これぞ未来のスーパーカー。これからのハイクラス・アーリーアダプター層が選ぶ車。
BMWのプラグイン・ハイブリッド・スポーツカー「BMW i8」が打ち破ったのは、歴史ある自動車メーカーとしてのガソリンへの拘泥と、スポーツカーの常識だ。
自身もこの車のファンだというBMWジャパンのペーター・クロンシュナーブル社長自らが運転する「BMW i8」に、ハフポスト日本版の竹下隆一郎編集長が乗り込み、前代未聞のドライビング・インタビューを敢行した。
クロンシュナーブル社長は「BMW i8」のキーを受け取ると、天に向かって開く翼のようなドアを開け、運転席に乗り込んだ。個性的で流麗なデザイン。2人が乗った「BMW i8」はエンジン音も排気音もほとんどなく、夕方の東京の街にするりと消えていった。
スポーツカーといえば、馬力と排気量が奏でる、重低音と重力の世界。しかし「BMW i8」がそんな固定概念を覆した。価格にして2000万円を超える、まさに革命的なスポーツカーだ。
「BMW i8」車内に特別にGoProを設置し、ドライビング・インタビューを記録。その後は国内最大のBMWグループのショールーム「BMW GROUP Tokyo Bay」(東京・お台場)でさらにインタビューを続けた。話題は多岐に及び、かつてない俯瞰的で示唆の多いインタビューとなった。
2人の会話を再現しよう。
「電気自動車」と「スポーツカー」一瞬でチェンジ
「BMW i8」では「コンフォート」、「ECO PRO」、「スポーツ」の複数のドライビングモードの切り替えで、場面に応じた様々な走りを実現した。BMWの「駆けぬける歓び」の真髄を体感できる。
竹下 様々な装置がすべて運転席に集まっているんですね。
ペーター・クロンシュナーブル社長(以下「社長」) この車はスポーツカーのように、ドライバーにフォーカスしています。コックピットの中にいるように感じられるでしょう。フロントガラスにはオーバーヘッドディスプレーがあるから、ジェット機に乗っているような感覚で運転を楽しむことができます。また、おわかりでしょうが、何も音がしない。ノイズがないのです。
竹下 確かに音がしない。
社長 今はバッテリーだけで運転している、そこが私の気に入っているところなんです。スポーツカーに乗っているのだけど、電気で運転している間は「おお、こんなに静かなんだ」と感じる。また高性能エンジンを搭載していて、スポーツモードにすると、素晴らしいエンジン音を聞くことができます。
今、スポーツモードにしてエンジンをオンにしました。わかります?
竹下 おお、スポーツカーに乗っているみたいですね。ドキドキしますね。
社長 エンジンを使わないモードにもできます。今、エンジンを止めました。電気だけです。どうですか?
竹下 すごい。快適ですね。
社長 気分がいいでしょう。
竹下 ええ、とってもいいですね。どんな気分の時にスポーツモードを使いますか?
社長 正直なところ、私は市街地ではスポーツモードにしません。市街地から出て、高速道路上などでは、スポーツモードが好きです。高速道路で追い越しをかけたいときや、速度を上げたいときにスポーツモードにします。
竹下 どんな気分ですか?
社長 もう一度スポーツモードに切り替えてみましょうか。エンジンと車のパワーをすぐに感じられるでしょう。純粋なスポーツカーになるんです。スポーツモードになると、運転席周りのあらゆる装置が赤色になるんです。ノーマルモードにすると、青色になります。
竹下 驚いたのは、モードの切り替えがとても速いことですね。
社長 我が社のエンジニアたちは、「世界でも最も先進的なスポーツカーに」という目標を「BMW i8」で実現したんです。今、完全に電気モードで運転しています。時速40キロで、とてもスムーズで、静かですよね。エンジンを感じないでしょう。
竹下 日常から完全に遮断されますね。
社長 そうですね。今時速50キロ。クルージングのようでしょう。
竹下 オフィスから離れてリラックスしたい時とか、集中したい時に、このモードはとてもいいですね。
社長 全くその通りです。この車にはあらゆる可能性がありますし、ドライバーも使い方を選べます。スポーツモードで使う時は、まさに最先端のスポーツカーになります。電気と燃焼エンジンのどちらを使うか、それを組み合わせて使うのか、ドライバー次第なのです。
日本の消費者が「BMW i8」を愛する理由
「BMW i8」は2017年8月現在、世界で最も売れているハイブリッドスポーツカーだ。特に日本では人気が高いという。
竹下 どうして消費者はこの車を気に入っているのでしょうか?
