政府が検討している「海賊版サイトへのアクセス遮断」について4月11日、各団体から反対声明が相次いだ。
著作権を無視して漫画やアニメを掲載する「海賊版サイト」へのアクセス遮断について、政府は3サイトへのアクセス遮断をプロバイダーに要請する方向で調整に入ったと、毎日新聞などが報じている。
大学教授や専門家による研究機関「情報法制研究所」が11日、プロバイダーへの要請に反対する緊急提言を出した。これとタイミングを合わせる形で、ネット関連の3団体が声明を発表した。
児童ポルノ画像の流通阻止を目指すインターネットコンテンツセーフティ協会(ICSA)と、携帯電話上で青少年を有害サイトから守るモバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)。それに、津田大介さんが代表理事を務めるインターネットユーザー協会(MIAU)だ。
ICSAは「憲法が禁じる検閲にあたる」、EMAは「諸外国にも例がない」 、MIAUは「我が国の未来に禍根を残す」として、政府に再検討を求めた。
■インターネットコンテンツセーフティ協会(ICSA)の声明
<著作権侵害サイトへの対策として立法プロセスを経ずブロッキング施策を要請することについて>
インターネット上の海賊版サイトの問題について、政府がインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)に対して「ブロッキング」によるアクセス遮断措置を要請する検討をしていることが報じられています。
漫画をはじめとした日本の優良なコンテンツ文化を保護育成して行く上で、海賊版サイトは許しがたく、海賊版サイト対策が必要であるということは通信業界においても共通の認識です。
ブロッキングは、権利侵害行為と一切関わりのない人を含めて、すべての利用者の通信の宛先を監視することを前提とするものです。
これは国民の憲法上の権利でもある通信の秘密を侵害するものであり、ISPがこれを行うことは原則として電気通信事業法に違反する行為です。
海賊版サイトのような違法な情報流通に対しては、削除や発信者の検挙など、違法行為を行う者への対応を行うべきで、受信者側の通信の秘密を害する方法は簡単に考えるべきではありません。
わが国における唯一のブロッキング実施例である児童ポルノ画像のブロッキングは、刑法上の「緊急避難」として実施可能なものとされています。
これについては、児童の権利と国民の通信の秘密の関係、他に取りうる手段の有無などについて、政府と被害者保護団体だけでなく、憲法、刑法などの専門家はもちろん、ISPも多数参加し、慎重に議論を積み重ねた上で、児童の人格権侵害の重大性など、児童ポルノ特有の事情を根拠に「緊急避難」としての法的整理が行われたものであり、その間、児童に対する重大な権利侵害が継続していたにもかかわらず、少なくとも2009年から実際に実施に至る2011年まで数年の時間をかけています。
今回、政府は海賊版サイトのブロッキングを、児童ポルノと同じ「緊急避難」と位置づけて要請すると報道されています。
児童ポルノのときのような慎重なプロセスを飛ばして、著作権権利者団体と政府のみで拙速に結論を決めている点を深く憂慮致します。
また報道では、いくつかのサイトを政府が指定してブロッキングを要請するとされていますが、政府(行政権)がサイトの違法性を認定してブロッキングを要請する行為は、憲法が禁じる検閲にあたるおそれのある行為であり諸外国にも例がありません。
先行実施国におけるブロッキングは、いずれも法律または裁判所の命令に基づき行われていることと比較すれば、法治国家としてのわが国の信頼を揺るがしかねないものと懸念されます。
また、政府が簡単な手続きで特定の情報を「違法」と認定してブロッキングを要請し、それを受けた事業者が「自主的に」ブロッキングを実施する仕組みは、今後の他の情報(例えば政府への批判デモを呼びかける情報など)にも拡大するのではないかとの懸念を生じさせ、そうなれば国民の政府に対する信頼を著しく損なうものとなります。
海賊版サイトは、あくまでも発信者への責任の追及や発信に利用されているサイトの閉鎖によるべきであり、仮にブロッキングという国民の権利に直接関係する手法を検討するのであれば、立法に向けた十分な議論がなされるべきです。
■モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)の声明
<ブロッキング要請に対する意見書>
インターネット上の漫画海賊版サイトの問題について、政府がインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)に対して「サイトブロッキング」によるアクセス遮断措置を要請する検討をしていることが報じられています。
漫画をはじめとした我が国の優良なコンテンツ文化を保護育成して行く上では、違法海賊版サイトの対策は重要であるということは理解します。
しかしながら、サイトブロッキングは、権利侵害行為と一切関わりのない人を含めて、すべての利用者の通信の宛先を監視し、アクセスを遮断するもので、憲法上の権利でもある通信の秘密及び国民の表現の自由、知る権利を侵害する可能性があります。
政府は海賊版サイトのブロッキングを刑法上の「緊急避難」と位置づけて実施を要請するとされていますが、法的に緊急避難の要件を満たすとも考えられず、通信の秘密の例外にできる正当な理由はありません。
我が国における唯一のブロッキング実施例である児童ポルノのブロッキングは、児童の権利と国民の通信の秘密の関係、他に取りうる手段の有無などについて慎重に検討したうえ、児童の人格権侵害の重大性など、児童ポルノ特有の事情を根拠に緊急避難が成立しうるとの整理により実施されたものですが、かかる整理は、著作権のような財産的損害にまで適用されるものではありません。
