ノンフィクション作家の菅野完(たもつ)氏に体を無理やり触られるなどして精神的苦痛を受けたとして、女性が菅野氏に対し、慰謝料などの支払いを求めた訴訟の控訴審判決が2月8日、東京高裁であった。
阿部潤裁判長は女性側の主張をほぼ認めた一審・東京地裁判決を支持し、菅野氏側の控訴を棄却した。
一審判決によると、女性は2012年5月ごろ、菅野氏が生活保護受給者へのバッシングに対する意見広告を新聞に出そうとしていたことを知り、賛同。7月に菅野氏と初めて会った際、菅野氏から、意見広告の作業のために自宅を使わせてほしいと頼まれ、応じた。
その際、同意がないのにベッドに押し倒され、ほおにキスをされた。その後も菅野氏から性行為を求められ、不眠やうつ状態になった。
一審判決は事実経過について、「被告が何ら反証をしていない」などとして、原告の主張通り認めた。また、菅野氏が女性をベッドに押し倒しすなどの行為も女性の同意はなく、性行為を求めたその後の発言も含めて不法行為にあたると指摘。慰謝料など110万円の支払いを菅野氏に命じた。
これに対し、菅野氏は、女性に対する「性的自由侵害の程度が高い部位には触れていない」などとして不法行為の度合いは低いと主張。また、女性が菅野氏について書かれた雑誌記事をインターネット上で拡散するよう別の人物に依頼したことで社会的制裁を受けたとし、慰謝料の減額などを求めて控訴した。
だが、こうした菅野氏側の主張を阿部裁判長はいずれも「認められない」と判断した。
女性「声を上げた被害者が傷つくことのない世界を」
控訴棄却について、女性はハフポスト日本版の取材に「当然の結果として嬉しく思う」と答えた。この日、女性は自らの耳で判決を聞きたかったが、一審判決後、インターネット上で自身がバッシングされる「二次被害」に遭ったことから体調を崩し、法廷に出向くことができなかったという。
女性は今も精神的な不調を訴える。
「性暴力における民事裁判は、名前を見ることも辛い加害者本人とやり取りをせねばならず神経を摩耗します。忘れたい事件をずっと思い出さねばならず心的外傷後ストレス障害(PTSD)が治まることはなく、かつ心からの反省の言葉が得られないことでより傷つきます」
その上で、二次被害にも苦しんでいるといい、「様々な二次加害が起こること、被害者を黙らせる構造その全てが性暴力被害であり、人の人生を壊すのが性暴力。この裁判が声を上げた被害者が傷つくことのない世界をつくる一端になってほしい。ハリウッドで声をあげた方々、それに続くMe too運動に日本が連動する日がくることを心から願っています」などと訴えた。
菅野氏「コメントする立場にはない」
一方、菅野氏は判決を受けて声明文をインターネット上で発表。「本事案には憲法上の争点がないため、最高裁への控訴は行いません」と表明した。ハフポスト日本版の取材に対しても、菅野氏は「裁判の中で自らの言いたいことはすでに主張しており、上告しない以上、コメントする立場にはありません」などと答えた。