「声を出さないでいてくれてありがとう」ーー。
カナダ・オンタリオ州政府が2015年に行ったセクハラ・性暴力に関する啓発キャンペーンを再開した。当時制作されたビデオが、再び多くの人にシェアされている。
トロントで映像制作会社を経営する吉田貴臣さんは、そのビデオに日本語字幕を付けてTwitter上で紹介している。
ビデオには、セクハラ加害者でも、被害者でもなく、「見ているあなた」に向けられた痛烈なメッセージが含まれている。
日本人にも見てほしいと字幕の制作をした吉田さんは、ハフポスト日本版に「ハッとしました。私は、傍観者だった」と、その意図を語っている。
どんな内容?
ビデオには、男性にセクハラや性暴力を受ける女性たちが登場。視聴者はそれを近くで目撃している立場だ、という設定になっている。
パーティで泥酔した女性に覆いかぶさり、友人に撮影させる男性は、あなたにこう話す。「声を出さないでくれてありがとう」。
また、社内で嫌がる同僚の女性の肩を揉む男性は、向かいの席のあなたに「こっちを気にしないでくれてありがとう」と話す。
そして最後に厳しいメッセージが投げかけられる。
「なにもしないということはこういう男性を助けることになります」
カナダでの反響は
2015年に行われたこのビデオによるキャンペーンは、2017年の女性たちがセクハラ・性暴力を告発する「#MeToo」ムーブメントを受けて再び始まっている。
州政府は、TwitterやFacebook広告でも拡散を続けており、CTVニューストロントはこれまで8500万再生されたとの州政府コメントを報じている。
吉田さんによるとFacebookのコメント欄には、「トラウマを引き起こすトリガーになる」「被害者は必ずしも女性だけではない」といった言葉もあるが、評価の多くは好意的だ。
吉田さんは、日本語字幕を作成して紹介しようと考えた理由について、ハフポスト日本版に以下のコメントを寄せた。
このビデオは、セクハラを行う男性を非難するというよりも、「目撃した人が止めないといけないよ」という主旨です。
州政府は「私たち全員に、セクハラや性暴力をやめさせる役割がある。傍観者にならないで。」というコメントと共にこの動画をツイートしています。
このメッセージを見て、ハッとさせられました。 私は、傍観者だった。と思わさせられたんです。
幸いにも私自身がセクハラにあったことはないのですが、身の回りの女性からセクハラをされたという相談を受けたことがあり、そのたびに、何もできない自分に歯がゆい思いをしていました。
私は傍観者にはなりたくなかった。目の前でセクハラが行われていたら、もちろん止めさせるべきです。そして多くの場合において、それができるのは男性だと思います。
目の前でそういうことが起こっていたら、見て見ぬふりをするのではなく、「相手が嫌がってるから、やめようよ」って言えばいい。そういう意識を日本人男性のみなさんにも持ってもらえたらいいな、と思い、日本語字幕版を制作しました。
それと、このビデオをオンタリオ州の政府が作ったという点も注目すべきだと思っています。
例えば東京都がこういうビデオを作ってセクハラ防止のキャンペーンをするだろうか?と考えたときに、日本社会全体の意識が低いんじゃないかと感じました。 セクハラや性暴力の問題は、被害者・加害者だけではなく、社会全体の問題なんだ。ということをみんなで考えないといけないんじゃないのかな、と思っています。
吉田貴臣さん
(カナダ・トロントで映像制作会社を経営。映像メディア「TORONTO dot TOKYO」ディレクター、「NIpponia Canada Inc.」代表取締役。)