生みの親が育てられない子どもが、育ての親と戸籍上も親子になる「特別養子縁組」。
子育てに困難を抱える親の増加や、児童虐待などを背景に成立件数が増えている。
衆議院議員の野田聖子氏は、2016年12月成立の「特別養子縁組あっせん法」の成立に尽力してきた。
不妊治療を受け、2011年に50歳で息子を産んだ野田氏は、特別養子縁組について、どんな風にとらえているのか。そして、野田氏のイメージする「家族のかたち」とはーー。
■「働きながら育てるなんて安直です」と言われた時代
――野田さんが、特別養子縁組に興味を持つようになったきっかけは何でしょうか?
夫と結婚して子どもを持ちたいと思ったとき、最初は養護施設や乳児院にいる子どもたちを特別養子縁組で迎えたいと思ったんです。ところが、実際に動き始めたら、行く先々で年齢と共働きを理由に断られました。
夫と出会った頃だから10年くらい前かな。まだ特別養子縁組のあっせんに関する法律がない時代で、民間団体が独自に定めたルールのもとで縁組が行われていました。
――当時は、夫婦の一方が家にいないと養子は迎えられないとか、色々なルールがありましたね。
それもきちんと法律で定められたルールじゃなくて、民間の任意団体が決めていた"ルール"でした。
「傷ついた子どもたちだから、親には覚悟をもっていただかなきゃなりません。働きながら育てるなんて安直です」とか、「子どもが小学校に行ったときに、お母さんが歳をとっているといじめられて可哀想だからだめです」という理由です。団体側にはリスクを取りたくないと言う気持ちもあったのでしょう。
■この国では、親にならせてもらえないのか
何でこの国では、親にならせてもらえないのかなと思ったんです。子どもを産めない理由は、人それぞれです。もともと産めない体の人もいれば、私のようにがむしゃらに働かざるを得なくて、気がついたら産めなかった人もいる。
この社会ではまだ、女性は男性のように働かないと認めてもらえません。だけど、男性は、女性と違って生理も妊娠も出産もない。
私は32歳の時に国会議員になったんですが、その時に「男の職場なんだから、女であることを捨てて男以上に働け」と言われました。
それはある意味エールであり押しつけでもあった。でも私もそういうものだと思っていました。だって、その時のロールモデルって、土井たか子さんと市川房枝さんだったんですよ。
――女性がいない政治の世界で、道を切りひらいてきた
まるでジャングルのようでしたね。それに、有権者も議員は男の仕事だ、若い独身の女がやる仕事じゃないと思っていました。やるなら全部捨てろ、と支援者に言われましたから。
――仕事を続けたい、でも、出産もしたいと悩む人も増えていますが、そもそも仕事と子どもの両方を望んではいけないのでしょうか?
いいんですよ。仕事と子どもの両方を望んでいいんです。親になりたいと思うことは、普通のことです。普通とか普通じゃないとかいった言い方は良くないかもしれませんが、わざわざ議論するほどの話でもありません。
特別養子縁組は「子どもファースト」であるべき制度です。それは子どもの最善の利益を考える制度であるべきであり、子どもを二度と不幸にしちゃいけないという意味で子どもファーストです。親の方にもその覚悟は必要です。
だけどそれが、「母親が仕事をしている家庭は、特別養子縁組はダメ」という意味ではないと思います。ただ以前はそういう考え方があり、子どもが欲しいと願う人たちが簡単に切り捨てられていた。それはおかしいんじゃないかと思ったんです。
■大切なのは、子どもに伴走してあげること
――子どもファーストであるべき特別養子縁組という制度で、「親になるために求められるもの」とは何でしょうか。
もともとプロの親なんていません。子育てを始めた時は誰もが素人です。私もそうです。政治家としては30年目だけど、親としては6年目。だから、仕事とママ業を比べると、はるかに仕事のほうができるけれど、ママとしてはもういつも試行錯誤です。
「完璧な親なんかいない」という前提の元で、「だれでも親になれるけれど、親の使命は子どもと伴走することだ」という意識を持つ必要があると思います。自分のステータスのために子どもを持つようなことがあってはダメです。
親になってわかりましたが、親の愛とは関係なく、子育ては本当に理不尽なことの連続です。一生懸命育てていても、息子に殴られることがある。育てる側は、そういう「理不尽」を分かっていればいいんだと思う。
子どもの字が下手でも、絵が描けなくてもいい。親だって、白髪が生えていてもいいんです。大切なのは、その子のために伴走してあげられるということ。自分も、親にそうしてもらってきただけですから。
少子化対策として今までは「産む」政策ばかりが進められてきました。ただ「産む」ことばかりに力を入れていると、「産みたい」気持ちをもつ女性の間に対立を生んでしまうこともあります。
パンドラの箱を開けられないままに放置されてきたけど、親になりたいっていう気持ちは、「産める」「産めない」にも性別にも、全く関係ないことです。
自らは子ども授かることができない人たちも、「親になりたい」と言っていいと、私は思います。
■行政が、特別養子縁組をしっかりやっていかなきゃいけない
――ただ、今は「親を必要としている子どもたち」と「親になりたいという願う人たち」が、うまくつながっていないように感じます。
施設には親を必要としている子どもたちがいて、特別養子縁組を希望する親たちもたくさんいるのに、両者がうまくマッチングされていません。
そのために、2015年の児童福祉法改正では、全ての児童相談所に、特別養子縁組をあっせんする窓口を置くことが定められました。児童相談所に窓口を置くことで、これまでほとんどできていなかった行政による特別養子縁組を、今後はしっかりやっていくという姿勢を打ち出しています。
児童相談所は、虐待の子どもたちの対応などで多忙を極めていて、特別養子縁組にまで手がまわっていません。しかし養子縁組のあっせんは、他の先進国では当たり前の子ども施策です。
それが、これまで日本ではおおっぴらにやってはいけないことのように思われてきた部分がある。法律で養子縁組を後押しすることで、それをなくしたいと思います。
――養子縁組が広がっていくにつれ、おそらく議論になってくるのが、ひとり親や同性カップルによる養子縁組です。
多くの諸外国では、同性のカップルでも親になれます。また、実子のいる家庭では、2人目は養子を迎えるなど、養子縁組という制度を通してさまざまな家族のかたちが存在します。
日本でも、そういった家庭にも養子縁組を広げた方がいいと思われますか?
日本の法律でも、それ自体は禁止されていません。だから、私は問題ないと思います。この国はいい意味でも悪い意味でも法治国家です。法律がないと情報が広がりません。
私がやった卵子提供や代理母も、日本では禁止されていると思われているけど、法律がないから実は禁止はされていないんですよ。同じように特別養子縁組もこれまで法律がなかったから、今まで自由にやろうと思えばできたんです。
ただ、法律がないと市町村も啓発活動をしないから、特別養子縁組について知らない人も多かった。法律ができて特別養子組が広く知られるようになることで、そういった議論も今後活発になっていくのではないでしょうか。
インタビュー後半「血のつながりは親子に関係ない」命がけで出産した野田聖子さんが語る、子どもの幸せ」では野田氏に、法律によって特別養子縁組がどう変わっていくのか、自身の子育ての話とともに聞いた。
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