絵本作家かこさとしさん、92歳で死去。「絵本の先生は川崎の子どもたち」と語っていた。

「どろぼうがっこう」「からすのパンやさん」はこうして生まれた。
かこさとしさん=2013年4月25日、神奈川県藤沢市
かこさとしさん=2013年4月25日、神奈川県藤沢市
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だるまちゃん」シリーズ、「からすのパンやさん」などの絵本で知られる作家、加古里子(かこ・さとし)さんが、5月2日に92歳で死去した。毎日新聞などが報じた。

福井県出身、1948年東大工学部卒。会社勤務の傍ら、川崎市の貧困地域でセツルメント(困窮者への奉仕支援)活動に参加、そこで子供向けの紙芝居を自作した体験から、絵本作家に転じる。

かこさんは、川崎で出会った子供たちが「絵本の先生」と、インタビューでよく話していた。

「川崎の工場で働く労働者の子ども――やんちゃで鼻たれの悪ガキだから、悪口を言ってくるかと思ったら、それは失礼だからと思うんでしょうね、だまって、すうっといなくなる。それで、ちゃんとまた戻ってくるから小憎らしい(笑)。というのは、『お前の下手な紙芝居よりもザリガニ釣りに行った方がよっぽど面白いんだ。その時間が勿体ないから行っちゃったんだ。それで十分遊んできたからまた戻ってきた』ということなんです。一言も言わないですけど、そういうことが分かります」

「かえってイナゴがどうやって飛ぶのかとか一生懸命見ているから、野性的で感性も鋭い。『これはちょっとただ口が開いているだけでつまんないや』とか『登場人物が口をウンと結んでいるのは、決意を表しているんだ』とか、ちゃんと見ている。だから、きちんと感情や内容を描いたものは、子どもに伝わるんです。それが分かって嬉しくなっちゃった(笑)」(2016年12月3日 文芸春秋Books)。

そのなかで生まれた紙芝居のひとつが「からすのパンやさん」だった。

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50代で緑内障を患いながらも、創作意欲は衰えず、600点を超す絵本、児童書を生み出してきたことでも知られる。

「子どもの興味はひとりひとり違います。全員にあわせた絵本は無理でも、ひとりひとりの好奇心や、知的な部分をのばしていける絵本を用意したい」(2015年5月14日、朝日新聞)と、創作の意欲を支えてきた。

かこさんは、子供をよく観察していた。

「川崎でセツルメント活動をしていた頃、子どもたちが遊びのなかで、ひどい悪さではないいたずら、いわばプチ悪をするのです。当時、悪いことをしたらいけない、良い子にしなくてはいけないと、いう戦後の指導が文化人の中にあった。ところが、子どもをよくみていると、そうではないのです。子どもというのはみな、善悪の全部を心得て生まれてくる子はいない。どんなりっぱな人の子でも。それを自分で摂取して、自分で判断して、良いと思う方向へいくわけです。ですから、ときには、悪いことも試みて、せっかく大人の人が築いてつくったものを壊してわーいわーいとはやしてみたり。それで大人が『こらー!』と怒ると逃げてって、最初は面白がるのでしょうけども、そのうちに、それだけやっていてはだめだと自分で考えるのです。大人に怒られるのも不愉快なので、そういうことをやめて、自分のやりたいことでまわりの人にも喜ばれるものを、と自分で選んでいく訳です」偕成社サイト「かこさとしおはなしの絵本」より)

この視点から、「どろぼうがっこう」が生まれた。

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「どろぼうなんてしてはいけないのは、それは当然のことなのです。でも遊びの中で、泥棒巡査に分かれて遊ぶ『どろけい』というのがあるのですけど、これが日本だけではなくて、調べたら外国でも必ずあるのですよ。しかも、日本と同じで全世界でいえることは、子どもたちは最初みんなどろぼうになりたがる。最初から警察官になりたい子はいない。そのほうが自由があって、面白いからです。警察官は、ただ追っかけてるだけだもの。で、警察官の悪口をいったりする。子どもの成長の過程のひとつです。だから、このどろぼうも一つの物語にしてやろうと。どろぼうにも、どろぼうにならなくてはいけない理由があったとか、そこまでは深入りしないで、演劇でいうと、笑劇、ファースといいますが、子どもさん向けのファースにしようと思った」(偕成社サイト「かこさとしおはなしの絵本より」)

長年の子供とのつきあいから生まれたユニークな視点から、子育てに悩む親へのエールも送った。

「親が早く帰って、子どもを着替えさせたり、色々なことをしてあげる必要はない。子どもは子どもなりに考えて、どろんこになって遊んで帰ってきたとしても、『このまま家に上がると親が帰ってきたときに怒られるから、足を洗っておくか』『足を洗うついでに水をくんでやろう』となるんです。そういう子どもの成長を大事にしてあげて、『いいことをやっているね』とそのときにちょっと褒めてあげればいいんです」

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「親御さんだって一生懸命頑張っていることを、子どもに『おまえのために頑張っているんだよ』とわざわざ説教する必要なんてないんですよ。『ああ、くたびれた』と帰ってくれば『ああ、かわいそうに』と子どものほうが思う。その感受性をだんだん伸ばしていくことです。そうやって成長していけるのが子どものいいところだと思う。最初から教えなければ何もできない、そんな生き物じゃないんですよ。人間は成長とともに、社会性をどんどん身に付けていく生物なんです。そこが素晴らしい」

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