仕事は好きではなかった。母も専業主婦だった。
だから結婚して、2、3年で辞めると思っていた。
20代でキャリアを歩み始めた時のことを、大手外資系IT企業・デルの常務執行役員、山田千代子さんはそうふり返る。
まだまだ日本の女性管理職は13%(労働力調査)にとどまる。一度は会社を辞めて専業主婦になった山田さんは、なぜ再び働きはじめ、どのようにしてマネージメント職についたのだろう?
外資系といえば女性活躍の制度が整い、働いている人も「先進的だ」というイメージがある。だが、山田さん自身も「自分の中にある男女差別」に気づいた瞬間があったというーー。
「結婚して、2、3年経って貯金ができたら辞めるのかな」
——入社した当初から、今の会社で働き続けると思っていたのでしょうか。
いえ、全くないです。そんなに仕事も好きではなかったですし、働き続けられると思ってなかった。それほど能力があると思わなかったです。どちらかというと結婚して、2、3年経って貯金ができたら辞めるのかなって。
実際、1回辞めてます。
——え、どのタイミングで辞められたんですか。
入社してすぐ2年ぐらい働いて辞めて、それで戻ってきて今24年目。1回辞めたので、長続きしたのはあると思うんですよね。
私の母も専業主婦でしたし、夫のお母さんも専業主婦だったので、そういう働き続けられる人は特別な人で、公務員とか先生とか、ものすごく能力が高い人だけで、あとは普通に少し勤めたら辞めるのかなと思っていたんです。
それで1回辞めてみたら、(ライフスタイルが)合っていませんでした。自分では全く気が付かなかったんですけど、うちの夫が帰ってきて「ちょっと話がある」と。
離婚かと思ったんですけど(笑)、夫は「働き続けたほうがいい人もいるのかもしれない」と。「もしかしたら働いたほうが、楽しいのかもしれないね」という話でした。
言われてみればそうかもしれないくらいの気持ちで、また働きだしたんです。
——復職されたのは、それから間もなく?
2カ月後ですね。もちろん復職できると思ってなかったです。
いろいろなところを探して、知り合いから、「ここを受けてみないか」って話がきたのが、今の会社と競合関係にある企業だったんです。辞めるときに盛大にいろいろ祝ってもらったので一応、(今の会社に)電話をしたんですね。
「次の会社は競合になってしまうけれども、一度辞めてみたら働いているほうが向いていたので一応言っておきます」と伝えたら、「ちょっと待って」と言われて。30分ぐらい保留にされて、「人事が、『戻ってきていい』と言っている」と。
当時は一度辞めたら戻れないものだと思っていたので、うれしかったですね。辞める前は営業アシスタントでしたが、戻ってきたときに営業になりました
出産後、復職。マネージャーとして気づいたこと
——以前、育児と家事の両立について、「両立という考えすら持っていませんでした」とお話されていて印象的でした。出産されたのは、どのタイミングでしたか?
戻ってきて7年くらい経ってから、マネージャーになったぐらいでした。
これまでは「1」をやっていたものに、新しく育児とかが加わって「3」になったときに、初めから「全部完ぺき」は無理と思ったんですね。両立するというよりも、バランスを取る。
どんなに忙しくても、子供をお風呂にちゃんと入れるとか。洗濯をした清潔な服を着せるのは絶対ですけど、どうせ汚すし、シワだらけだって別にいいじゃないとか。
今は、子供も大きくなって戦力になっているんです。「あれたたんでおいて」とか、「これ干しておいて」とか頼めますから。
——子育ては、どんな工夫をされましたか?
(子供と)接する時間が短いと気にするお母さんもいますが、保育園の先生に相談したところ、長く一緒にいれば良いというものではないそうです。子供が「ねえねえ」と言うときに、書き物をしてたりテレビを観てたりしていると何十時間一緒にいても、子供は満たされない。
働いているお母さんは、30分間、イヤというほど子供付き合うといいんだそうです。そうすると子供のほうから「もう結構」というサインを出してくる(笑)。
本当に1人で遊びだすんですよ。帰ると30分メチャメチャ構いまくる。そうすると、もうハイハイしてどこか行っちゃいます。子供はもう大きいですけど、今でも守ってますね。
自分の中の男女差別に気づいた上司の言葉
——今、企業でも女性管理職を増やそうとしていますが、女性側も管理職に対する意識が追いついてない部分があると思います。山田さんも当時そういうことを感じましたか?
初めは私も、どちらかというとインディビジュアル・コントリビューター(個人で貢献する人)でした。営業が好きだったので、「自分で営業して稼ぎたい」という思いが強くて、「人を見ていく」ところは興味がなかったんです。
でも考えてみれば、インディビジュアル・コントリビューターで長くやっていくのは結構大変なんですよ。年を取れば記憶力も衰えてきますし、新しい技術をキャッチする力も下がっていく。
逆に上がっていくのは人間力で、やっぱり若い人にはない包容力や判断力がついてくるので、それを活かすのは、グループを統括するとかそういう仕事だと思います。
心理的な抵抗があるのはよくわかります。私も「とてもじゃないけれども、そんなところまでできないです。向いてないです」と思っていました。
——何か変わるきっかけはありましたか?
