「夫婦別姓にしたぐらいで、家族の絆は弱まらない」。サイボウズ社長・青野慶久が我が子に伝えたこと

妻の姓に変えた経験が決断を後押しした。
Ryan Takeshita / Huffpost Japan

結婚をすると、夫か妻のどちらかの名字が変わるのは不便だ。

パスポートなどさまざま書類で名義変更をしないといけない。仕事相手に新しい名前を覚えてもらうのも一苦労。だから、"通称"として旧姓を使い続ける人も多い。

ソフトウエア開発会社「サイボウズ」の青野慶久社長(46)もその一人だ。2001年に結婚し、妻の姓「西端」を正式な名前にしたが、仕事上は旧姓を使い続けている不自由さ。

そのため、夫婦別姓を選べないいまの戸籍法は法の下の平等を定めた憲法に反するとして、2018年春、国を相手に裁判を起こす準備を進めている。

司法になぜ訴え、子どもたちにどう説明したかを青野氏に聞いた。

Ryan Takeshita / Huffpost Japan

■妻からの一言で改姓「びっくりしたけど、好奇心が勝った」

結婚した2001年、青野氏はサイボウズの役員だった。会社は既に東証マザーズに上場しており、自分が改姓するとは想像もしていなかった。そんな時、妻から「家に入るみたいで嫌だから『西端』のままがよい」と告げられた。

「(言われた時は)『えっー』という気持ちでした。当時上場企業の役員をしていましたから、俺は変えないだろうと思っていました」

それでも、自分が妻の名字に合わせようと決めたのは、なぜか。

「何か新しいことがあったらやってみたいという好奇心が勝ちました。世の中の男性がほとんど経験していないことを、自分が経験できるのは貴重なのだろうと。(通称と)使い分けるとどうなるのか、興味もありました」

ところが実際に改姓してみると、数々の不都合に直面した。銀行口座や身分証などの名義を全て替えた。

仕事で海外などに招かれる時も、心配事がつきまとう。空港やホテルのフロントでトラブルにならないよう、自分のことを『青野』だと思っている人たちに、「西端で予約してほしい」と伝え続けている。

「女性で働く人はたくさんいますから、これは私だけではなくて相当多くの人が同じような経験をされている。そう思うと、これは選べた方がいいだろう」

名前を変えて不便さを感じた経験から、別姓を選ぶ自由がないことに疑問を抱くようになった。

Ryan Takeshita / Huffpost Japan

■裁判に追い風「世論が逆転している」

そんなところに、夫婦別姓を求めて裁判を起こす動きがあることを知り、原告に名乗りをあげた。

過去の同様の裁判では、「男女の不平等」を訴えたが、夫婦別姓を認めない民法の規定を「合憲」とする最高裁の判断が2015年に出たばかり。そのため青野氏の裁判では、異なる切り口で挑む。日本人と外国人の結婚では別姓が選択できるのに、日本人同士では選べないのはおかしい、という主張だ。

訴訟に関する弁護士インタビュー記事はこちら ⇒「サイボウズ社長が提訴へ「夫婦別姓」は今度こそ実現する? 弁護士に聞いてみた

「今回は明らかに論理的不平等が起きています。日本人と外国人ができることが日本人同士でなぜできないのか。逆差別みたいなことが起きています」

夫婦別姓が選べないことの問題点はこれまでも指摘されてきたが、根強い反対論もあり、国会での議論は進展してこなかった。青野氏はここ数年で、状況が変わっていると感じている。

「2015年の判決でがっかりした人がたくさんいらっしゃったと思います。ただ、今回の訴訟が注目されているのは、そこで残念な思いをされた方が応援してくれているからです」

「有名な議員や評論家が表立って反対する動きが起きていない。これはつまり、世論が逆転した状況になっているという風に感じています。うまくいけば一本スムーズに繋がるのではないかと思います」

訴訟を通じて、それぞれの夫婦が同姓か別姓かを自由に選べる社会の実現を目指している。青野氏と同じように、結婚後も旧姓を使い続けているサイボウズの女性役員もいる。

サイボウズのオフィス
サイボウズのオフィス
Rio Hamada / Huffpost Japan

■別姓でも「家族の絆は弱まったりしない」

夫婦別姓に反対する人からは、「子どもがかわいそう」という意見がよく挙げられるが、青野氏はきっぱりと否定する。

『青野慶久』として数々のメディアに出ている影響もあり、「我が子の名字は西端ですが、長男からは、『パパは青野だ』とはっきり言われます」

子どもたちに本名と通称を使い分けていることを説明しているが、特に気にする様子はないという。

「今もすでに親子別姓というのは、事実上起きてますよね。サイボウズの女性役員で旧姓を使い続けている人もいますし、通称が広まるに連れて一般的になっています。自分の名字と親が外向けに使っている名字とがズレていることを、日本各地の子供たちは知っているはずです」

「全然かわいそうな状況は起きていない。むしろ、そんなことで家族の絆は弱まったりしないというのは実感としてあります。うちの子どもは、パパの名前についてそんな悩まないですよ。それよりクリスマスプレゼントに何をもらえるかの方を気にしてるんじゃないですか。ちゃんと愛情があるかのほうが彼らにとってははるかに大事ですね」

【UPDATE:2022 6/17 15:15】
記事は当初「創業者として保有していた会社の株式の改姓手続きには数百万円の手数料がかかった」としていましたが、記事が掲載された後に本人が事実関係を訂正したため、該当箇所を削除しました。

Rio Hamada / Huffpost Japan

家族のかたち」という言葉を聞いて、あなたの頭にを浮かぶのはどんな景色ですか?

お父さんとお母さん? きょうだい? シングルぺアレント? 同性のパートナー? それとも、ペット?

人生の数だけ家族のかたちがあります。ハフポスト日本版ライフスタイルの「家族のかたち」は、そんな現代のさまざまな家族について語る場所です。

あなたの「家族のかたち」を、ストーリーや写真で伝えてください。 #家族のかたち#家族のこと教えて も用意しました。family@huffingtonpost.jp もお待ちしています。こちらから投稿を募集しています。

注目記事