小室哲哉さんが明かす、曲作りのヒミツ 「過去の自分の成功以上に信用できるものはない」

浅倉大介さんとのユニット「PANDORA」が話題。作曲、ブロックチェーン化する音楽の未来を語りました。
Kei Yoshikawa/HuffPost Japan

小室哲哉さん、浅倉大介さんによるユニット「PANDORA」が始動した。9月3日に配信が開始された曲を聞いてみると、90年代に青春を過ごした筆者としては、耳に馴染みすぎた「あの頃の小室サウンド」そのまま。

そこで、小室さんに曲作りのヒミツを聞いてみると、返ってきた「意図的ですね、それは、かなり」とずいぶんアッサリした答えに驚かされた。

「意図」の背景を尋ねていくと、小室さんは「評判がすべて」と言い切り、再びビックリ。そして、「音楽はデータの時代を迎える」とみる小室さんの、音楽を通じた社会との向き合い方や、音楽産業の見方が徐々に明らかになっていった。

——最新曲で、「PANDORA」の第1弾として発表されたPANDORA feat.Beverlyの『Be The One』は、これぞ小室さんのサウンドという感じでどこか懐かしい雰囲気も感じました。

僕の頭の中で、こういうフレーズにしよう、あれを真似ようっていうのは、全部、自分のヒット曲で認められてるものから来ているんですよ。

——えっ、そうだったのですか。

やっぱり1回認められてるものは、いわゆるもう1回塗り替えて作り直しても大丈夫かなっていう思いがあって。

人の曲だと盗作になっちゃいますけど、あえて、自分の過去のフレーズで「ここは聞いたことがある!」って思ってもらえるポイントを意識的に盛り込んでいます。

全部楽器を抜いちゃって、例えば「ピアノ1本とかギター1本で、ここだけ歌うとあの曲と一緒」とかいう箇所はたくさんありますね。

多分それが、「なんかこれって、アレっぽいな」とか、昔の感覚が蘇ったな、みたいに思うところだと思いますよ。まあ意図的ですね、それ、かなり。

——意図的なんですね。

10周年、20周年とか、節目節目では「今までにないものを」とかっていうことを考えたりもしたんですよ。

でも、意図的に「前にヒットした、自分のこのフレーズをもう1回使ってもいいかな」と思ってやったほうが、みんなの期待に応えることが多いかなっていう思いに今は至っています。

おそらく、人間ってそこまで記憶とか記録ができないんだなと思うんです。極端な例えですけど、「いいもの」と「悪いもの」が人間の記憶の中では精査されていって、結局「すごくいいもの」と「すごく悪いもの」だけ覚えてる。それが人間かなと思いますね。

だから、「ちょっといいもの」よりは「すごくいいもの」のほうが残る。それを使わない手はないなと思うんです。

——すごい割り切り方でいらっしゃるんですね。

実績と業績と、現実ですから、それが。過去の自分の成功以上に信用できるものはないですよね。

自分の能力から出たものが認められた作品というのは、やっぱり一番大きい。人の力を借りてっていうものだと自信が持てないんですけど、自分でゼロから作ったなというものをお手本にするとこはすごく自信になります。なんか純粋というか、化合物がないという感じですね。

——比べるのは失礼ですが、私は、昔、自分が書いた物なんて、いくら高評価でも恥ずかしくて見られるもんじゃないんですが...。

僕も、作品自体を見るとそこまで思えないんですけどね。やっぱり枚数だったりとか、聞いてた人間の数とかはやっぱり数字ですからね。

圧倒的に、受け入れられたんだなと思って。普通のことで、ミリオンセラー、100万人を動かすっていうことはなかなか起きない。数字の力に支えられているっていうのは感じます。

小室哲哉・浅倉大介によるユニット「PANDORA」
小室哲哉・浅倉大介によるユニット「PANDORA」
Avex Entertainment Inc

——今回、浅倉大介さんとの「師弟ユニット」ということですね。スタートさせた理由を教えてください。

最初にこういうことを始めようと考えてから、まだ1年経っていないと思います。globe、TM NETWORKは続いてはいるんですが、ソロが長かったので、「誰かと話して音楽作りたいな」ってずっと思っていました。

組む相手は、勝手知ったる、気の置けない人とやりたい。それで探してみたら、思ったよりすごく近くにいたという感じです。同じ場所に同じ業種の人が2人いなくてもいいプロジェクトで、2人いたら面白いかなって思ったんですよね。

大ちゃんは、全然ぶつかることもない人。といって、アシスタントになるわけでもない。そう予想していて、結果、予想通りになりましたね。クリエイトしてる時のストレスがない。「こういう系統の音が好きなんだろうな」ってこともわかっているので、自由にやれますね。

——浅倉さんとはそういうご関係なんですね。

浅倉大介っていう人は、すごくソフトなイメージ。でも僕からしたら、実際はすごく、言いたいことは言う、嫌いなものは嫌いって言う、すごく好き嫌いがはっきりしてる人。僕にもはっきり言うことは言う、でも僕よりすごい社交的だし。僕は、基本は内向的なので。

——そうですね、一人でいる時間を大切にされているなっていう印象です。

一人で考えるのがもともと好きなんですよね。だからなかなか、皆と考えるっていうのがうまくできない方ではあるんで。

——では、お二人のユニットの第一弾になる『Be The One』の曲作りも、ベースはそれぞれで?

