「宣伝するのでタダで宿泊させてほしい」というユーチューバーの要求を、ホテル側が「ユーチューバーお断り」と突っぱねたことが、ネットで大論争を巻き起こした。
ネット民の意見は分かれた。「宣伝になるのにもったいない」とユーチューバーを擁護する声もあれば、「勘違いユーチューバー」の要求を突っぱねたホテル側を「痛快だ」と支持する声も。
騒動は世界中のメディアで報じられ、ついには、アイルランドのPR会社が「広告効果」を計算して弾き出す事態になった。その試算によると一連の騒動で、ホテル側には840万ユーロ(約11.3億円)相当の、そしてユーチューバー側には2070万ユーロ(約28億円)相当のメディア露出があった、という。
ホテルを営むポール・ステンソンさんは1月26日、ユーチューバーに「宣伝してもらう」どころか、彼女の名前を世界中にとどろかせたことについて、「どういたしまして、ソーシャルメディアのインフルエンサーさん」と自身のブログで綴った。
どんな騒動だった?
そもそものきっかけは、イギリス人ユーチューバーのエル・ダービーさんがアイルランドのホテルに送った、1通のメールだった。
その内容は、「YouTubeのチャンネル視聴者が約8万7000人以上」のダービーさんがホテルを宣伝するので、「タダでホテルに泊めて欲しい」というものだった。
ホテルを経営するポール・ステンソンさんは1月16日に、ダービーさんの名前を伏せてこのメールを晒し、「親愛なるインフルエンサーさま」「うちの店も、フェイスブックページのフォロワーが2ページで合計18万6000人いるんですがね...」と応酬。ユーチューバーへのアドバイスを書き綴ったうえで、「追伸:答えはノーです」と締めくくった。
自分のメールを"晒された"ダービーさんは、YouTube動画で反論。「(タダで泊めてもらうだけでなく、むしろ)報酬をもらうのが普通だし、彼はホテルで働いているんだからそれを知っているはずよ」とも発言した。
このダービーさんの発言が、ホテル経営者の心に火を付けた。
「今後一切、ブロガーお断り」
ステンソンさんは騒動の加熱を受け「今後うちのホテルとカフェはブロガー立ち入り禁止にしました」とFacebookページに投稿した。
自ら名乗りでなければ、メールの送り主が「誰」とはわからなかったのに、ダービーさんが「晒されて辛かった」と動画で告白したことを「ブログ業界にありがちな手法」と非難した。
宣伝費用を「請求」
さらにステンソンさんは、「請求書」を作って、Facebookに投稿した。
請求額は、日本円で7億円あまり。「20カ国114記事に特集され、450万人に読まれた可能性がある」として、その広告費を要求するものだった。この写真は、またしても世界中で話題となり、Metroなどのメディアにも報じられた。
"猛攻"は続く
ステンソンさんは続けて、「記者会見」のパロディ動画を作ったり、タダで泊まろうとするユーチューバーを挑発する「Tシャツ」を作って、オフィシャルグッズとして販売を始めた。
宿泊口コミサイトでは、ユーチューバー側の肩を持つ人たちの書き込みが相次ぎ、このホテルの悪評があふれかえった。しかしステンソンさんはどこ吹く風で、「タダで世界中に僕のホテルが宣伝されることになっているのが何よりも面白い」と振り返っている。
ユーチューバー側は「いじめの被害」を主張
ダービーさん側は自身のYouTubeチャンネルで新たな動画を公開し「多くの脅迫を受けています」「これはネットいじめだと思う」と弱々しい姿を見せた。
それに対し、ステンソンさんは、物議を醸す動画を作って再生させ、お金を稼ぐことを生業としているユーチューバーが「ネットいじめ」の被害者だと名乗るのはいかがなものかと疑問を投げかけた。またこれは「ネットいじめ」だと訴える前に「(ダービーさんが)自身のフォロワーに対して、カフェの悪口をこれ以上言ったり、誹謗中傷を書くのをやめてと言ってくれるのでは...と少しでも期待した自分がバカだった」と思いを綴った。
ただ、こうした「論争」は次第に収束を見せている。ダービーさんが自分のYouTubeチャンネルで最後に騒動に言及したのは23日。それ以降は"通常営業"に戻った。
莫大なPR効果を生んだ騒動の末に...。
ステンソンさんは1月26日に公開したブログで、騒動を振り返り、「この馬鹿げた一連の騒動によって、ネットのインフルエンサーに宣伝してもらうというマーケティング手法には、信ぴょう性も、誠実さも、透明性もないとわかった」と綴った。
ステンソンさんはこんな風に、結論付けている。
「いいブロガーなら、ブランドの方が(宣伝を)頼んでくるよ。タダで泊めてと『お願い』なんてせずに、尊厳を持ってね。つれなくするのがいいんだよ」
そして、「根底にある本当の思いを伝えるには、ユーモアを織りまぜるのが効果的」だと語った。
「やりすぎ」「ひどい」と言った批判的な声も数多く集めたものの、目をみはる"広報手腕"を見せたステンソンさん。「根底にある本当の思いを伝えるには、ユーモアを織りまぜるのが効果的」と綴った。
なお、ステンソンさんは、騒動中に作ったTシャツの売り上げで、ニューヨーク旅行にいった、とのこと。
結局、勝ったのはどっちなんでしょうね?