社長 デザインが理由の一つに挙げられるでしょう。他の車とは違う。また、環境にやさしい車であることも支持されている理由です。
竹下 私もデザインが好きですね。流線形で美しい。
社長 この車は日本でとても人気があります。「BMW i8」については、日本は世界で3番目に大きい市場です。
竹下 なぜですか?
社長 日本の消費者はテクノロジ―を大変好みます。電気自動車と燃焼エンジンの融合型が人気ですし、先進的なデザインも好む。また日本のお客様は環境に配慮します。「最もエコで先進的なスポーツカー」というコンセプトが好きなのです。
竹下 最近の日本の自動車市場や、日本の消費者についてはどう思いますか?
社長 日本の自動車市場は毎年およそ500万台ですが、高級車に絞ると毎年25万台です。日本の消費者、特に高級車の消費者は、完璧を求めています。おそらく世界で最も要望が厳しい消費者でしょうね。私たちにとっては、そうしたお客様の期待に応えるために、挑戦します。だからこそ、質の高い商品を作り出すことができているのです。
竹下 日本の消費者は完璧主義者なのでしょうか。完璧を求めることは、時に勇気を持つことやイノベーティブになることと矛盾しませんか。
社長 完璧を求めるのは、日本人の遺伝子ではないかと思っています。日本から来る多くの概念がありますが、そのうちの「カイゼン」という考えは、完璧を求めることに他ならないと思っています。それこそがお客様が1000万円、2000万円を出して車を買う理由なのです。彼らは完璧な商品を期待しているし、それがプレミアムでもある。だからこそ、私たちはお客様に完璧な商品をお届けしたいのです。
竹下 消費者が仕様や価格にこだわるのではなく、車の価値や、車がもたらしてくれるライフスタイルについて関心を持っているのが非常に興味深いです。なぜこうした変化が起きたのでしょう?
社長 「BMW i」シリーズのお客様に限って言えば、彼らは目的のある価値を重視していますね。「BMW i」シリーズに心を奪われたお客様の多くが、それまでBMWを買ったことがなかったお客様です。彼らにとっては、環境にやさしいサステナビリティは非常に重要で、彼らの価値観や、彼らが使う商品を通じて訴えていこうとしている。だからこそ、商品を理解しようと思っているのです。
竹下 日本の読者に、「BMW i8」でどのような体験ができるのか、伝えてもらえますか?
社長 私自身も「BMW i8」の大ファンです。なぜなら、世界で最も先進的なスポーツカーだからです。環境に配慮した車と、スポーティブな車。その両方の世界を結びつけたものです。市街地では電気自動車モードで楽しみ、高速道路では、スポーツモードで。最も先進的なスポーツカーを手に入れられるのです。
竹下 私もそのスピードを体感しましたよ。
社長 一緒に感じることができましたね。
自動的にバッテリーをチャージ、環境への思い
社長 素朴な疑問として、プラグインのハイブリッドはどうなっているのか、と思われるかもしれません。お客様には、「どれくらいの頻度でチャージしなければいけないのか」と聞かれます。でも、チャージしなくていいのです。エンジンがバッテリーを充電するからです。
竹下 面白いですね。電気自動車では何時間ごとに、何分ごとに充電しないといけないのか、ということが関心事ですからね。一番心配になる点ですが、車そのものが再充電するというのが面白い。
社長 私も同感です。電気自動車というと「ああ、しょっちゅう充電しないといけないな」という人もいるかもしれません。でもこの車はいつでも、いつの間にか充電されるのです。
竹下 なぜBMWは「環境にやさしい車」という価値を作ったのでしょうか?
社長 私たちは未来に責任を負っているからです。常にエネルギーをセーブし、公害を抑えるために改善していく必要があるということです。
竹下 環境に配慮するなら、車ではなくて電車やバスを利用すべきではないかという人もいます。そう思いますか?
