同性婚が認められている多くの国では、同性カップルによる子育ても珍しいものではなくなっている。日本でも公言はしていないものの子育てをしているレズビアンカップルは実は少なくない。
しかし、ゲイカップルとなると少し事情が違ってくる。自分たちで出産することが出来ないゲイカップルが子育てをするのは、レズビアンよりもハードルが高い。そんな状況のなか、北欧のスウェーデンで同性婚をして子育てすることを選択した日本人男性がいる。
「いま、子どもは1歳半。ならし保育中です」
ブログ「ふたりぱぱ」を運営するみっつんさん。現在、北スウェーデンにある人口7万5000人ほどの都市に同性パートナーのリカさんと、2016年、代理出産によって授かった男の子とともに暮らしている。
日本と比べるとスウェーデンは子育て支援が充実していて、それは同性カップルにも適用されるとみっつんさんは言う。日本よりリベラルな思想風土があり、同性婚も認められているスウェーデンでは同性カップルでの子育てはさほど珍しいものではないようだ。
「いま、子どもは1歳半なので保育園でならし保育中です。保育園の人たちは僕らがゲイカップルだということを知っていますが、そのことでとくになにか言われたりはしません」
スウェーデンでは70年代以降、性的マイノリティの権利を求める運動が盛んに展開されてきた。また男女平等の意識も高い。
地方分権が進むスウェーデンでは地域によって医療制度も異なるが、南部のウプサラ県ではレズビアンカップルが1人目の子どもを作る場合、人工授精4回、体外受精1回までが実質無料となる。これは男女カップルの不妊治療と同じ扱いだ。異性のカップルも同性のカップルも同様に子どもを持つ権利があるという考えが根底にある。
「ただゲイカップルの代理出産についてはまだ議論があります。これは代理母の女性の権利との兼ね合いがあるからです」
諦めていた結婚、子育て
現在はパートナーのリカさんとともに子育てするみっつんさんだが、若い頃からこうした将来設計を持っていたわけではない。そもそも結婚も諦めていたという。
「中学生の頃に姉が結婚して出産しました。それを見て、結婚や子育てをすることは自然なことだし、素敵だと思いました。当時は自分もそうするのだろうと思いましたが、ゲイであることを自覚するにつれて結婚も子育ても自分もすることはないだろうと諦めてしまいました」
愛知県出身のみっつんさんは上京後、パートナーとなるリカさんと出会った。
「当時はよく新宿2丁目のゲイバーにも飲みに行っていました。2丁目では"ゲイは1人の相手と長い付き合いなんかできない"みたいな考え方をする人も少なくありません。僕自身そう思っていた時期もありました。でも本音ではずっと一緒にいるパートナーがほしいという思いもあった。どこか拗ねていたんだと思います」
そんなみっつんさんが変わったのは、リカさんが仕事の都合でロンドンに行くことになったため。みっつんさんも同行することを決めたが問題はビザをどうするか。考えた末に出した結論が、スウェーデンでの同性婚だった。
「結婚を機に両親にもカミングアウトしました。結婚というかたちをとったことで両親も納得しやすかったようです」
結婚してロンドンで暮らし始めると、今度は自然な流れで子どもを持つことを考えるようになった。とくにリカさんの妹が出産したことを契機に、子どもが欲しいという2人の気持ちは強くなっていった。
血のつながりが家族の条件ではない
ゲイカップルが子ども持つには代理出産か養子縁組が主な手段となる。ただ、当時暮らしていたイギリスでは養子縁組の条件がかなり厳しく、現実的な手段として代理出産が浮かび上がってきた。
代理出産に関しては、女性を道具にしている、子どもを金で買っているというような声もつきまとう。
「僕自身、はじめは代理出産についてネガティブな考えを持っていました。しかし、いろいろ調べていくうちに偏見が払拭されていったんです。もちろんきちんとしたエージェントを通すことが条件になりますが、代理母になる人は金銭目的だけでやっているわけではないのだということが分かってきました」
不妊の人を助けたいという動機から志望する代理母もいる。妊娠出産という経験を素晴らしいものと考えていて、それ自体から幸福感を得ている代理母も多いという。
「大切なのは一緒にたくさんの時間を過ごすこと」
「2人目は養子縁組もあるかもしれません。家族とはなにかと考えたときに、大切なのは一緒にたくさんの時間を過ごすことじゃないかと思うんです」
「友だちも家族だなと思えることがあります。特に子どもを持つことを諦めていた頃はゲイの友だちが家族だと思っていました。ときにはケンカもするけど別れられない、ずっと一緒にいる人。それが家族なんじゃないでしょうか。もしかしたらストレートの人たちの方が"典型的な家族"の幻想に縛られすぎているのかもしれない」
親になる自信がある人などいない
親になることには大きな責任がともなう。また、同性カップルが子どもを持つことはエゴではないのかといった声や、子どもがいじめられるのではという懸念もなくはない。
「子どもがほしいとは思っても、自分が親になれるんだろうかという迷いはありました。そんな時に子どもを持つストレートの女性から"ストレートだって自信があって親になるわけじゃない。私も親になる自信なんてなかった"と言われたんです。その一言に大きく背中を押されました」
同性婚を認めているスウェーデンでも性的マイノリティへのヘイトがまったくないわけではない。最近もレズビアンカップルがパブでひどい言葉をかけられた事件があったそうだ。
「子どものいじめはどこでも起きうることだと思います。いじめの原因は親がゲイだということに限らない。ストレートの親も同じようにする心配です。レズビアンのカップルが罵倒される事件があった時には、社会で議論となりヘイトを許さないという空気がすぐに出てきました。大事なのはいじめや差別があったときに周囲がどう対応するかではないでしょうか」
若い人たちに、ゲイも結婚して子育てできると思ってほしい
朝起きて隣に子どもが寝ている姿を見たときなど、なにげない日常に幸せを感じるとみっつんさん。
「でも、ふとした瞬間に自分が同性婚をしてスウェーデンで子育てしていることが信じられないような気持ちになることもあります。以前はゲイであるということで諦めていた日常ですから」
英語には「gay」(ゲイ)と「uncle」(おじさん)を合成した「guncle」というゲイの叔父・伯父を示す俗語がある。ゲイには甥や姪を可愛がる人が多い。それはゲイの多くに子どもがほしいという気持ちがあるからなのかもしれない。
「まだ日本のゲイコミュニティでは子どもがほしいとは言いにくい空気があると思います。そんなこと出来るわけないと否定されてしまう。でも子どもが欲しいのは自然なことなんです。だから、思ったことは口に出してみたほうがいい。はじめは否定されるかもしれませんが、そこから何かが変わりはじめるはずです」
「僕自身、同性婚にも子育てにも否定的だった時期がありますが、結婚したい、子どもがほしいと口に出すことで状況が変わりはじめた。最近では日本にいるゲイの友人たちにも家族を持つことを考え始める人が増えました。誰かがやりはじめると、どんどん後に続く人は出てくるのだと思います」
自分たちが子育てしている様子を多くの人たち、特に若い世代に見てもらいたいという気持ちから、みっつんさんは同性カップルの子育てについての情報や家族の日常をブログで発信している。
「若い人たちには昔の自分のように諦めてもらいたくない。ゲイも結婚して子育てできるんだと思ってもらいたいですね」
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(取材・文:宇田川しい 編集:笹川かおり/ハフポスト日本版)
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