地方創生というと、「ふるさと納税」や「ゆるキャラグランプリ」など、国や自治体が莫大な税金を投入している町おこしばかりが注目されがちだが、財政赤字に陥る自治体も出てくるなど事態はかなり深刻だ。
18年間、全国各地で「稼ぐ事業」の仕事をした経験をもとに『地方創生大全』を書いた木下斉さんに聞く、地方が生き残るために本当に必要な処方箋とは?
——一般に、ふるさと納税はいい制度だという認識が強いと思いますが、横浜市、名古屋市、世田谷区のように、寄付額よりも控除された税金が上回って収支が赤字だと悲鳴をあげている自治体も多いですね。
2016年には前年度比72%増と大幅に増えてふるさと納税総額は2844億円となっています。すでに、小さな自治体の財政収支への影響が非常に大きくなり、人口規模が大きく税収入が多い自治体が一方的に損する仕組みのため、東京のみならず政令指定都市、県庁所在地など地方都市さえも赤字を抱える自治体が少なくありません。
そもそも人口が多いということは税収が多いだけでなく、それだけ公共サービスが必要なため支出も大きいのですが、そういう基本構造が崩れ始めています。
今年に入ってからは赤字となっている自治体トップなどが少しずつ声をあげはじめたので、そろそろ各自治体で上限を設けるなど転換すべき時期だというのが私の考えです。
また、今まで売れなかったものが売れているのは、単に寄付者はタダ同然で商品が手に入るから売れているということがほとんどです。しかしそれは結局、税金で買い上げているだけの話であって、極端に地方振興策として美談に仕立て上げて単純に喜んでいる人が多いのも問題です。
——ゆるキャラブームも一段落ついた感がありますが。
2016年にはゆるキャラグランプリのエントリー数も前年比で減少するなど、税金頼みで乱立していたゆるキャラは一巡し、ある程度沈静化したと思います。
一部には経済効果があったという人もいますが、効果の試算内容もいい加減で、さらにその事業に費やされた費用は全く書かれていません。つまり、プラスの効果は眉唾でどんどん大きくし、逆に費用は無視した収支度外視の事業評価が多数ありました。今は、冷静に評価できるようになりました。
そもそも経済効果とかが書かれている際には、本当にそんなに効果が実態として起きているのか、ちゃんと疑う目が必要です。
メディアの方も、実施主体やシンクタンクなどが発表する「経済効果」を正確に分析している人はほとんどおらず、発表内容のまま記事に掲載してしまいます。
そうすれば、本当にものすごいお金が動いたように見えて、他自治体などが取り組む理由付けになってしまったりします。しかしながら、経済効果は固定的な評価方法があるわけではなく、かなり恣意的にいくらでも大きく試算することも可能です。
例えば、経済効果の中身をみると、もともと地元で売れていた商品にゆるキャラのラベルをつけただけのものをゆるキャラ効果の売上として入れてしまったり、観光客数増加もすべてゆるキャラが登場したイベントのお陰ということで観光消費額×動員数を売上に入れてしまったり、とかなりやりたい放題でした。
因果関係とかの検証はほとんどなく、なんとなくこれも入れちゃえ、みたいな感じですね。さらに、それにかかった様々な経費とかは一切踏まえられないばかりか、ゆるキャラ商品で売り場から排除された別商品の売上減少などの経済マイナス効果も無視されるのが「経済効果」の基本で、「事業の収支として評価する」という視点はほぼ見られません。プラス効果をどんどん足して、乗数効果でさらに数字を大きくし、マイナスは無視...という計算ばかりです。
——経済効果の中身を検証しないといけない。
だからこそ、ゆるキャラのみならず、様々な地方創生政策において「経済効果」が出た際には、メディアの方も、その発表された経済効果の中身を検証し、しっかり報道することが大切だと思います。
いい加減な経済効果を示した上で、だからこの程度の税金を投入することは妥当なのだ、という理由付けにして、結局地域は単に負担が増加するだけで衰退してしまうことは少なくありません。
予算で販促をやって税金で商品買い取ってもらって業績を伸ばす事業ばかりになれば、まじめにリスクをとって挑戦している事業者たちが馬鹿を見ることになります。結果、その地域の産業が真っ当に発展するかどうか、は今後わかると思います。
さらに、個別事業についても目標設定や収支の分析をきちんとせずに、人の気持ちとかストーリーとか、数字で表せない定性的な話で何事もうやむやに終わらせ、美談にみせるのも非常に無責任だと思いますね。
とんでもない金額の税金を使い、地方の財政課題や経済課題による貧困問題、教育問題などをさておいて、都合のよい「お金ではない価値がある」といったようなストーリーで美談に仕立てる地域での取り組みも少なくありません。
ちゃんとフェアにそれら地域事業を評価することも求められています。
——良い物を売って対価を得るという商売の基本に立ち返るよりも、国や自治体の予算に依存しようとするケースも増えている?