社長 いえ、全く思いません。なぜなら環境に配慮した車であれば、他の交通手段よりも環境を悪化させているとは言えないからです。ひょっとしたら公共の交通機関よりも環境に配慮しているかもしれない。
この時代に問う、ドライブの意味
若者の車離れが指摘されて久しい。一家に一台、車を所有するという概念も薄れつつある。だからこそ今、BMWはドライブの楽しさを伝え、新しい車の概念を体現しようとしている。
竹下 ドライブは好きですか?
社長 大好きです。こういうタイプの車に乗る時は、私は運転手を使わず、いつも自分で運転します。ドライブは趣味であり、楽しみたいからです。ドライブしている時はリラックスできます。
竹下 運転中は何を考えていますか。
社長 私にとっては、ドライブは安全第一です。他の人を邪魔したくないですし、危険に晒したくない。運転している状況にもよります。東京のような都市にいれば注意深くなります。高速道路で運転する時は、気分的にもリラックスしていますし、全く違うことを考えます。
竹下 今でも、消費者は個別に車を所有したいと思っていますか。私がアメリカでUberを見ていると、カーシェアリングをよく利用している。将来、人々は個別に車を所有するのでしょうか?
社長 興味深い質問ですね。というのも、私はどちらの方向もありえると思っているからです。例えば今年の東京モータショーは参加者が減りました。しかし、若い参加者は2年前と比べると増えたのです。この集計を聞いて、私はよく聞かれる「若い世代はもう車に関心がない」という言説に疑問を持つようになりました。
これまでお伝えしてきた通り、モビリティへのニーズが常にあるから、それがオーナーシップや、車の利用につながっていくと思っています。自動車製造会社として、私たちはモビリティ・プロバイダーになる必要があります。そして車を売る、リースするなど、車を利用する機会を提供するポートフォリオも描かなければいけません。
例えば、BMWはモビリティを提供する企業として、欧米の主要都市で、カーシェアリングサービス「DriveNow」を行っています。利用するたび、時間ごとに支払うサービスです。5分、10分、20分だけ車を借りられる、そしてどこに車が停まっていても、スマホのアプリで場所が分かる。車を利用した後は、どこかに停めてそのままにしておけばいい。
間違いなく、これはより重要なサービスとなるでしょう。将来的に多くの人が「平日は公共の交通機関を使ってオフィスに行くから車は要らないな」と思うようになる。でも、彼らは週末になったら郊外へドライブしたい。車を運転する機会が欲しくなる。それが私たちがモビリティ・プロバイダーになる理由なのです。
竹下 スポーツモードやノーマルモードを選ぶように、多くの人が車の乗り方を選べるようになるわけですね。
社長 そう、その通りです。皆様に選択肢を示したいのです。私たちは今、古典的な自動車製造会社から、モビリティ・プロバイダーへと変化する岐路に立っています。
竹下 BMWのような伝統ある会社が、考え方を変えて、古典的な自動車会社からイノベーティブな会社に生まれ変わろうとしているのは、とても興味深いですね。
社長 将来を形作るためには、先進性、イノベーション、そして時には勇気が必要になります。
自動運転が実現する時、BMWはどうする
竹下 将来的には完全に自動運転になって、サイドカーで映画を見たり、メールに返信できたりする......。近い将来、そんなことが起きると思いますか?
社長 完全な自動運転になるにはもう少し時間がかかるでしょう。アウトバーンでの自動運転は早めに実現できるかもしれません。高速道路であれば、道路がすべてフェンスで遮られていますし、全員同じ方向に運転しているからです。しかし市街地では歩行者や自転車などがいる。自動運転車もあれば、そうでない車もある。
竹下 車は電化製品のようになるのでしょうか?
社長 個人的にはそうは思いません。これから先、車の中にはより多くのエレクトロニクスが搭載されると思いますし、間違いなく、車はより生活に結びつきます。しかし、家電になるものではありません。車はテクノロジーを進化させた商品だと思っていますが、テレビやコンピューターと比較できるものではありません。
竹下 私たちの読者は未来に関心があり、50年後の車はどうなるんだろうと考えています。車の未来について、どのように消費者に説明しますか?
