イギリスのロイヤルウェディングで出される食事は、ただの豪華な食事ではない。
ユニバーシティー・カレッジ・オブ・ロンドンの食品人類学者カオリ・オコーナー氏は、入念に考えられたメニューには、「イギリス社会におけるロイヤルファミリーの立ち位置が反映されている」と言う。
「単なるグルメではありません。それはイギリスを食べる食事です。食事は象徴であり、深い意味の込められた儀式なのです」
映画『英国王のスピーチ』のモデルとなったアルバート王子が、エリザベス・ボーズ=ライアンさんと結婚したのは1923年。アルバート王子は次男だったが(後に、兄の退位によりジョージ6世として国王になる)、結婚式は豪華にとりおこなわれた。
これが結婚式で出された食事だ。
1923年 アルバート王子とエリザベス・ボーズ=ライアンさん
メニュー
ウィンザー・スープ
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メアリー女王のサーモン・シュプレーム
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アルバート皇太子のラムチョップ
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ストラスモア・チキン
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ハムとタンのゼリー固め
ロイヤルサラダ
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アスパラガスのムースソース
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エリザベス公爵夫人のストロベリー
バスケットに詰めた甘いお菓子
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デザート
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コーヒー
9種類の食事からなる豪華なメニューから、当時のイギリス人たちがロイヤルファミリーに何を求めていたかがわかる、とカオリ・オコーナー氏は述べる。
「この後に大恐慌が起こりますが、1923年当時、それはまだまだ先のことでした」
「イギリス社会は、ロイヤルファミリーの結婚式に『ショー』を求めていました。つまり豪華な食事です。これくらいやらないと、国民はがっかりしたでしょう」
一方、アルバート王子とエリザベス王妃の長女、エリザベス王女がフィリップ・マウントバッテンさんと結婚したのは1947年。「豪華なウェディング」の時代ではなかった。
戦後のイギリスでは、人々の生活は苦しく、食料配給が日常的だった。もし、結婚式で両親と同じような豪華な食事が出されていたら、王家は社会の期待を裏切ることになっていただろう、と歴史家のアニー・グレイ氏は述べる。
1947年 エリザベス王女とフィリップ・マウントバッテンさんの結婚式
メニュー
マウントバッテン風シタビラメ料理
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ウズラのキャセロール
サヤインゲン
ノワゼット風ポテト
ロイヤルサラダ
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エリザベス王女のアイスクリーム
お菓子
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デザート
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コーヒー
結婚式で出された食事は、「如才ないメニュー」だとグレイ氏は説明する。
ロイヤルファミリーは自分たちの農場や菜園を所持していたため、肉や野菜や果物の制限はなかった。
それでも、王室が社会の基準に沿っている、ということを示さなければいけなかった。グレイ氏はこう述べる。
「ウズラはとても賢い選択です。狩りで手に入れられるため、ウズラは制限されていませんでした。それに、広く狩りできる場所があるバルモラルでは、簡単に手に入れられました」
その一方で、「1万マイルケーキ」というニックネームで呼ばれた、9フィート(約2.7メートル)、4層のウェディングケーキは、寄付されたドライフルーツと砂糖とバターで作られた。厳しい戦後の配給事情を反映している。
それから約35年、エリザベスの息子、チャールズ皇太子がダイアナ・スペンサーさんに求婚した頃には、その質素さはなくなっていた。
彼らのウェディングは「世紀の結婚式」と呼ばれ、3500人以上の招待客が結婚式会場のセントポール大聖堂を埋め尽くした。
1981年 チャールズ皇太子とダイアナの結婚式
メニュー
ヒラメのクネル、ロブスターソース
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ダイアナ妃のチキンシュプレーム(子羊のムースを詰めた鶏の胸肉)
バター・ビーンズ
クリーム・コーン
新じゃが
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サラダ
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イチゴ