そうですね。一つには、戦後、公務員や会社員の比率が高まったことによる弊害もあると思います。1950年代には全労働者の5割以上が自営業とその家族が占めていたものが、現在は1割程度まで低下。逆に会社員公務員など組織労働を行い、給与をもらういわゆる"サラリーマン"が約4割から9割にまで拡大しています。
組織労働によって給与を貰うことが基本の労働となったことで、自らが具体的な価値を生み出す商品・サービスを作りだし、それをお客様まで直接届けて、対価を受取り、原価を差し引き、利益を生み出し、生計を立て、税金を支払って社会を支えるという基本構造がわかりにくくなってしまいました。
また、価値を生み出さないことをやったら損だけが拡大して、どんな良いことをいっても貧しくなっていくという残酷な現実と向き合うことも少なくなってしまったように思います。
私は親父が商売を昔はやっていたこともあり、お店というものを身近に感じられる幼少期を送れて、高校時代に関わった商店街活動で様々な中小零細企業の経営者と自然と接することができました。自ら日々の商売で生活をしていくということのリアリティを持てたことは、とても恵まれた経験だと思っています。
とても頑張っていた事業者の方でもうまくいかずに夜逃げされたり、社長が亡くなったことで商売が立ち行かず店を締めなくてはならなくなったり、様々な問題が身近にも起きました。
かくいう私も高校3年の時に全国商店街が出資する会社の社長になりましたが、経営で本当に悩みを持つことが多く、さらに黒字化しても株主間の対立に巻き込まれるなど、10代から20代にかけて綺麗事ではない体験を持てたことは今の糧となっています。
結局、地方活性化でも、価値を生み出すところまでやることのリアリティを感じられず、国や自治体に予算をつけてもらって「やることで報酬」を貰おうとする人は多いように思います。
自らリスクを負って借り入れをしたり、商品開発や営業をしたりするよりも、予算をもらって特産品開発をしている活動自体でお金をもらったほうが得だよね、という話になりがちです。けど、その財源は別の人がリスクを負って稼いだお金から支払われている税金だったりするという矛盾もそこにあります。
さらに、本来は普通に事業で儲けたほうが儲けは大きく、成長性もあることも無視されてしまいます。そういう儲けと向き合う事業の積み上げが地域全体の雇用増や平均所得改善、結果としての税収増加につながっていくことで地域発展になるのですが、そういう視点を持つ人は少なくなってしまいました。
最初から組織と予算がないと動けない、という人も少なくありません。結果として、地域はどんどん人のお金を使うばかりで、自分たちで稼ぐことがなく衰退してきてしまったと感じます。
行き過ぎたところでは、お客さんから対価を受け取って利益をあげることは汚いことで、税金を使って儲け度外視で活性化事業をやったり、そこから給料をもらうことはキレイなことみたいな感覚をお持ちの方もいたりして、驚くこともあります。今でこそ地域活性化分野で「稼ぐ」という話をしても怒られなくなりましたが、昔はよく「そんな金儲けの話をするな」と面と向かって怒られることも学生時代にはよくありました。
けれど、そういう金儲けの話をしない人ほど、実際には税金を使って好き勝手やっていたりする。個人として給料をちゃっかりもらっていたりして、つまりは「金儲け主義」だったりするので、困ったものだと思わされた記憶が多々あります。
もちろん、本当に金儲け主義ばかりの悪徳事業者が目立って、地域で迷惑かける場合もあります。けれど、"善意"をもとにリアルなお金のやりとりから離れてしまい、地域活性化に必要な予算すべて税金からまかなっている場合もある。一見すると「キレイ」な地域活性化をやっていて、それがいいことなのだという姿勢でいることが結局地域のマイナスを作り出し、衰退の原因になりえるかもしれないんです。
——税金を使う地域活性化がよいことと思っている場合もある。
一方で、地方で活躍される方は実家が商売をされていたり、家族がそれぞれ会社を立ち上げて事業をやってきたり、もしくは地方財閥と呼ばれるように先々代から脈々と事業を地域で発展させてきたような方の末裔が活躍されていることが見られます。
私のまわりでも、岩手県紫波町では建設業を営む実家が今後、縮小するだろう公共事業に依存しない事業構造を選択できるようにしようと、地元で自ら施設計画、開発、そして運営までも手がけて実績をあげている方も出てきています。北海道新ひだか町には鮮魚店であった実家を思い切って事業転換し、高付加価値飲食店を自ら展開して国内外から広くお客様を集めている方もいます。
さらに、もともとメディア事業などに取り組んでいた企業が地域内で事業承継に困っている企業の事業を買収し、成長していくケースなどもみられ、地域に新たな活力を作り出しています。
また、近年では会社員、公務員での挑戦の限界を感じて、自ら商売を始める方も増えてきています。和歌山県庁を辞めて居酒屋をはじめて繁盛している方がいたり、熱海市にはUターンで地元に戻って観光開発などで奮闘したりしている方もいます。会社員公務員として働いていた人が、従来のマインドから抜け出し、自分で仕掛けてみることが地方活性化においては欠かせない変化なのです。
やはり地方で新たな動きをつくるのは、小さくとも一つの商いを軽く始められる人材だと思います。そして地域に必要なサービスを自らリスクを負って開発し、小さくとも地域外からの稼ぎを地域に作り出すことだと思います。
(後編は近日掲載予定です)
木下斉(きのした・ひとし)
1982年、1982年東京都生まれ。エリア・イノベーション・アライアンス代表理事など。まちビジネス事業家、地域経済評論家。経営とまちづくりが専門。98年早稲田商店会の取り組みに関わり、00年から各地の事業型まち会社へ投資、経営などに携わる。著書に、『地方創生大全』『稼ぐまちが地方を変える』『まちで闘う方法論』、『まちづくりの経営力養成講座』などがある。