現行のセンター試験は2020年に廃止され、後継の「大学入試共通テスト」が導入されることが決まっている。この制度変更は何が目的で、どのように変わるのか。また、入試改革の影響を受ける学生にはどのような影響があるのか。ベネッセコーポレーションの藤井雅徳氏に聞いた。(取材・執筆/末吉陽子、編集/清談社)
センター試験廃止後は国語と数学に記述問題が入る!
センター試験の廃止と新試験導入は、高校教育を、ひたすら知識を詰め込む「目的や意味を見出せない苦学」から、実社会とつながりがある学びに変える
2020年から新たに導入される「大学入試共通テスト」。大学受験情報や学校改革、米国のトップ大学などの動向に精通する藤井氏は、その目的について次のように語る。
「文部科学省(以下、文科省)では、『学力の三要素を大学入試で評価する』という方針を掲げています。『知識・理論』、『思考力・判断力・表現力』、そして『主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)』の3つです。これまでの筆記試験では、評価できる領域が『知識・理論』『思考力・判断力・表現力』に留まっていました」(藤井氏、以下同)
「3つ目の『主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)』については、学力試験では評価が難しいこともあって検討が重ねられてきました。そこで、大学入試共通テストでは、多面的かつ総合的に評価する入試に変えていこうという目的のもと、まず20年にはマーク式だけではなく、国語と数学に記述を入れることが決まりました。これは大きな変化だと思います」
試験に記述問題が入るだけで、そこまで変わるのか疑問に感じるかもしれない。しかし、記述問題の存在が高校の授業内容にも影響を及ぼし、ひいては学びのあり方を変えることにもなるという。
「これまでの選択式試験のみの入試だと、限られた選択肢から正解を導いていくというような能力しか測れませんでした。つまり問題文の内容と選択肢を吟味して、答えを絞り込んでいくプロセスです。一方、記述試験は、自分で答えの構成を練り、推敲して、解答に落とすという作業が入ります。これは、実社会で言えばEメールや企画書などを作成する際に求められる能力に近いと思います。採点ミスが増えるのではといった懸念も聞かれますが、受験勉強を社会に出た後にも役立つものにするという観点では、良い方向性ではないでしょうか」
英語試験には新たに「書く」、「話す」が入る
国語と数学に記述問題が入ることで、勉強する内容にも次のような幅が出るという。
「国立大学の個別試験は、前期・後期ともに記述です。ただし、旧帝大受験者を除き、ほとんどは文系理系で記述試験の内容が絞られます。文系志望の生徒は、経済学部など一部を除き、数学を記述で解く試験は、ほぼありません。理系も同様で国語の記述を勉強している人はいないでしょう。文系の生徒に数学を記述で解かせる、また理系の生徒に国語で書く力を求めるというのは大きな変化です」
さらに、英語試験でもインパクト大な改革が決まっている。
「英語については外部検定試験の活用が決定しています。これまでの『リーディング』『リスニング』に加えて、『ライティング』『スピーキング』の4技能が試されます。これまで大学受験の勉強で、自分の考えを人に伝える学びというのは、あまり求められてこなかったのですが、英語のライティングとスピーキングでは、自分の意見をしっかり持って、人にきちんと伝える技能が求められることになります。相手の立場に立って自分の考えを分かりやすく述べるというのも、実社会で求められている能力です」
新制度に合わせて、高校教育以前の学びにも変化が求められている。現役生としては、18年4月に高校1年生になる生徒が、大学入試共通テストをはじめて受験をする年代とあって、現場でも試行錯誤が続いているという。
「17年には約1200校の管理職の高校教諭と会話しましたが、英語教育やICT端末を使った新しい学びをはじめ、探究学習という20年をにらんだ授業も広まっているようです。これをわかりやすく例えると、高校生の間に論文を1本書き上げるというような取り組みで、公立校ではスーパーサイエンススクール約200校、スーパーグローバルハイスクール約120校では、ほぼ普及しています。中には、論文を書くだけではなく、英語でプレゼンテーションするところまで引き上げている高校もあります」
論文を書くという行為を通して、いま学んでいることが社会でどのようにつながっているのかをイメージさせることで、学ぶ意欲の向上にもつながるという。
「論文を書くうえでは多様な知識が求められます。たとえば、ロボットについて考察しようと思えば、プログラミングが必要で、いま勉強している数学や物理が基礎になるということが分かります。ただ単に方程式を解き続けていても、数学が何の役に立つのか、どんな意味があるのかが分かりにくければ、受験勉強のモチベーションも上がりません。英語もしかりで、語学はコミュニケーションツールであって、大事なのは伝える中身。受験勉強を通して、このことに気づく機会が増えるのではないかと思います」
一方的に聞く授業は消滅へ 受け身型人材は減っていく
大学入試共通テストをにらんで、高校では教える内容がさらに高度になり、詰め込むべき知識もさらに増えていくという。ただし、「目的や意味を見出せない苦学」ではなく、実社会とつながりがある学びである。「勉強したことが社会でこう繋がっていくんだという実感によって、学びに対して積極的になることが期待できます」と藤井氏。このような受験勉強を経ることで、どのような人材が増えていくと考えられるのだろうか。
「入試改革にともない、高校の授業もいわゆる双方向的なアクティブラーニング型、つまりインプットとアウトプットの両方を訓練することになります。従来のレクチャー型だと、受け身の生徒が増え、教師も本当に理解しているのか把握しにくいという欠点があります。しかし、制度設計から考察すると、これからは主体的に頭を使えるように鍛えられるので、自ら考え、機会を創出しながら仕事に取り組む人材が増えることが予想されます」
こうした人材をどのように活かしていくのか、受け入れ側の企業にも、意識改革が求められるという。
「一芸に秀でていたり、活発に意見を述べたりと、多様な人材が増えていくと思います。そのため、学歴重視に偏るのではなく、これまで以上に、自分たちが求める人材をしっかりと選別すること、そしてターゲットとなる学生にメッセージがしっかりと届くようにリクルーティングする技術が問われてくると思います」
「また、これまでは1つのことを実直に積み上げる力があり、ストレス耐性もある人材が優秀とされてきましたが、これからはイノベーションが求められる時代です。そのため、新しいことに頭を突っ込んで色々な人と積極的に繋がって、ワイワイ楽しく生きている学生の方が優秀だと定義されるようになると思います」
戦後最大の教育改革だと言われる20年の大学共通入試テスト。さらにその先には、学習指導要領の改革が控えており、21年度からは、中学の英語授業は原則すべて英語で教えることになるなど、大きな改革が控えている。目まぐるしく世界が変わる中、この入試改革が日本の未来をどう変えていくのか、教育現場の力量が問われている。
(末吉陽子)
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