そうですね、僕が「こんなベーシックがあるんだけど」って渡して。そこが先輩のいいとこっていうか「あとは大ちゃん、どうにかして」みたいな。そうしたら、本当にどうにかしてくれるんで。

——すごい信頼関係ですね。

そうなんだよね。めちゃくちゃ楽だなっていうのが正直なところで。

——歌手はBeverlyさんですが、今まで数々の女性プロデュースされてきた小室さんからご覧になって、どんな方ですか?

本当に久々に現れた本物っていうか大型新人だと思いますよね、歌唱力っていう意味で。久しぶりに聞いた、フレキシブルな、何にも適応するし、適応のスキルが高い歌手です。そこが、ワールドワイドというか、あまり偏ってないというか、誰にでも「すごい」と思わせる力を持っていると思います。

——歌詞の内容もそうですが、強い女性を表現されていますね。

歌詞だけ見ると、女性目線だと、「強い女性の時代」って思うかもしれない。でも男性は「あっ、僕のことだな」と思うかもしれない。それが音楽のいいところなんです。その人の視点によって違う捉え方でいいと思っています。

僕の場合は「自分はこれが言いたかったんだ」「こういう思いで生きてるんだ」ということを歌詞に入れようとは、あんまり思ったことがないんですよ。

そうではなく、社会への投げかけを意識しています。「こういう風に思いますよね?」という、常にisn't it?だったり、don't you?が最後に付くんですよ。

——なるほど。それって社会と対話をされてるっていう感じなんですか。

うん、僕の場合、メッセージじゃなくて問いかけですかね。

——今回の曲では、どんな問いかけを?

この曲は『仮面ライダービルド』(テレビ朝日系)の主題歌です。番組の制作者も、視聴者も皆、「誰かヒーローがいたらいいな」って思う気持ちを、持ってると思うんです。

現実の世界、経済や政治やあらゆることでも、ヒーローやヒロイン、かっこよくて強くて代えが効かない人が出てくれたらいいな、っていう気持ちを人は常に持っているんだと思うんですよね。そういう人に憧れてる。そういう人に、何かを預けたい、任せたいなっていう気持ち。そういう願いがありませんか?っていう問いかけをしてると思いますね。

——小室さんは今の時代をどんな風に捉えていらっしゃるんですか。

人々はヒーローを求めてる。でも、自分の描いてる像にならないのがもどかしいという感じでしょうか。

人々が求めているヒーロー像は、結構明確だったりすると思うんですよね。それなのに「これは」と思った人がブレたり、ズレたり、思うようにいかなかったり、納得いかなかったり格好悪かったりして、嫌な、残念だというか、そういう気持ちになってしまう。

それに、ネットで気持ちを反映できる時代というのもありますね。昔は、内に秘めておかなくてはならなかった気持ちを、今はパッと言えちゃう。そういう、気持ちがちゃんと外に現れている時代。皆が思っていることがわかってしまう。そういう時代だと思いますね。

——Twitterなども活発に発信されていますが、今は時代の空気感を捉えるのにも活用されているんですか?

はい。とても全部を把握しきれているとは思いません。本当に、うわべだけだとは思いますけども。

でも、ソーシャルがすべて表現してるとは思わないです。今も変わらぬ王様であるテレビと、ソーシャルと、バランスよく両方行ったり来たりして見るようにはしてます。今は、偏っちゃうとあんまりよくないのかなって思ってますね。

Kei Yoshikawa/HuffPost Japan

——PANDORAの箱の中には、テクノロジーとアートが入ってると表現されていました。最近は、「INNOVATION WORLD FESTA(イノフェス)」や、オーストリア・リンツでのメディアアートの祭典「アルスエレクトロニカ」など、テクノロジーやアートとの共演にも積極的に取り組んでおられます。どんな体験でしたか?

まず、フリーダムがあるなって感じました。始まりもないし終わりもなくていいんだ、みたいな感じで。そして、アーティストがあんまり観客に期待してないっていう体験が印象的でしたね。

——「期待してない」ですか?

