3月4日、ハリウッドのアカデミー賞授賞式で、プレゼンターを務めた俳優のティファニー・ハディッシュとマーヤ・ルドルフは、ドレスに素足とスリッパといういでたちで現れた。手には1分でも履くのが辛そうなハイヒール。そして一言、「ヒールに疲れちゃった」。
自分の足を無理やりはめ込むハイヒールの束縛から、解放されたい。世界中が注目する舞台からそんなメッセージを送った彼女たちは、多くの支持を受けた。
では、一人ひとりの足を肯定してくれるようなハイヒールがあったらどうだろう。
それを実現しようとしている人がいる。木型師・五十石紀子(いそいし・のりこ)さん(35)。靴の原型になる模型(木型)を作る木型師として、神戸の靴会社のブランド「gauge」(ゲージ)の中心メンバーとしてハイヒール作りに打ち込んでいる。
履きやすさを追求する木型師が、対極にあるようなハイヒールにこだわるのはなぜか。理由を聞いた。
「gauge」の特徴は、足のサイズのバリエーションの豊富さだ。幅、長さだけでなく、よりその人の足にフィットさせるために「振り角」という足外側のカーブにも着目。木型360個を用意し、足形のスキャンなどで最も合うサイズを見つけ出す。人によっては左右別々のサイズになることもある。これを基本に、パーツごとの色を掛け合わせると138万通りの靴ができる、と謳う。
2016年から百貨店の催事などで販売してきた。2週間で100足が売れるなど、手応えを感じた五十石さんは2018年、顧客を増やすためにクラウドファンディングで資金提供を呼びかけた。すると目標額(30万円)の14倍を超す433万円が集まっている(4月3日時点)。
「20代のお客さんは3万5000円のハイヒールは高いという人もいますが、30代後半の方はむしろ安いといってくれます。毎日使えて、かつ足の痛みから解放してくれる靴なら3足買うよ、という方もいます。自分にしっかり投資しようとしている人には響く靴だと思います」
丁寧な分だけ接客の時間も長くなり、木型の製造も増える。だが、五十石さんはいまの時代だからこそ、手間をかけたほうがいいと確信しているという。
「靴業界全体が衰退している状況で、安値の商品を大量に作っていくだけでは、正直もう厳しい状況になってきています。例えば『マルイ』のように、小さいサイズから大きいサイズまで扱っています、というプラスアルファがないと、売れなくなってきている。大変だけど、ひと手間加えて靴を作ることで先が開けてくると思っています。実際そういう手間を柔軟に受け入れられるメーカーは強いと思います」
gaugeは9センチのヒールも扱う。履きやすさと美しさは両立できるのだろうか。五十石さんは、木型師だからこそ同時に両方を追求できる、という。
「やっぱり両方を兼ね備えたものを作りたい、という思いはあります。履きやすくて、歩きやすいパンプスは今、結構あるんです。でも、どれもちょっとどんくさいというか、足にいいもの、にしようとするほど足に近い形になって、ちょっと丸かったり大きかったりします。ただ、ファッションは見た目や形で履く人のテンションが上がる部分もあると思うので、そこは大事にしたい」
「9センチヒールっていうのは、作る側からすれば、すごく攻めている形ではあるとは思いますね。つま先が短くて、とがっている感じの美しいフォームを作りつつも、足がしっかり入っているという安定感を生み出すのは至難の業です。ただそこが木型師の腕の見せどころ、挑戦でもあります。売りたいというよりは、挑戦したいんです。」
「でも、やっぱりハイヒールはハイヒールなんですよね。形も尖っているし、少なくともこんな狭いスペースに、この足の長さを入れること自体、しんどいです。走れますとか、履いていないような履き心地とか、そんなことはありえません、とお伝えしています。でも従来のものより、サイズが足形により近い分、それまで2時間しか履けなかったものが、倍の4、5時間履けるかもしれないという、その期待で買ってもらっています」
五十石さん自身、木型師になる前は、求人広告の代理店の営業として毎日、ハイヒールを履いて歩き回る生活を送っていたこともある。
「私もすごく足の形に悩んでいて、かかとが小さかったり、どのサイズを履いても痛いなと思ったりしていました。
でもここぞ、というときは、やっぱりヒールを履いた時もありました。今思うと、気持ちを無理矢理にでもグッと上げてくれるツールだったなと思います。
スーツを着て、高いヒールを履くだけで、ちょっといつもと違って、疲れていてもちょっと頑張れるようになるとか、チラッとどこかの町の窓に映ったときにテンションが上がるとか、どこかエンターテイメントみたいなところはあるとは思うんですよね」
自分の足を好きになれる靴。自分を肯定できる靴。五十石さんが目指すのは、そんなハイヒールなのだという。
「靴のサイズに合わせるという概念から、もう少し抜けて出してほしい。私が決める、私の美しさなんです」
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