「男性のカラダを理解するためチンボーグを作った」スプツニ子!さんに聞いてみた

男女の「差」って克服できないの?
Kaori Nishida

男性と女性は永遠にわかり合えない。

カラダが違う。男性は勃起をする。女性は生理がくる。その可笑しさ、その苦しみは経験しないと分からない。

現代アーティストのスプツニ子!さんは、テクノロジーとアートの力で、男女の違いを表現し、お互いが理解し合うためのヒントを発信してきた。

アメリカでは、へんてこりんな大統領の登場によって、国民が悪口を言い合って、立場がちがう人同士の「分断」が起きている。私はそれが嫌だ。

だからいろんな人と話をしている。スプツニ子!さんに聞いてみた。

スプツニ子!さん
スプツニ子!さん
KAORI NISHIDA

男女平等になっても乗り越えられないカラダの差

—— スプツニ子!さんは、テクノロジーやアートの力で、男女の差などジェンダーの違いを理解し合えると思いますか。

1985年に生まれて、思春期を日本で過ごし、ロンドンでコンピューターサイエンスと数学を勉強しました。母はコンピュータープログラマー。女性として理系の分野で身を立てていくときに彼女なりの苦悩があったと思うんです。

一方、私の時代の女性が直面するのは、生物学的な女性としての私たちなのではないか、と考えました。

社会が男女平等に向けて動いていったとき、残ってくるのが生物学的な差異。男性のほうが、一般的に体力もある一方、女の人は比較的、身体的に弱く、何より毎月、生理になる。

生理になると不安定になるし、おなかが痛くなって、血も出る。仕事の効率は落ちます。出産すれば、仕事を中断する。こうした「差」をテクノロジーで克服したり、せめてこの気持ちを異なる性の人に伝えたりしたいと思い始めました。

KAORI NISHIDA

——「仕方ないこと」とは思わなかったんですね。

人間はさまざまな「仕方のないもの」を自らの手で乗り越えてきた歴史があります。インターネットがある時代。それなのに、人類の半分に影響を与えるような生理についてあまり解決されていない。

そこで英国王立芸術学院(RCA)の卒業制作で、「生理マシーン、タカシの場合。」をつくりました。「女の子になりたい」と感じた男子のタカシが女性装だけでは物足りなくなり、月経を体感するため「生理マシーン」を身につけるというコンセプトです。

おなかの部分に痛みを伝える電極をつけ、うしろのタンクから血が5日間かけて80ミリリットルながれる装置です。

「生理マシーン、タカシの場合。」の動画

——ご自身は「生理」についてどう考えていますか。

生理になったら私女性じゃん、人間じゃん、「ちぇ」って思いますよね。半分冗談ですけど、生理がないときは空も飛べるかもと思うことがあるんです。

男性の人も「俺、スーパーマン」ってエゴが誇張している人いますよね。ビジネス誌を読んでテクノロジーに詳しくて、仕事ができる男性。

でも、生理のようなカラダの現象って、エゴを壊すんです。仕事の予定をひとつたてるにしても、女の人は、生理周期に合わせて「ここの週は不調だから重要なイベントや会議入れないよう」などと仕事を組んできます。

男の人はロボットに近いというか、「いつも同じように働ける」という前提を持ちがちですよね。そんなことないし、そんな人ばかりでないのに。

KAORI NISHIDA

お互いの""を知るために

——ところで、私は20代前半の頃に、飲み屋で男性に関係を迫られたことがあります。股間をみると彼のカラダが反応している。彼と小説の話をしていたので、魅力を感じましたし、男性に恋愛感情を抱かれることはなんとも思いませんでした。

ただ、体格が良くて力強くみえる人が、お酒のいきおいで性的な目線を向けることの怖さを知り、ハフポストで性暴力の記事などを書く度に思い出します。

いまおっしゃったような「リアルワールドでの出会い」はなかなか侮れないです。街の中で、ふとした瞬間に「求めていない情報」を吸収することで、人間はより寛容になれると思います。

