「報道機関にも記者を守る責任がある」福田財務次官のセクハラ疑惑、寺町弁護士が指摘

「強者が弱者に無理を押しつけるという意味で、極めて『暴力的』な選択をいま、女性記者に強いている」
寺町東子弁護士
寺町東子弁護士
本人提供

4月12日発売の「週刊新潮」が報じた福田淳一・財務省事務次官のセクハラ疑惑を巡り、財務省は16日、福田次官の聴取結果を公表すると同時に、福田次官本人の聴取内容だけでなく、該当する女性記者からの調査協力を財務省の記者クラブに求めた。

女性記者本人からの申告を求めている財務省の対応について、弁護士の寺町東子さんは、「セクハラを申告した記者個人を矢面にたたせることになる」と指摘。同時に、組織として対応しない報道機関の「安全配慮義務違反」を指摘する。

■財務省の対応について

政治家や官僚からのセクハラは、絡んでくるのをむげにして、記者の求める「情報」をもらえなくなったら仕事にならない、だから記者は抵抗できないだろうという「弱味」につけこめるという構造があります。

確かに福田次官のセクハラ疑惑の真偽の確認、事実認定は必要です。ですが、女性記者からの名乗りを求めるようなことはきわめて問題です。

もし、女性記者がこのまま名乗りでなければ、福田次官のセクハラ疑惑は「なかったこと」にされますし、名乗ったら名乗ったで矢面に立たされ、今後の職業生命に関わるような事態になる。強者が弱者に無理を押しつけるという意味で、極めて「暴力的」な選択をいま、女性記者に強いているといえます。

また、調査方法としても、財務省の言い方で「外部の弁護士」が情報提供者を特定する情報を財務省に伝えない、という確約・担保がなく、このような情報提供者を保護しない枠組みでの「調査」をもって、名乗り出る者が居なければ事実認定できない、という麻生大臣の発言は、セクハラ疑惑に対処しないと言う結論ありきだと思います。

また、こうした性的な発言をも受け入れることへの「対価」として握られている情報は、本来は国の情報であり、国民の情報なのだという問題を忘れてはなりません。こうしたことが二度と起きないよう、政府の内部規律を見直す、などの対応が必要だと思います。

■報道機関の対応は

また、対応のまずさは、女性記者が所属する報道機関にもいえます。社員である記者に対する安全配慮義務として、取材対象者からのセクハラやパワハラなどの嫌がらせや暴力に対し、会社としてしかるべき対応をとる義務を負っています。

今回の件でいうなら、会社として、あるいは、業界団体(日本新聞協会)として、まず内部調査を実施し、福田次官によるセクハラの事実の有無を把握してほしい。その上で、事実が認定できるのなら、会社として、あるいは、新聞協会として政府や財務省に抗議し、対処を求める必要があります。

そして、今後の政治家及び官僚が取材に対応する際のガイドラインなど、なんらかの改善策をつくるよう、社として、あるいは新聞協会として、求めていく必要があります。

いずれにしろ、報道機関は、社員である女性記者がセクハラを受けたと申告しても、今のように矢面に立たせるような事態を何もせずに見ているのだとしたら、安全配慮義務違反です。

早急に、組織的に対処すべきです。

■私たちができること

事務次官がセクハラを告発された財務省が、当事者である事務次官に肩入れするような形で、セクハラ被害を申告する者をあぶり出すような調査手法をとることは、極めて遺憾です。

セクハラは公益通報者保護法の対象ではありませんが、今回の件は、事務次官によるセクハラという違法行為の告発で、公益性の高い案件です。従って、公益通報制度に準ずる中立性・公正性が担保された手続きで、調査をするべきです。その際、一番重要なことは、通報者の個人情報の保護です。財務省の対応は、消費者庁が民間事業者向けに出している内部通報制度のガイドラインにも抵触するものです。

私たち国民も、被害を申告した人を孤立させないために、声を上げる必要があるのではないでしょうか。

現在、ネット署名サイト「Change.org」で、財務省に「セクハラ告発の女性に名乗り出ることを求める調査方法を撤回してください!!」と求める署名活動が展開されています。

寺町東子(てらまち とうこ)

弁護士、社会福祉士、保育士。「一般社団法人子ども安全計画研究所」などで、教育・保育施設での重大事故防止の活動を続けている。著書に「子どもがすくすく育つ幼稚園・保育園 ~教育・環境・安全の見方、付き合い方まで」(共著・5月発刊予定)

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