フランス人の夫とフルタイム共働きで、フリーライターを生業にしている。子どもは男児二人、パリ郊外のマンションに4人住まい。この体制での家庭運営も6年目に入った。
長男8歳次男5歳の食欲はいや増す一方で、毎日の食事作りも加速度的に「量が勝負」になっている。料理は好きだが、こうなってくるともはや好き・嫌いの範疇を超えた作業だ。
忙しい毎日の中、いかに合理化し、時間的・経済的・手間的・内容的に最適化するかが重要になってくる。
試行錯誤を経て、我が家の自炊ご飯には以下のルールが確立した。
・ワンプレートに3品載せる
・3品はそれぞれ炭水化物・タンパク質・野菜で作る
このことを子育て中のハフポスト日本版の編集者に話したら、とても興味を持ってもらえた。「家事の見直し・合理化」企画で紹介したいとのこと。料理研究家でも栄養士でもない、素人の自炊担当者に過ぎない身だが、ひょっとしたら何かの役に立つかも、と考えて話を受けた。
それは私の合理化のきっかけが、「子どもの食事作りにストレスを感じ、疲れ切ったこと」だったからだ。
子どものご飯作りが、料理好きのキャパを超えた日
私は食べることが大好きで、在仏ライターとしての取材分野には「食文化」もある。日々美味しいものを食べ続けるために料理を覚え、夫と共同生活を始めた11年前も、当然の成り行きで私が自炊担当になった。
「食べたいものを食べる」のが自炊の最大の理由なので、献立のスタート地点はまずそこだった。夫の希望も尋ねつつ、最近食べていないものや栄養バランスも考慮して、主菜1・副菜2・主食1と、4品ほどの献立を決める。その日の「食べたい」気分に合わせ、買い物にはほぼ毎日行っていた
が、長男と次男が生まれて、そのやり方では続けられなくなって来た。子どもは毎日好きなものだけを食べたがるし、大人と子どもでは、栄養的な必要のほか、好みの味や食材の状態(塊かピュレか、揚げ物か蒸し物か、など)も違う。
子育ての毎日はとにかくやることが多く、献立に合わせて買い物に行くのもしんどい。経済的にも、気楽な夫婦二人時代とは違う。
楽しい趣味だった料理は「家族4人の健康を預かる給食調理」に変わり、私の時間的精神的キャパシティを超えるものになっていた。
夜はお腹がいっぱいになればいい
好きだった自炊に、見過ごせないほどのストレスを感じるようになった頃。当時5歳だった長男がフランス人のお友達の家に呼ばれて、夕食をご馳走になる機会があった。
どんな美味しいものを食べてくるのかと思いきや、献立は「冷凍食品ナゲットと塩茹でパスタのケチャップトッピング、デザートにアイス」。以上。良くいえばシンプル、悪くいえば手抜き感満載の食事に、私が驚いたのは言うまでもない。
親御さん(フルタイム共働き)にもそのシンプルさの自覚はあって、食後に迎えに行くと、あっけらかんと話された。
「簡単なメニューだったけど、全部食べたわよ!早く食べ終わって遊びたいって、必死だったわね」
そして平日は、大抵そんな感じの食事だという。
「昼間、保育園や幼稚園の給食でバランスのとれた食事をしてくるから、夜はお腹がいっぱいになればいいのよ。うちは食事に時間をかけるより、一緒に本を読んだり、早めに寝かすことの方が大切だと思ってるから」
その回答に、目が覚める思いがした。
それまで私は「子どもの食事」について、テーブルの範囲でしか考えていなかった。その日の食卓に何を載せるか。食は大切なものだから面倒がってはいけない、時間と労力がかかっても仕方のないものだのだと、合理化する対象にもなっていなかったのだ。
それで無理がないならいいが、その時私は明らかに疲弊し、毎日の自炊が強いストレスになっていた。さりとてこのお友達の家庭のように、徹底して簡略化したいとも思えない。料理自体はやっぱり好きだし、フランスに住む我が子たちが日本の味に親しむには、私が日本食を作るのが一番だ。
「私は子どもたちの食事を、どのようにしたいのだろう」
その時初めて、真剣に考えてみた。私に無理のない、かつ子どもたちに与えたい「我が家の食生活」とはどんなものなのだろう。家族運営のために必要な作業の一つとして。
「子どものご飯」の、我が家的優先順位を考える