異なる性を持った人の気持ちを部分的にでも「体感」すること、意図しないことを発見する「セレンディピティ」は私も大切にしている概念です。

私はお金持ちのリビングに飾ってもらう作品ではなくて、なにげなくスマホでYouTubeをみてたら、おもしろい動画で流れて、自分の性の不思議さや異なる性を持った人、違う立場の気持ちを「発見する」ような作品をつくりたいですね。

KAORI NISHIDA

——どんな作品が理想ですか。

私が教えているマサチューセッツ工科大学(MIT)で、The Future of Empathy(共感の未来)を探る授業を担当していました。ハーバード大の中国出身の女性が「一人っ子政策」に関する作品を考えました。

「一人っ子政策」によって、中国の家庭では原則として、長らく子供を2人以上持てませんでした。彼女のお父さんは、生まれる前に子供が「女だ」と分かったときに中絶するかどうか迷ったみたいなんですね。

聞かされたときに彼女は大変なショックを受けました。そのほかにも、「女性だから勉強しないで早く結婚しなさい」などと親類に言われるらしいです。

彼女は女性として「言われて嫌だったこと」を女性の友達から丁寧に集め、バーチャルリアリティーフィルムとして撮影しました。「女性だから結婚しなさい」という言葉は、"体感"すれば、「そんなの無視すればいい」とは言えないはずです。

KAORI NISHIDA

——テクノロジーにそこまで期待してもいいのですか。

難しい点です。私が所属する「MITメディアラボ」を創設した、ニコラス・ネグロポンテ氏は、インターネットをノーベル賞にノミネートしたぐらいネットに期待を持っています。

彼の思い描いたインターネットは、世界を融合させるものでした。しかしながら、今では情報があふれすぎ、私たちは好きな情報だけを選び取るようになったり、ネットで異なる立場の人への敵意をむき出しにしたりするようにもなりました。「共感」を生みつつ、「分断」のきっかけにもなっていますよね。転換期を迎えてます。

KAORI NISHIDA

——人工授精で、子どもが出来ないカラダだった人も、子どもを産める可能性が高まりました。生物学的な男性であっても、子どもを産むカラダを手に入れられる、何人とでも結婚できる、そんな世の中になったら多様だな、と思います。一方、「無限の自由」に苦しむ場面も多くなりそうです。

そこは分かります。今の人間のカラダのインターフェイスだと、うっかり子どもが出来るとか、選択していないのに女性、男性になっていく。心とカラダで感じる性の差に苦しむ人にとってはつらいことである一方、「その方が楽ちんだ」と思う人がいるのは確かです。

アップル社の故スティーブ・ジョブズ氏も、毎日同じような服を着て、「服を選ぶ自由」をあえて放棄してましたよね。

インターネットは何でもできたんですよ。だから希望があった。でも、人はわざわざ好奇心を持って様々なことを知ろうという人ばっかりかといったら、そうではなかったと、明らかになってきました。

自分のカラダのあり方が決まっていることに違和感がある人がいる一方で、「そちらの方がラクだ。何で気にするの?」という人もいる。

テクノロジーやアートを通して「相互理解をして平和になろう」っていう人ばかりでもないですよね。自分の憎しみや偏見をさらに強化するような情報を選び取ったり、シェアをするほうに走ったりするっていう人もいます。

テクノロジーで可能になったことはいっぱい見えてきましたが、それを人間が選び取るかはまた別問題ですよね。

——私もテクノロジーやアートの未来にとても期待しています。男性が女性のことを分からない一方、男性のカラダについて、女性もまだまだ分からないことが多いはずです。

私は、生理のことを男性などに伝えるだけでなく、男性のカラダのことも理解しようと、「チンボーグ」という作品をつくりました。

© Sputniko!