社長 一般的な車の未来について語ることはできません。自動車産業は非常に幅広いからです。ただ、間違いなくロボットカーは多くなるでしょう。しかしBMWグループに関して言えば、私たちは自動運転について全く違ったコンセプトを持っています。自動運転にしたいとき、または、ドライバーが自らコントロールしたいと思う時は、いずれもドライバーが決められるようにすべきだ、と考えています。それが私たちが考えている車の将来です。
市街地での運転では、ドライバーが車への責任を持ち、高速道路などで自動運転モードにしたときには、Skypeをしたり、新聞を読んだり、メールを見たりと、ドライバーがやりたいことはなんでもできるようにする。しかし市街地から離れて美しい道路に出て、自らハンドルを握って運転したいと思えば、それも叶えられるようにしたい。これが私たちの考える未来です。
BMWが進化を続ける理由
竹下 1995年以来、車社会全体が変化したように思います。1995年にはiPhoneはありませんでしたし、Facebookもなかった。こんな将来を予測していましたか?
社長 いえ、正直言って、1995年に入社した時は、常に将来を占うのは難しいことでした。当時iPhoneが登場するとは思いませんでした。それでも良かったことは、とても速く進化し、進化に制限がないということです。BMWは未来を形作りたいと思っています。作りたい将来は、自分たち次第で作れる。それこそがBMWのバリューでもあります。
だからこそ、私たちはこの車をデザインしたのです。私たちは将来を形作れると信じているから、車を作っているのです。誰もが将来を描ければ、時代をリードすることになります。時代を形作ることができなければ、ついていくだけですから。
竹下 どうしたらBMWがイノベーティブであり続けられるのでしょうか。日本では旧来の価値観からなかなか変化できない、イノベーティブになれない困難を抱えています。そうこうしているうちに、AppleやFacebookといった新しい価値観が市場を席巻した。BMWがイノベーティブであり続けられるのはどうしてですか。
社長 私たちは若い世代を採用し、責任を持たせています。彼らはアイデアを持ち、私たちは反対しません。若い人たちの意見を聞くことが重要だと思っています。より年上の人間のように経験を積ませることには意味がありません。若い人たちは時に、クリエイティブなアイデアを持っているわけですから、上の世代とのコンビネーションで、よりイノベーティブになるのです。
アイデアのためには、経験は必要ないと言っています。失敗を許すことと同じことです。間違ったことをしても、そこから学ぶことができます。失敗を許さなかったら、同じ間違いを何度も繰り返します。新しいことにチャレンジし、失敗したとしても、それは学ぶための普通のプロセスなんです。そうやって、私たちはハイレベルのイノベーションを保っています。企業として、先頭に立つための原動力を得られるのです。
「またあの速さに戻りたい」竹下編集長
竹下編集長はドライビング・インタビューをこう振り返った。
ドアを閉めた瞬間、少し騒がしい街中と、しんとした車内の間に、まるでヴェールがしかれたように、一瞬にして静けさが訪れた。
ハンドルをはじめ、速度や充電状態など運転に必要な情報を表示するデジタル・コントロール・ディスプレイはドライバー席を中心に置かれている。何者にも依存しない、「自立した個人」が操作する車だと思った。
「将来、自動運転車が登場すれば、ハンドルを握らずに移動ができることになるだろう。それでも、自ら運転して、車をコントロールしているという感覚をドライバーに持ってもらいたい」とクロンシュナーブル社長は話した。運転している場所や気分によって、「コンピューターによる運転」と「人間による運転」を切り替えられる方が、BMWらしいのだという。
「スポーツモード」に切り替えて加速すると、静かだった車内にエンジン音が響き渡り、数十メートル先にワープしたかのように、車が動いた。
その後、再び通常の「コンフォートモード」に戻り、運転が静かになる——。体がスピードに慣れないまま、どくん、どくん、と心地よい刺激がやってくる。しばらくすると、遅れて心臓の高鳴りが起き、「またあの速さに戻りたい」と思った。
「パワーを感じたでしょう」と社長。自分の中に開放感が生まれた。
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誰もが知っているブランド。みんなが憧れるブランド。みんなの予想をいい意味で裏切る、ぶっ飛んだ車「BMW i8」。革新を続けてきたBMWの強さは、ここにある。
(Video taken and edited by Go Furuya)
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