マネージャーになる前の頃に、一年度の評価があったんですね。当時、デルの場合は、1〜5の5段階で、1が一番いい。いろいろな項目があって、「結果が出せる」3が普通で、「非常によく出せる」場合は1。ちょっと足りないと4か5でした。
評価項目はいろいろあるんですけれど、当時はジュニアで目標も低かったですから、ほとんど1だったんですね。でも、1つだけ「マネージャーとして人を統率する力がある」が最低評価の5だったんですよ。
——どう思いましたか?
上司がどういう思いで評価したのかわからないんですけど、そのときは、ちょっと不服だなと思いながら、「人を統括する立場にはなれないだろうし、なりたいとも思ってないから別にいいや」ぐらいに思っていました。
そしたら、上司の上司が再評価するセッションがあって、「山田さん、この5どう思う?」と聞かれたんです。
「当然の評価だと思いますよ」と言ったら、「そう?」と。「やらせてもいないのに、5つけられているんだよ。やってもいないのに断定されてるけど、それでいいの?」と言われて、「いや、でも、そういうのになれないし」と答えたんです。
「なんで、どうしてそう思うの?」と聞かれて、「女性だから」と言ったら、「あなた自分で自分自身を男女差別してるんだね。女性だからマネージャーなんかできやしないと思ってるんだ」と言われたんです。
——男女差別、ストレートな言葉ですね。
「僕はちょっと違和感があった」と。「この5おかしいよ。あなたにマネージャー職なんか誰もやらせてないのに、5と断定されてなんとも思わないの」と言われました。
やっぱり私にとっては大きな一言で、その後自分がマネージャーになったとき、「絶対やらせてもないことで低い評価をつけるのはやめよう」と思いました。なぜならば本当にわからないから。
自分で偏見を持って、「この人は女性だからできないだろう」とか「若いからできないだろう」とか「入ったばかりだから無理だろう」というのは絶対やめようと思いました。
どうしてもマネージャー職とか人を統括するのは、少し違うポジションのように思ってしまうんですけど、ただの職業のひとつだと思います。
ただの仕事の内容が違う、職種が違うだけなので、やってみたらって思います。やって合わないんだったら、また違うことを選択すればいいと思うんですね。
日本社会で、女性の営業職が向き合った現実
——今ふり返って、「あの時はつらかった」時期はありましたか?
まだ古い時代だったので、営業を初めた4〜5年は大変でしたね。
例えば、訪問するときに「営業の山田が行きます」と言っても、「女性の山田がいきます」とは言わないですよね。そうすると、私が行くと向こうがびっくりしちゃうんです。
それだけで済めばいいんですけど、露骨に「ちょっと緊急の用事が」と言って、5人ぐらい揃っていたのに、一番若い子を1人残して全員退席することもありました。
当時は、高い商品やITを女性が売ることは珍しくて違和感があったんだと思います。
トラブルになると「だから女の営業はダメなんだよ」と何度も言われましたね。あとは「短いスカートはいてきたら買ってやるのに」とか。そういう時代だったんです。
——どう乗り越えたのでしょうか。
父親の話を聞いてから、気持ちが変わりました。「どうだ?」と聞かれて、「女性だと...」と話したときに、「そういうのはいる。ただ客観的に見ると、だいたいそういうこと言うやつは大したことないな」って言ってくれたんですよ。
「やっぱり尊敬されている人、みんなから信頼されている人は、そういう発言はしない。偉い偉くないは関係ない。そういう発言をするのはそれなりの人だから」と聞いたときに心が軽くなりました。
次からは「だから女は」と言われたときに、ジーっと顔見て、「それなりだな」と思うと全く気にならなくなりました。(笑)ワーワー言われたら、「どこまで言うか見てやろう」と。「15分言ってる。30分言うのかな」と思って聞いていると腹は立たないですね。
先のことは考えない。目の前の最善を選択する
——これからのビジョンなどあれば、教えていただけますか。
先々のことはあまり考えずに、目の前のことをそのとき最善の選択をする。そのくり返しが続いていけば、将来につながっていくんじゃないかなと思っているんですね。
目標があったほうが頑張れる人もいるので、個性もあると思うんですけれども。たとえ間違ったとしても、それはその時に自分が最善だと思い判断したことなので、それを振り返って悔んだりはしないです。そんなにいろいろなことは、思い通りにならないと思うんです。
私この会社を卒業していく方に、必ず書く言葉があるんですよ。必ず、全員。
「人生はギャンブルだ、自分のなりたい自分になれ」
結局どうなるかは誰もわからないことを先回りして心配するよりも、なりたい自分になればいいんだと。人と自分を比較をしてどう見られるかを気にするよりも、自分はどうなりたいかを考えたほうがいいと思います。
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"男女格差"は過去のもの? でも、世界のジェンダーギャップ指数で、日本は144カ国中114位です。
3月8日は国際女性デー。女性が生きやすい社会は、男性も生きやすいはず。社会の仕組みも生き方も、そういう視点でアップデートしていきたい。#女性のホンネ2018 でみなさんの考えやアイデアを聞かせてください。ハフポストも一緒に考えます。