違法な情報流通に対しては、削除や発信者の検挙など、違法行為を行う者への対応を行うべきで、受信者側の通信の秘密を害する方法は簡単に考えるべきではありません。
また報道では、いくつかのサイトを政府が指定してサイトブロッキングを要請するとされていますが、政府(行政権)がサイトの違法性を認定してサイトブロッキングを要請する行為は、事実上の検閲を要請するものであり、諸外国にも例がありません。
先行実施国におけるサイトブロッキングは、いずれも法律または裁判所の命令に基づき行われています。
国民に広く影響を与えるサイトブロッキングのような行為を行政権がきちんと広く議論を行うことなく、実施を要請するようなことは法の支配の観点から見てもとても容認できないものと考えます。
EMAとしては、従来、ネット上の表現の自由・知る権利を確保しつつ、ネット上での青少年の保護に取り組んできました。
今回の要請で想定されているDNSブロッキングの手法によれば、小中学生などが不用意な回避行動をした結果、偽DNSに接続するなど、セキュリティ上の危険が生じることがある可能性も懸念されており、上記のような不適切な方法によって実施されたサイトブロッキングにより、青少年が被害に合うようなことは避けるべきことです。
無許諾の著作物を無料で閲覧可能にするようなサイトはセキュリティ上も問題であるため、今回問題とされているサイトは、既にフィルタリングの対象とされています。
とすれば、フィルタリングを広く普及させることが、ネット上の青少年の安全の確保に資すると共に、著作権者の利益を守ることに資するとEMAとしては考えています。
■インターネットユーザー協会(MIAU)の声明(※主婦連合会との連盟で発表)
<政府による海賊版サイトへのブロッキング要請に反対する緊急声明>
インターネット上で著作物を違法に配布する海賊版サイトへの対策として、政府がアクセス遮断措置(以下ブロッキング)を検討していることが報じられています。
私たちはインターネット利用者の利益を著しく損なうこの検討を強く憂慮し、その実施に強く反対します。
■政府による情報遮断の典型例に
特定サイトへのアクセスを政府からの要請でISP(インターネットサービスプロバイダ)に遮断させるブロッキングは、全ての通信を監視し特定サイトへのアクセスを選別する手法以外では実現されません。これは国民の憲法上の権利である通信の秘密を侵害し、電気通信事業法とも齟齬を来たします。
2011年の児童ポルノのブロッキングに関する決定では、通信の秘密の観点からも深く議論され、「通信の秘密は侵害するが被害児童の人権を守る他の手段がない場合は緊急避難の法理で違法性は無い」と判断され児童ポルノサイトのブロッキングが導入されました。
しかし、今回検討されている著作物の違法アップロードサイトが毀損する権利は財産権であり、直ちに生命や身体に関わらない財産権保護のために緊急避難を違法性阻却事由としてブロッキングを実施するのは不適当であると多数の法曹関係者から指摘されています。
さらに現在検討されているブロッキングの遮断対象は、立法ではなく、国会審議も経ず、与党内の同意のみで、内閣が閣議決定し、政府の独断で選定されたものです。これは憲法で禁じられた通信の秘密の侵害はもちろん、同じく憲法で禁止された検閲行為につながるものであり、言論の自由にも大きな影響を与えます。
「人々に悪影響を及ぼす」という政府の独断のみで、国民の検証プロセスも経ないまま情報を遮断する手続きは、民主主義を掲げ表現の自由を尊び、知財大国として世界をリードしようとする我が国において、決して許されるものではありません。
■時代に合わない技術と消費者への危険性
ブロッキングは、新技術の開発や普及により効果が限定的になりつつあります。2018年の現在では常時暗号通信(HTTPS)が一般化し、正当性を確認するDNSSECの普及も進みました。
DNSによるブロッキングは15年近く前に開発され、技術的な有効性には当時から疑義が示されていました。2018年に打ち出す対策としてはそもそも時代遅れではないでしょうか。
加えて海外のDNSを利用するスマホアプリなどが配信されてしまえば、国内のISPにブロッキングを要請しても完全に無意味なものとなるでしょう。
ブロッキングの迂回が習慣化した場合、悪意あるDNSサーバをユーザーに設定させることで中間者攻撃を行うサイバー犯罪が増加する可能性があります。
これは全消費者、特に未成年者を、これまでにないサイバー犯罪リスクの元に置くことになります。
■ブロッキングは海賊版対策の先送り
最大の問題は、これだけの法的・技術的・社会的リスクを犯してブロッキングを行なったとしても、大元の海賊版サイトが消えるわけでも著作権者の財産権が回復されるわけでもないことです。
私たちは、海賊版サイトを容認するために、この政策の危険性を指摘しているわけではありません。『漫画村』を代表とする海賊版サイトは、著作権侵害のみならず、詐欺サイトへの誘導やマルウェアの脅威など、消費者を様々な危険に晒します。
『漫画村』のような悪意あるサービスの撲滅には、まずは適切な司法手続が必要です。
そして、クリエイターへの適切な対価の還元やコンテンツへの多様なユーザーニーズに合わせたサービスを積極的に開発していくことが、こうした海賊版サイトの最終的な撲滅へとつながる王道の道筋でしょう。
この問題の最終的な解決には、権利者団体だけでなく、IT業界から消費者団体までさまざまなステークホルダーが協力しあわねばなりません。
我が国の未来に禍根を残すようなブロッキングの導入は回避するべきです。