コンサートの最初からいて、最後まで立ち去らないみたいなことが期待だとしたら、ギャラリーでは途中でもサッと出て行っちゃったりするんですよね。アーティストもそれが当たり前と思ってる。

僕らからしたら、ライブの途中から入って途中で出ちゃうみたいなことなので、ちょっとインパクトありましたね。「最後にいいところあるんだけどな...」みたいにね。

——最後まで見て欲しかったのに...そういう辛い気持ちにならないんでしょうか?

一緒に組んだ脇田さん(慶應義塾大・脇田玲教授)なんかも全く思ってなかったんですよ。ちょっと、時空の感覚、考え方が違うかもしれないですね。僕らよりももっと立体的に見てる感じですかね。

僕たちは一面、タイムコードの上しか見ていないんですけど、彼らはタイムコードの上では生きてない気がしました。もっと全部可視化してる、見ている感じがしました。

——経験を通じてどんなことを得ましたか?

タフになりましたよね。気持ち的に。

真のアーティストは、ウケを待ち望んじゃいけない。ウケなくて当たり前、自分がやりたいことをやってるっていうことだったので。なんか拍手みたいのも求めちゃいけないっていう感じですね、アートは。

僕たちなんかちょっとおごってて、絶賛で当たり前みたいなところとか、拍手もらって当然みたいに思ってるとこもあるんですね。本来なら、曲が終わってもだめだったらシーンとしててもよかったりするに、でもやっぱり持って行きたがるんですよ、僕たちっていうのは。

——先ほどからの小室さんの「社会に提案して評価を受け取る」という感覚とアートの考え方は、ずいぶん違うのですね。

僕らは、商業音楽が基本ですから、通常に営業してる感じで「アーティスト」になれるっていうのは、一番理想ですけども。

昔からアートって生きてるうちにはお金にならなくて、ビジネスっていう意味ではほとんどの人が死後に成立している。生きてる間は、生きて行くだけで精一杯という芸術家が多いと思うんですよね。

現実にはあり得ないというか、なかなか。現実じゃないんですよね、アートってきっと。

だから没後に急に評価されたりする。その理由は、リアルにその人がしゃべったりすると、嫌なんじゃないかな?っていう気もしますね。

アートとして評価されたらされたで、さっきの話じゃないですが「ヒーロー」になってしまって、「こうあってほしい」という社会の気持ちに縛られてしまうと思うんですよ。

——気づかれない方がむしろいいかもしれない。

うんうん。難しいところで、作家があまり前に出てしまうと、内容に没頭できない、っていうところもあると思うんですよね。

僕らの仕事の場合はちょっと、やっぱり主張しないとだめなところもあって、まあ微妙な立ち位置ですね。

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——最終的にはアートを目指していきたいというお気持ちがあったりするんですか?

いや、ないですね。

僕はリアリストっていうか現実的なんです。「いつか誰かが認めてくれればいい」っていうよりは、ちゃんと、数字に現れたりとか、そういったもののほうが、やっぱりうれしいんですよ。

ずっとそうやって30年、35年来てるので。やっぱり、データだったり数字だったり、reputation(評判)が全てみたいなとこもあるかもしれないですね。

——それは別の意味で、タフな世界だと思うんですが。

うん、それもすごくタフな世界。

——その世界で、30年走ってこられるというのが本当にすごいです。どうしてそこまで、「社会」を信じられるんでしょうか?

結果が出て、また次の試合に向かうっていうところが、意外と、僕らの仕事ってアスリートというかスポーツと似てるんですよ。アーティストと比べると。

アーティストの場合、自分の中での構成、終わりのない旅みたいなところがありますけど、僕らの場合は世の中に提案してみて、結果がとりあえず出るので、もう1回仕切り直しっていう気持ちは出てきます。

ただ、大変なところは、1回ミスると、立ち直るのが大変だっていうところですね。だから成功し続けないと。

——アートではなく、エンタテイメントに徹するという覚悟はいつからなんですか?

最初からそこの職業になりたいと思ってたので。注文を受けて、オーダーを受けて、そのリクエストにちゃんと応える音楽家になりたいと思っていました。だから昔の宮廷音楽家の人たちがそうだったかもしれない、パトロンがいてなんぼっていう世界ですよね。それになりたかったので、変わってないです、そこに関しては。

Kei Yoshikawa/HuffPost Japan

——音楽産業は冬の時代と言われています。

そうですね。まあ、音楽だけだったら冬の時代だと思いますね、もちろん。でも、まあ冬も季節の一つで、死んじゃうわけじゃないので。春が来るための時期であるって考え方にまず転換することだと思います。

