労して通院して注射を何本も打たれ、そして手術台で意識を失って......こうした「体の痛み」はまだいい。耐えられないのは、それだけしても結果が出ず、高額の請求書だけが積み重なっていくという厳しい現実の方なのだ。

というわけで、次回はこうした不妊治療における「心の痛み」について書いていきたい。

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