まず最初に考えたのは、「子の食事作り」で私が重要と思う事項と、その優先順位だった。これは15年以上の社会人経験で身につけた問題解決法だ。
「作業に混乱が生じたら、優先順位に沿ってやり方を再考する」。同じ方法を自炊に適用してみようと思いつき、そこで上がったのが、以下の5か条だった。
1 最低限の栄養バランスの取れた食事を与える
2 「三角食べ」を身につけさせる
3 日本の味に親しませる
4 支度にかける時間を減らす(買い物、調理)
5 この作業について考える時間を減らす(献立作り)
自分なりの優先順位が整理できたので、次は、それを実現する運用法を考えた。試行錯誤しつつ、今では以下のようなルールになっている。
1 献立は三大栄養素それぞれ1品ずつ、計3品とする。3品は、タンパク質(肉・魚・豆・卵)、野菜、穀物。
2 その3品をワンプレートに盛る(洗いものが減る、かつ三角食べが視覚化できる)
3 2日はおかずが連続してもよし(作り置き前提で多めに作る)
4 出来合いの惣菜を使ってもよし
5 3品が揃わない日があってもよし。その場合は翌日に帳尻を合わせる。
時間と家計の余裕に合わせて内容は変わるが、とにかく作るのは「3品」。優先順位の第1位は「三大栄養素取得」なので、その全部が入っていればよしとしつつ、麺や丼料理1品にする日もある。時間も気力も限界で火を使うのも嫌な日は「ハムときゅうりを挟んだサンドイッチ」でもいい。
私が留守の日は夫が同じルールで支度をし、外食の注文も上記のルールに即して考える。食材は週に1回、土曜日の朝市でまとめ買いし、献立はそれを使い切ることを目指して考えることにした。
合理化ルールは、各家庭で違っていい
自炊を合理化してから3年。ストレスは明らかに減った。子どもの好みと作りやすさに即したレパートリーが出来て、献立を考える点でもだいぶ省エネできている。
平日は、6時に仕事を終えて子どもたちを迎えに行き、6時半から料理を開始、出来次第食べさせる。写真は2017年9月の献立だ。素人料理をお目にかけるのも恐縮だが、運用の一例としてご笑覧いただきたい。
長男はなんでも食べるが、次男は現在、野菜はキュウリ・ブロッコリー・インゲンしか食べないので、使用頻度が高くなっている。ミキサーにかけたピュレやポタージュなら苦手な野菜でも食べるから、外気温が下がるこれからの季節は、スープの登場回数が多くなるだろう。
ちなみにこのルールに関して夫の不平はない。「献立が嫌なら別途、自分でなんとかする」と合意している。平日はこれでやっていき、ゆとりのある週末は、煮込みや揚げ物など時間のかかる料理を作ったりする。
私のやり方が栄養学的にベストかどうかは分からない。が、子どもたちはとりあえず健康で成長曲線に問題はなく、学校にもかかりつけ医にも食事の内容を心配されたことはない。
和風の味は大好物で、日本に滞在すると親戚が驚くほどの量を食べる。箸での三角食べもなんとか身についた。私の優先事項はとりあえず達成されている、としていいだろう。
図らずして「三大栄養素摂取の重要性」も刷り込まれたようで、先日は8歳の長男がこんなことを言ってきた。
「ママ、今日は給食で野菜をたくさん食べてきたから、夜は野菜なしでもいいんじゃない?」
教えていないはずなのに、献立の帳尻合わせまで覚えてしまったようだ。
重ねて言うが、これはあくまで我が家のケースである。が、家事を「自分の優先順位」に引き寄せて、合理化する一例としては、分かりやすいのではと思う。子どもの食事作りがストレスになっている自炊担当の同志たちの、息抜きの読み物になれれば幸いである。
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髙崎順子 パリ在住ライター
1974年東京生まれ。大学卒業後、出版社で編集者として勤務。2000年渡仏し、パリ第4大学ソルボンヌなどでフランス語を学ぶ。近著に『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮社)『パリのごちそう〜食いしん坊のためのガイドブック』(主婦と生活社)など。