日本は世界一の「不妊大国」だという。不妊症の定義は、一定の頻度で避妊をせずにセックスしているが1年間妊娠しないこと。現在、妊活や不妊治療をしている夫婦はとても多い。
3組に1組の夫婦が心配する「不妊症」。妊活経験者は増加傾向に
国立社会保障・人口問題研究所が、2015年に実施した「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」の中に、不妊治療に関するこんなデータがある。不妊症を心配したことがある(または現在心配している)夫婦の割合は3組に1組を超え、その中で「検査や治療を受けたことがある、または現在受けている」(52%)が、「特に医療機関にかかったことがない」(46.8%)を上回る結果となった。
妊活・不妊治療と聞いてもピンとこない人もいるかもしれないが、将来子どもを望むなら、知っておいたほうがいいことがいくつかある。
今回ハフポスト日本版は、産科婦人科・舘出張佐藤病院(群馬県高崎市)の産婦人科医で医学博士の佐藤雄一先生と、妊活体験を綴った『俺たち妊活部』(主婦の友社・2016年)の著者である村橋ゴローさんに話を聞いた。
妊活中の夫婦はそれぞれ事情が異なるため、一概に説明するのは難しいが、「これから妊活を始めようかな」と思っている人には、本記事を入門編としてとらえてもらえたらと思う。
1. 妊活の第一歩は、排卵日の把握から
不妊治療を目的にクリニックの門をたたくと、問診とスクリーニング検査が行われ、不妊の原因を確認。検査結果に異常がなければ、「タイミング法」 「人工授精」 「体外受精」または「顕微授精」の順番で一定期間、治療を進めていくことになる。これは身体的負担、経済的負担の少ない順番と言われているが、検査結果により自然妊娠が難しい場合は、「人工授精」や「体外受精」から行う。
「これはあくまでも教科書通りの順番」と佐藤先生。「最近は、『タイミング法を半年も続けたら、40歳になっちゃう』という人も少なくありません。検査の結果にかかわらず、年齢や事情に合わせて、人工授精、体外受精からスタートするケースも増えています」
まだ20代、やっと30代、と思っていても、あっという間に月日は過ぎていく。まずは自分のカラダを知ることから始めてみよう。ドコモ・ヘルスケアが提供している「カラダのキモチ」は、スマートフォンで基礎体温や生理周期を記録するアプリだ。排卵日予測ができるため、パートナーと排卵日の情報を共有し、妊活のスタートアップとして活用できる。
「そろそろ妊活始めようかな」と思っているプレ妊活カップルなら、まずはこのようなツールを、試しに使ってみるのもいいかもしれない。
2. 40歳女性の出産の確率は、不妊治療でも10%未満
タイミング法による自然妊娠を試みたものの、なかなか妊娠に至らないケースも多い。妊娠できる確率は私たちが思っているよりも低いのかもしれない。佐藤先生によると、卵巣にある卵子の数が妊娠の確率を左右するという。
女性の卵子の数は、胎児のときが一番多く約700万個。その数は、生まれたときに100万個くらいまで一気に減る。その後は排卵とともに減り続ける。男性の精子は毎日作られるが、女性の卵子が新しく作られることはない。そのため、一般的には女性の年齢が高くなると卵子の数が減り、妊娠しづらくなる。
不妊治療による妊娠率も年齢と共に低下していくことがわかっている。35歳を超えると流産率が上昇しており、妊娠・出産によるリスクも高まる。
「子どもを産むなら若いうちに」——出産を望む多くの女性たちが、結婚・妊娠といったライフプランに悩み、焦りを抱くものだが、その理由にはこうした実情があることを、女性だけではなく、男性にも知っておいてもらえたらと思う。
一方で、妊活の基本ともいえるタイミング法は、男性側の精神的負担も大きい。多くの妊活体験者を取材してきた村橋ゴローさんは「女性には理解されづらいけれど、タイミング法に萎えてしまうという男性は意外と多い」と話す。「この日に合わせて、セックスしなければ、射精しなければ」と思えば思うほど萎えてしまうのだ。
佐藤先生は、「男性はプレッシャーを感じると勃起しづらくなります。女性よりも男性のほうが精神面の影響を受けやすくナイーブ」と話す。妊活への意識や姿勢というよりも"体の構造上"難しいというのだ。妊活は、男女におけるこうしたカラダの違いを理解して、お互いを気遣いながら進められるといいだろう。
3. 妊活は夫婦仲を良くする薬にもなり、劇薬にもなる
3年間の不妊治療、2度の流産を夫婦で経験した村橋ゴローさんは、「妊活は夫婦の絆を深める良薬である反面、劇薬にもなり得る」と話す。