クロテッド・クリーム
フードライターで歴史家のアンジェラ・クラットンは、メニューには伝統と新しさの両方が含まれると述べる。
ロイヤルファミリーの名前がつけられたメニューが含まれているが、これはイギリスの王室や貴族社会の長く続く伝統であり、エリザベス女王とジョージ6世の結婚式でもみられた習慣だ。
そうすることで、「それ以前の結婚式と同じように、ロイヤルファミリーの伝統を継承した」とクラットン氏は述べる。
その一方で、料理の数は少なく、メニューも圧倒的にシンプルだ。それについてクラットン氏は「現代的な結婚式にしたいというふたりの意思が現れています」と説明する。
ダイアナ妃との結婚式に比べると、2005年にチャールズ皇太子がカミラ・パーカー・ボウルズさんと再婚した時の式はずっと控えめだった。
ウィンザー城のギルドホールで行われた結婚式に女王は出席せず、世界中7500万人が見守ったダイアナ妃との結婚式とはまるで別世界だった。
"人々の皇太子妃"と慕われたダイアナ妃が亡くなる前から、チャールズ皇太子はカミラさんと関係を持っていた。そのため、ふたりの再婚は世間の意見を二分した。
そういった背景もあり、ふたりはプライベートで目立たない結婚式を望んだ。それは食事にも反映されている。
2005年 チャールズ皇太子とカミラ・パーカー・ボウルズさんの結婚式
メニュー
サンドイッチ
卵とクレスの穀物パンサンドイッチ
スモークサーモンのブラウンブレッドサンドイッチ
ロースト鹿肉とバルモラルアカフサスグリとポートゼリーのホワイトブレッドサンドイッチ
オープンサンドイッチ
ロースト鹿肉とバルモラルアカフサスグリゼリーのサンドイッチ
瓶詰めシュリンプのブリッジロール
温かいカナッペ
ミニ・コーニッシュ・ペストリー
ミニ・ベジタリアン・ペストリー
グリル野菜のパルメザンタルト
小さいペストリー
カラメル・バナナ・スライス
ストロベリー・タルト
グレーズド・モカ・ファッジ
カラメルがけレモンタルト
プレーンスコーンとコーニッシュ・クロテッドクリーム、王室ストロベリージャム
湯煎したフルーツケーキ
ミニアイスクリームコーン
「ほぼ、カナッペと飲み物でした」と話すのは、ロイヤルファミリーの元執事で、ゲストとして結婚式に参加したグラント・ハロルド氏だ。
伝統的な結婚式の食事は着席式だが、チャールズ皇太子とカミラの結婚式の食事は、イギリス式のサンドイッチとスコーンとミニペストリーがビュッフェスタイルで提供された。
しかしハロルド氏は、「リラックスした雰囲気でした。とても素晴らしかった。ロイヤルファミリーのメンバーと話したすぐ後に、セレブリティと話せました。稀にみる良い会でした」と述べる。
ウィリアム王子とキャサリン・ミドルトンの2011年の結婚式は、新しいロイヤルファミリースタイルの誕生であり、食事メニューも現代的になった。
"親しみやすさ"を感じさせるふたりを、王室の評論家たちは「王室の堅苦しく、礼儀正しすぎるイメージをなくした」と賞賛した。
そんなふたりの結婚式で出された食事は、それまでと違ってイギリス色を強く打ち出したものだった。
2011年 ウィリアム王子とキャサリン・ミドルトンさん
メニュー
サウスウイストサーモンのマリネ漬け、ライム湾のカニ、ヘブリディーズアカザエビのフレッシュハーブサラダ
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ノースハイランド産の肉
オーガニックラム肉、ハイグローブの春野菜、イングリッシュ・アスパラガス、ジャージー・ロイヤル・ポテト、ウィンザーソース
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バークシャーハチミツのアイスクリーム3種類、シェリー酒のトリュフ、チョコレートパフェ
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コーヒーとフレッシュミントティー
それまで、ロイヤルファミリー結婚式のメニューは、フランス語で書かれていた。その伝統は、フランス語が法廷で使われる正式な言語になった、11世紀のノルマン征服までさかのぼる。
しかし、ふたりの結婚式の食事メニューは英語で書かれた。産地も細かく書かれている。それについて元執事のグラント氏は「ベスト・オブ・ブリティッシュを掲げる、現代的なメニュー」と述べる。
ヘンリー王子とメーガン・マークルさんの結婚式
注目を集めるのが、5月19日に結婚式を挙げる、ヘンリー王子とメーガン・マークルさんの食事だ。
「メーガンは、ロイヤルファミリーの花嫁としてはかなりユニークな人物です。アメリカ人で、離婚歴があり、混血で、俳優で、アクティビストですから」と王室評論家のリチャード・フィッツウィリアム氏は述べる。
5番目の王位継承者であるヘンリー王子とその花嫁の結婚式は、ウィリアム王子とキャサリン妃より自由に計画できる可能性が高いと、フィッツウィリアム氏は言う。
オコーナー氏は、それは食事にも反映されるだろうと考えている。
「メーガンは興味深いキャラクターです。彼女は食に対する意見を持っていることで知られ、体に良い食事に興味を持っている」
「それが、メニューにどう影響するかわかりませんが、食事にアメリカの要素が取り入れられることは容易に期待できるでしょう」
「ふたりにとって特別な意味を持つ、地域の料理や家族の好きな料理が出されるかもしれません」
ハフポストUK版の記事を翻訳しました。