装着した人の心拍数にもとづいて、モーターが上下に動く架空の「ペニス」です。実際は心拍数以外の要素で反応するのでしょうが、こうしたプロジェクトも今後は続けていきたいですね。だから今は完全には分からないかもしれないけど、分かる工夫や行動はできるって信じてます。

——もっと未来になったら、男女だけでなく、人工知能と人間同士の関係も問われそうですね。

人工知能にも期待しているんです。人間にとって一番の恐怖は孤独だと思うんです。高齢者でも孤独死が問題になっていますが、誰にだって訪れる感情です。

たとえば、朝の3時ぐらいにふと起きて、誰かと話したいと感じたことはないでしょうか。その時間は誰も起きてないし、「いのちの電話」がつながらない時もある。

これ、人工知能が会話をしてくれたらどれだけ助かるのかなと思います。私の過去のFacebook投稿やGmailの内容で、それなりに人工知能が私のことを「理解」してくれているはずだから、夜中の3時に話しかけても、ある程度会話が成立すると思うんです。

——夜中の3時にリアルな人間にLINEして、たまたま既読になったときのほうがロマンチックだと思いますが。

私は人に気を遣うので、そんな時間にメッセージ送りません(笑)。

スパイク・ジョーンズ監督・脚本によるアメリカのSF恋愛映画「her」では、コンピューターのオペレーティングシステムに恋をする男性が描かれました。ロボットと会話ができたら、結婚の必要がなくなる可能性もあります。

本当の意味でロボットは私に共感していないのでしょうが、孤独は癒やされると思うんです。極端な話、亡くなった恋人のデータを人工知能が持っていれば、死者と会話をする気分を味わうこともできますよね。

いまおっしゃったような「夜中の3時のLINE」の感動はないでしょうが、これまでこのインタビューで話してきた共感より「癒やし」の方がテクノロジーには期待できるのかもしれません。

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※こちらのイベントは、申し込みを締め切りました。たくさんのご応募、ありがとうございました。

スプツニ子!さんをお呼びして、イベントをひらきます。

<ハフポスト企画> ジェンダーを超えるアートの可能性

・会期・会場:10月1日(日)イイノホール (東京都千代田区内幸町2−1−1飯野ビルディング4階 地下鉄・霞ヶ関駅直結)

・参加料:無料(事前申込が必要です)

・申込方法:朝日地球会議2017のページから、右上の「お申込みはこちら」に進み、希望セッション「第1日目 1-A-2(14:45~16:15 ルームA)ハフポスト企画『ジェンダーを超えるアートの可能性』」を選んでお申し込み下さい。締切は9月13日(水)です。

登壇者プロフィール

KAORI NISHIDA

■ スプツニ子!さん(右)

現代アーティスト。1985年生まれ。ロンドン大学インペリアル・カレッジ数学科・情報工学科を卒業後、英国王立芸術学院デザイン・インタラクションズ専攻修士課程修了。在学中からテクノロジーによって変化していく人間や社会を描いた映像作品を制作。2013年よりマサチューセッツ工科大学メディアラボ助教。著書に「はみだす力」

■ 竹下隆一郎(左)

ハフポスト日本版編集長。1979年生まれ。慶応義塾大学卒業後、2002年朝日新聞社入社。東京本社経済部や新規事業開発を担う「メディアラボ」を経て14年~15年米スタンフォード大学客員研究員。16年5月より現職。「会話が生まれるメディア」を目指し、女性のカラダのことを語り合う「Ladies Be Open」や群れないことを肯定する「だからひとりが好き」などの企画を立ち上げている。

ハフポスト日本版では、「女性のカラダについてもっとオープンに話せる社会になって欲しい」という思いから、『Ladies Be Open』を立ち上げました。

女性のカラダはデリケートで、一人ひとりがみんな違う。だからこそ、その声を形にしたい。そして、みんなが話しやすい空気や会話できる場所を創っていきたいと思っています。

みなさんの「女性のカラダ」に関する体験や思いを聞かせてください。 ハッシュタグ #ladiesbeopen#もっと話そうカラダのこと も用意しました。 メールもお待ちしています。⇒ladiesbeopen@huffingtonpost.jp

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