悪気はないのに空気が読めず、対人関係がうまく構築できない。じっとしていられない。何度も同じミスを繰り返してしまうーー。そんな特性のある「発達障害」に、いま注目が集まっている。
発達障害は、「対人関係に問題を抱える」「特定のものごとに度を越したこだわりを持つ」などの症状があるASD(自閉症スペクトラム障害)や、「多動」「衝動的な行動」「不注意」などを特徴とするADHD(注意欠陥・多動性障害)などの総称だ。
社会人として働く上で困難もある発達障害。にもかかわらず、発達障害のある社員が全体の7割以上を占める会社がある。どのようにして組織を運営しているのか?
グリービジネスオペレーションズ(神奈川県横浜市、以下「GBO社」)を取材すると、どんな会社員にとっても参考になるような「働き方」をしていた。その3つの工夫を紹介しよう。
GBO社では、以下の3つの仕事は、断ることに決めているという。
- 極端に納期が短い仕事
- 納期必達が前提の仕事
- 電話対応が必要な仕事
発達障害は、感覚過敏を併発することも多い。視覚や聴覚などが健常者より敏感になることから、多くのストレスにさらされ、疲労を感じやすくなるという。この特性から、体調が安定しない社員も多いため、「納期に余裕を持てない仕事は受けない」ルールが設定されている。
また、別の特徴として、口頭のみで与えられる指示に対応することが難しい場合が挙げられる。
「何を」「いつまでに」「どうやればいいか」などの情報が、口頭のみの指示だと曖昧になりがちな上、すぐに確認することが難しくなるためだ。このため、電話対応が必要な仕事は断るという。
GBO社のユニークな休暇制度に「時間有休」がある。
前述のとおり、発達障害の人は体調が安定しないときもある。感覚過敏から、天気や気圧の変化にも敏感で、午前中は元気でも午後に体調が悪化して勤務が難しくなるケースも多いという。
そのため、GBO社では付与された有休を、「日」単位ではなく「時間」単位でフレキシブルに取得可能にしている。申請は必要だが、上司も柔軟に対応するという。
急に有休取得者が現れると、仕事の進捗に影響は出ないのか。
自身も発達障害のある現場リーダーに話を聞くと、「作業状況をこまめに共有することと、『誰か1人しかできない仕事』を作らないように心がけています。手間はかかりますが、自分自身もたびたび制度のお世話になるので、仕組みを維持するために必要なことだと捉えています」と答えてくれた。
発達障害フレンドリーな社内環境の中で、インタビューに応じた2人の社員がともに「アレが一番助かっている」と答えた施策がある。
それが「休憩室」の存在だ。
オフィスの一角にカーテンで仕切られたエリアがあり、そこに立方体型のクッションが並べられている。社員は勤務中、休憩したいと感じたときに、いつでも最大1時間、休憩室に行って休むことができる。
社員からは、「仕事で集中力を使うと疲れるので、ちょっと休憩したいと思ったときにできるのはありがたい」「他の企業では『休みたい時に休む』なんてことは有り得ないと思うが、休憩室のおかげでオン、オフの切り替えもうまくいっている」といった声が聞かれた。
もちろん、上に紹介した工夫だけが、「社員の7割以上が発達障害」の会社を支えているわけではない。
GBO社の福田智史社長は、「必要なことは全部やる」として、以下のスライドに示したような手厚い配慮を実現している。
福田さんがインタビューで語ったように、一連の環境づくりに、相応のコストがかかっていることは社員に説明されており、その分人件費が抑制されている側面もある。グリーグループという大企業の子会社だからこそ、業務受託の柔軟性が確保されているのも事実だろう。
しかし、GBO社の事例が示唆するのは、社員が優れたパフォーマンスを発揮するために必要な配慮は、ゼロベースで柔軟に検討するべきであること。そして、様々な施策によって、発達障害のある人の働きやすい環境は実現可能だ、ということではないだろうか。
心身に特定の病気や障害のない人は「健常者」と呼ばれる。しかし、「健常者」の生活にも、得意と苦手、好調と不調、オンとオフが「障害者」と変わりなく存在することは、あらためて論じるまでもないだろう。
働く人の日々の変化に寄り添う組織を創るという点に関して、「社員の7割以上が発達障害」の会社に学べることは、きっとたくさんある。