乳児と共に議場入りした緒方夕佳市議への対応を巡り、賛否の議論が広がった熊本市議会で2月21日、議会運営委員会が開かれ、市議会会議規則の改正案が自民党会派から提案された。これまで規則になかった「議場に入ることができる人の条件」が追加され、議員や執行部の職員、議長が特に必要と認める者だけが入れるとした。この内容に、緒方議員は「子育て世代の政治参画が難しくなるような方向性」と指摘している。
ハフポスト日本版が熊本市議会事務局に取材したところ、21日に開かれた同市議会の議会運営委員会で、会派の一つ「自民党熊本市議団」から「市議会会議規則」の改訂が提案された。
改正案では、これまで規則になかった「議場に入ることができる人の条件」が追加され、議員や執行部の職員、議長が特に必要と認める者だけが入れるとした。子連れでの入場できないことを明文化したともとれる内容だ。また、拘束力はないが、議会の会派の「申し合わせ」の事項の改正も同時に提案された。
【熊本市議会会議規則】の改正案の概要
- 議場に入れる者は、「議員」「地方自治法の規定により議長から出席を求められた者(執行部の職員ら)「その他議長が特に必要と認める者」と明記する。
- 議会を欠席する際の申し入れ理由として、現行では、「病気や出産、その他事故のため招集に応じられない場合」としているのを、「家族の介護、看護、配偶者の出産補助」を加える。また、欠席届の様式を統一する。
【議会運営に関する申し合わせ】の改正案の概要
- 「行政視察は議員本人以外の者の参加は認めない。ただし、委員等本人が公務を遂行するに当たり、視察先や宿泊先等で介助が必要と想定される場合は、介助者を認める」などという一文を追加。
- 「議員の服装は正装にする」と明記。
会議規則は議会の議決が必要だが、申し合わせは議会の議決は不要だ。3月9日の議会運営委員会で各会派の意見を聞いた上、同市議会で採決される。
発端は、2017年11月22日。緒方議員が生後7カ月の長男を抱いて議会開会前に議場の自席に座っていたところを、議長や事務局が制止した。話し合いを経て、緒方議員は長男を友人に預け、出席したという。
こうした事態に、緒方議員がとった行動と、議会事務局や他議員の対応を巡り議論が起きた。
今回の議会規則の見直しは、この一件を受けたものと見られる。
提案を、緒方市議はどう考えているのか。本人に聞いた。
議会運営委員会で提案された内容を見ると、子育て世代の政治参画が難しくなるような方向性になっていると感じています。
一方、ここまで言うのは時期尚早だとも思っています。
会議規則の改正案で示されている「議長が特に必要と認める者」の部分が漠然としていて、どんな場合を指すのか判断基準が明記されていません。まだ「赤ちゃんがダメ」と明らかに言われている訳ではない段階なので、話し合う必要があると考えています。
それよりも問題なのは、「行政視察は議員本人以外の者の参加は認めない」と明文化されてしまったことです。私のように子どもを母乳で育てている議員は行けなくなってしまいます。
母乳で育てている私が子どもを連れずに視察の旅行となると、2泊3日の日程ですら胸が張りますから、母乳を絞っては捨てて、を繰り返しながらの参加になり、現実的ではありません。議員として、市民の付託を受けた議員としての務めを果たせなくなることを意味します。
この提案についてもいろんな議論をしなければならないのに、し尽くせていない。きちんとわたしが要望を出したように委員会を設置して話し合う必要があると考えています。
21日、わたしも議会運営委員会を傍聴しました。1人会派なので、3人以上いる会派が条件の議運委のメンバーとして、議論に加わることはできません。
提案された改正案の内容に意見を言いたかったので、議運委で傍聴の立場でしたが「発言を求めます」と手を上げました。でも、議運委の委員長が「緒方議員の発言を認める方」と聞いても誰も声を上げませんでした。
議会運営委員会が開かれた21日、わたしも要望書を2通提出していました。
1通は、じきに開かれる3月議会に向けたもので、
「本会議や委員会開催中に授乳を要する場合、介助者や赤ちゃんが議場や委員会室に入室し授乳ができることが最善」
「議会が近づき、一般質問の準備に取り組んでいるが、ベビーシッターの手配に多大なエネルギーと時間がかかる。保育者の配置とその費用の予算化をお願いしたい」
「審議の日程が分かり次第、迅速に知らせて欲しい」
―――といった内容です。
2通目は
「女性の市民的権利を保障するための討議をする委員会の設置」
「議会棟での保育や託児環境の整備を」
―――といった内容を求めています。
こういう事態になってはいますが、私は諦めたり悲観したりはしていません。進化のための一段階なんだと思っています。
民主主義も最初はごく少数の人しか投票権を与えられていなかったものがその後、進化していったように、女性の政治家もどんどん増えていくでしょう。この流れは止められません。
こんな風に私も行動を起こしているし、欧州のような、男女共同参画が進んでいる国は、赤ちゃんを議場に連れて行く方向になっています。会社に託児所をつくる動きが広がっているように、議会も託児所を作るのは当然のニーズです。
議員の多くは中高年の男性で、こういう流れとはまったく違う価値観の中で生きてこられた人たちです。だから、その中で議論や反対も当然あります。その中で、進化の方向は変わらずにある。
だから、まったくあきらめていません。むしろ、始まったばかりなんです。