それから、ゲームだったりとかアニメだったりとか、まあ映画だったり映像だったりとか、アートもそうかもしれないですけど、カテゴライズされた、色々なジャンルがチェーンする必要がありますよね。

まさに今、ブロックチェーンっていうふさわしい技術が世の中で提案されていますけれど、音楽とゲームって、ブロックとブロックがチェーンすることで1つのかたちを作る。それで、インターネットとかよりも、もっと大きな情報のデータベースになるみたいな、そういう考え方になるのかなって思ってます。そこに音楽も1個ブロックとしてあったら十分だと思いますね。その中に入れないとまずいと思いますけど。

——音楽を単体として捉えるのではないということですね。

エンタメっていうブロックチェーンがあるとしたら、そこの1個のブロックに音楽がなってれば十分かなと思います。

そうするとデータベースを全員が共有して、そこにファイルが置かれることになるので、そういった考え方や発想って、ネットの社会ともすごい合致すると思います。

音楽も、インターネット的な世界の中にちゃんとカチャッとはまる、そういうものになると思いますね。

元々産業として、音楽が一番上とかあり得ないんですよ。映画音楽とかもそうですけどね。

ちょっとCDの時代がバブルだったかもしんないですね。CDっていう、いわゆる1回作って録っちゃえばやり直して何回も何回もレコーディングし直して、ちょっとこれはラクしすぎだと思うんですよね。

もっとコピーじゃなくて、働かなきゃいけなかったんだと思いますね。で、(アンディ・)ウォーホルからコピーカルチャーっていうのが始まったとして、彼のブレンド、テイストとか消えた頃にCDも消えたなっていう気がすごいしています。

——象徴的なものですね。

そうです、もう完全に。CDもウォーホルもコピーカルチャーの象徴です。

——これからCDの時代が終わり、次は何の時代と言ったらいいでしょうか?

うーん、僕はデータの時代だと思いますね。

reputation(評判)が、全部もっと数字の明確なデータになってくので、だからデータの時代だと思いますね。

そのデータを、どれだけアンダーコントロールに置けるかっていうところだと思います。

ライブの時代とも言われますが、ライブも生物(なまもの)と思われていますが、ほとんどデータなので。

バンドでさえ、人の力っていうよりもやっぱり演出だったりとか、フェスだったり、いろんなとこに乗っからないと生き生きしてこないとか。

それも、全部がゼロとイチの世界の上に乗っかってたりする。

ちゃんとストーリーに基づいてお客さんが来てくれてとか、全部データに基づいた、もう集まるべくして集まる人が来て、そこで盛り上がるべくして盛り上がるみたいなことですね。

ウッドストックがフェスの始まりだとしたら、あの頃は、多分、想像もしないことが起きたと思うんですよ。今はフェスでも、想像がつく世界になっている。

もちろん、人の力も必要ですけど、共存してますよ。

——PANDORAも、これからストーリーを作っていかれるのでしょうか?

もちろん、これから。当然、ライブっていう感じですね、それを収めるパッケージであったり、ネットで広がる動画、みたいな仕掛けをしていきたいですね。

——どんなストーリーになりそうですか?

それには時間の経過がやっぱりないと。うん、いろんなものを積み上げるってストーリーを、作っていきたいですね。

小室哲哉 Tetsuya_Komuro

1958年11月27日東京都生まれ。

音楽家。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家、編曲家、キーボーディスト、シンセサイザープログラマー、ミキシングエンジニア、DJ。83年、宇都宮隆、木根尚登とTM NETWORK(のちのTMN)を結成し、84年に「金曜日のライオン」でデビュー。

同ユニットのリーダーとして、早くからその音楽的才能を開花。93年にtrfを手がけたことがきっかけで、一気にプロデューサーとしてブレイクした。以後、篠原涼子、安室奈美恵、華原朋美、H Jungle With t、globeなど、自身が手がけたアーティストが次々にミリオンヒット。2010年、作曲家としての活動を再開。AAA、森進一、北乃きい、超特急、SCANDAL、Tofubeats、超新星、SMAP、浜崎あゆみなど幅広いアーティストに楽曲を提供している。

2017年夏、かつてTM NETWORKのサポートメンバーも務め、accessとしても活躍する浅倉大介との新ユニット"PANDORA(パンドラ)"を結成。第1弾楽曲はフューチャリングボーカルにハイトーンボイスを持つ世界レベルの実力派シンガーBeverly(ビバリー)を迎え、2017年9月からのテレビ朝日系「仮面ライダービルド」主題歌「Be The One」を手がける。

■小室哲哉オフィシャルホームページ / SNS

http://avex.jp/tk/

https://twitter.com/Tetsuya_Komuro

https://www.instagram.com/tk19581127

■PANDORAオフィシャルホームページ

http://avex.jp/pandora/

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