今冬、全国的に猛威を振るったインフルエンザの流行が峠を越したようだ。厚生労働省によると、1週間(2月11~18日)の全国の推計患者数は前週より約72万人少ない約167万人となった。ただ、全国的に警報レベルは依然続いており、油断は禁物だ。
そんな時期、インフルエンザの新薬が承認された。塩野義製薬は2月23日、インフルエンザの新薬「ゾフルーザ」が厚生労働省に承認されたと発表した。2018年シーズンが終わる5月までに薬価が決まり、発売される見通しだ。
ハフポスト日本版は、承認にあたっての臨床試験を担当した、廣津伸夫・廣津医院院長に、これまでの治療薬との違いや効果について尋ねた。
以下は、廣津院長の解説だ。
インフルエンザウイルスはまず、鼻や喉の粘膜の細胞に入り込みます。細胞の中で増殖した後は、外に出て隣の細胞に次々と入り込んでどんどん増えていき、24時間で100万倍に増えるといわれています。
これまで使われてきたタミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタなどの治療薬は、「ノイラミニダーゼ阻害剤」という種類で、細胞内で増えたウイルスが細胞から外に出るプロセスをはばむことで、周りの細胞に感染が広がっていくのを防ぎます。
一方、ゾフルーザは、「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤」と呼ばれる種類の薬で、細胞内でのウイルスそのものが増えないようにする働きがあります。
飲み方は、タミフルが1日2回、5日間の服用が必要なのに対し、ゾフルーザは錠剤を1回飲むことで完結しますので、利便性が高く、飲み忘れるといったことも無くなります。服用量は体重によって違いますが、体重が10kg以上なら子供でも飲めます。また、季節性インフルエンザAとインフルエンザBの両方で使えます。
2016年から2017年にかけ、12~64歳のインフルエンザ患者約1440人を対象にした最終段階の臨床試験(第三相試験)で、薬の効果や副作用を検証しました。
①発熱や関節痛、喉の痛みといったインフルエンザの症状が出ている期間
②ウイルスが体から消えるまでの期間
―――などを、ゾフルーザを飲んだグループ、プラセボ(偽薬)のグループ、もしくはタミフルを飲んだグループと比べました。
①の「症状が出ている期間」(中央値)はゾフルーザが53.7時間でタミフルと同じ程度の長さでしたが、②のウイルスが消えるまでの時間(同)は、ゾフルーザが24.0時間、タミフルが72.0時間と、ゾフルーザの方が、かなり早い時期に消えました。
有害な副作用については、プラセボと同じ程度の出現率で、タミフルと比べても低いという結果が出ました。
また、動物実験の段階ですが、H5N1やH7N9といった鳥インフルエンザのウイルスや、従来の治療薬に耐性をもったウイルスにも効果があることも分かりました。
この結果から言えることは、ゾフルーザを飲んでも症状がなくなるまでの時間はタミフルと比べてそれほど変わらないかもしれませんが、ウイルスが体から早く消えるのはゾフルーザの方がずっと早いので、その分、他人に移してしまうことが減るでしょう。家族内や学校、職場でのウイルスの広がりを抑えられると思います。
この薬が出たことで、今までのインフルエンザ診療に新しい選択肢が加わり、治療の幅も広がると期待しています。
鳥インフルエンザや耐性ウイルスにも効果があるため、パンデミック(大流行)へ の備えにもなると思います。