「本格的な不妊治療が始まると、カラダを傷つけ、心を傷つけます。不妊の原因がどちらにあるかにもよりますが、うちの場合は妻のほうでした。カラダの大切な部分に管を入れたり、飲み薬や、注射での投薬を併用したり。着床したと思ったら流産したり。心もカラダもボロボロになっていく妻の姿を見て、自分に原因があればいいのに、代わってあげられるのに、と思いました。
中には、健康な精子を出せばそれでいいと思っている男性もいます。でも、妻のケアをしていくという治療の関わり方がありますよね。クリニックに通う日は、ご飯を作ってあげるとか、掃除・洗濯を全部やるとか。気を紛らわせるために、笑わせてあげることだってできます。それがなんの役に立つんだよって、治療にはなんの役にも立たないんだけど。
それでも、やっぱり相手の記憶には残りますよね。つらいときに支え合えない夫婦はそれまでの関係です。妊活は夫婦の愛がわかるリトマス試験紙だと思います」
4. 長くて出口の見えない暗いトンネル。夫婦で息抜きできる術をもとう
村橋ゴローさんは、夫婦で3年間の不妊治療に取り組み子どもを授かった。出口のない真っ暗なトンネルを、歩き続けているイメージと、自身の妊活体験を表現した。「3年後授かるから、しばらくつらいけど、がんばれ」と言われたわけではない。授かるかどうかわからない毎日。そんな日々を、夫婦でどのように乗り越えてきたのか。村橋さんの経験の中に、ヒントがありそうだ。
「不妊治療って、ニュースなんかで聞くと重たい単語ですよね。だから、まずは新しい趣味をはじめるように、 "たしなむ"気持ちで取り組んでみてはどうでしょうか? お茶、お華、妊活......。夫婦でそういうユーモアをもつことはとても大切だと思います。
家電量販店でスピーカーを買いに行くついでに、夫婦でクリニックに行ったりしていました(笑)。そんなふうにアトラクションのように考えるのもいいかもしれません。たとえば、夫婦で食事や映画に行くついでにクリニックに行くとか。うちは夫婦で出かけるのが好きだったので、そんなふうに息抜きしながらやっていました。
大事なことは、焦って一喜一憂しないこと。少し、長く付き合うつもりで、夫婦で楽しめる何かを見つけて息抜きしながら続けること。本当に辛くなったら、気持ちをぶつけあって、相手を抱きしめてあげて、一緒に泣きましょう」(村橋さん)
5. 社会が変わっても生殖機能は変わらない
「いつか赤ちゃんが欲しい」と望む夫婦のために、佐藤先生は、妊娠前からできるカラダづくりを指導してきた。
「今は、女性もバリバリ働いて、キャリアを積むのが当たり前の時代になりました。経済的にも自立し、やりがいを感じている女性が多いと思います。一方で、多くのストレスの中、不規則な生活習慣を強いられ、妊娠する能力を低下させている現実があります。今後、妊娠・出産のリスクはより高まるでしょう」
晩婚化、晩産化が進み、不妊に悩む夫婦はここ数年で急激に増えている。不妊治療の経済的負担を軽減するため、助成金が出るなど、国の制度も変わってきた。また、不妊治療のための休暇制度を設けるなど、支援体制をとる企業も少しずつ増えている。
しかし佐藤先生は、生殖医療に関わる立場で、こうも言う。
「どんなに社会が変わっても、医療が発展しても、人間のカラダの生殖機能は変わりません。後悔しないために自分のカラダに向き合い、考え、ときにはパートナーと話し合い、いまからできることを始めてほしいです」
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■プロフィール
佐藤 雄一(さとう ゆういち)
1968 年、群馬県生まれ。産婦人科医で医学博士。産科婦人科舘出張佐藤病院(群馬県高崎市)の第12代院長。日本抗加齢医学会専門医や日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医などの資格をもち、女性のココロとカラダの健康を支援している。
村橋ゴロー(むらはし ごろー)
1972年、東京都生まれ。ライターとして男性誌から女性誌など幅広い分野で活躍。千原ジュニア、田村淳、高橋克典など多くの芸人、俳優陣の連載構成を手掛ける。3年に及ぶ、自身の不妊治療奮闘記をまとめた著作『俺たち妊活部』(主婦の友社)を2016年に出版。
ハフポストでは、「女性のカラダについてもっとオープンに話せる社会になって欲しい」という思いから、『Ladies Be Open』を立ち上げました。
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