巨大な煮干しの彫刻を彼女からプレゼントされたと現役のプロボクサーがTwitterで明かしたところ、作品のリアルさとユニークさとが話題になり、瞬く間に拡散した。
贈られたのは2月14日だったが、作品に込められた彼女の思いは「バレンタイン」だけではなかった。
「店長、でっかい煮干しが届いてます」。14日。プロボクサーでラーメン店「すごい!煮干ラーメン 凪(なぎ)」に勤める大曽根悠二郎さん(30)=東京=は出先で部下の電話を受けた。
店に戻ると、1メートルほどの煮干しが横たわっていた。腹は銀色、背は灰色から黒に着色されたリアルな彫刻だった。鼻を近づけるとヒノキのいい香りがする。
送り主は関西に住む大曽根さんの彼女(29)だった。煮干しとともにバレンタインのチョコレートも届き、同封されていた手紙には「早く会いたい」と書かれていた。
彼女は彫刻家で、煮干しを作った本人でもある。普段は愛くるしい動物などを彫っており、煮干しをテーマにすることはない。
1月。彼女は彫刻用に譲り受けたヒノキを見て、「煮干しだ」と思い立ち、大曽根さんにプレゼントすることを決めた。大曽根さんが勤めるラーメン店は、20種類以上の煮干しをブレンドした独自のスープが自慢。約10年前、高校卒業してすぐにアルバイトとして働き始めてから約10年、大曽根さんは社長と全国各地を回って味のいい煮干しを探した。
そんな大曽根さんに、煮干しの彫刻はぴったりの贈り物だと彼女は考えた。2月14日に作品をプレゼントしようと決めたのも、この日がバレンタインデーだったという理由だけではない。この日は「煮干しの日」でもあるからだ。
彼女には夢がある。ボクサーという顔も持つ大曽根さんがリングに入場する際、煮干しの彫刻を掲げて欲しいのだという。大曽根さんのリングネームは「にぼし悠二郎」といい、自ら作った煮干しが「お守り」代わりになることを彼女は望んでいる。
大曽根さんはボグシングの名門、作新学院高(栃木県)の出身。ボクシング部の主将を務め、インターハイにも出場したことがある実力の持ち主だった。ところが3年の国体前に疲労骨折し、出場を逃した。
不完全燃焼。そんな思いが、心のどこかに残っていた。27歳のとき、仕事に余裕ができ、ボクシングジムに通い始めた。最初は健康のためと思っていたが、アマチュアの公式戦に出るうちにのめり込むようになっていった。
プロのライセンスを取り、2017年9月に30歳でデビュー戦を迎えた。相手は高校を卒業したばかりの19歳だったが、巧みなテクニックで判定勝ちを収めた。その勇姿を彼女も観戦していた。
大曽根さんは「高校の時の後悔をずっと引きずったまま、ここまで来ました。今再びボクシングをやってるのは、自分のボクシングキャリアを成仏させたいという思いからです。だから試合内容に納得するまではやりたい」と話す。
彼女についてはこう語った。「遠距離恋愛で1カ月に1回ぐらいしか会えず、寂しい思いをさせてしまっている。煮干しに込められた愛情が本当にうれしかった。今年、入籍したい」