タレントの壇蜜さんが出演する宮城県の観光PR動画が、性的な表現が含まれているなどと指摘され、県が配信停止に追い込まれた。
地方自治体や企業が地元の魅力や自社商品などを動画でPRする事例が増えているが、不適切な表現などによってしばしば、大きな批判を浴びている。
注目を集めようとする「炎上」商法なのか。それとも別の問題が制作側にあるのか。地方のPR活動に関わる「TMオフィス」(大阪市)の殿村美樹代表に聞いた。
インタビューに応じる殿村美樹さん=大阪市中央区
――宮城県が制作した観光PR動画が、性的な表現があるとして批判を浴び、県は配信停止を決めました。
初めて動画を見たとき、正直「バカだなあ」と思いました。観光をPRする場合、まず女性をターゲットにするものをつくるのはセオリーであり、基本中の基本です。なぜなら、女性は一人ではなく、誰かと旅行に出かけることが多いし、口コミ力もあるからです。にもかかわらず、今回の動画は女性が目くじらをたてるような内容だったわけですね。観光キャンペーンで一番大事にしなければならない人たちを敵に回してしまった。
宮城県の動画
――村井嘉浩・宮城県知事は当初、賛否両方の声があったことで逆に成功したとの認識を示していました。
そうでしょうか。私は宮城に対するイメージが悪くなる可能性があると思っています。スケベな中年男性が多いのかという印象を与えてしまいます。もちろん、実際にはそうではないでしょう。だから、そういう印象が拡散するのは言ってみれば風評被害のようなものです。東日本大震災の時は、おそらく宮城県もいろんな風評被害に苦しんだのではありませんか。それが今回は自ら風評被害を振りまいているように思えてならない。
観光のPRというのは、地元の物産をPRすることは違い、その地域全体のイメージに関わることです。にもかかわらず、一番の「お得意様」である女性への視点が抜けている内容になってしまったことは、地域にとって大きなダメージです。
――地方自治体や外郭団体などのPR動画をめぐっては、表現手法などが問題視されることが増えている気がします。
そもそも自治体などが制作する動画が増えています。きっかけは、弊社がPRに携わった香川県の「うどん県」動画でした。今から6年前のことです。香川県のいろんな魅力を伝えるため、印象の強い讃岐うどんを逆手にとって「うどん県」に改名したという動画だったのですが、これが県庁のサーバーがダウンするぐらい視聴されて。この「成功体験」を真似ようとほかの自治体にも広がっていったのが現状です。
もちろん、斬新な切り口だと評価される動画もありますが、一方で、表現に違和感を覚えるものもありますね。例えば、私の地元である京都府宇治市が作った動画。源氏物語の舞台にもなった情緒あふれる地域なのですが、動画はテレビゲーム仕立てになっており、私が知っている宇治はこんなんとちゃうって感じました。
宇治市の動画
また、福岡県北九州市のPR動画は、情緒豊かな関門海峡にグロテスクな怪獣が出現するという内容です。それから神奈川県がAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」に合わせて踊るという動画もありましたね。そうやって少しずつ公務員のみなさんが「羽目を外す」ことを覚え、今にいたるわけです(笑)。
北九州市の動画
「恋するフォーチュンクッキー」の神奈川県バージョン
そうした動画は話題にはなったかもしれませんが、正直言って、一体何をPRしたいのか、本当に地域の魅力を伝えたいのか、首をかしげざるを得ませんでした。
どうして地方自治体などの動画は刺激的なものが増えてきたのか、その最大の理由は再生回数だと思います。
自治体がPR事業をする際、その効果を議会などで報告しなければなりません。議員たちから「目立たないのをやっても仕方ない」と言われると流されますよね。それにどうも、公務員には羽目を外したいと思う人が多い気がします。
最近では国の地方創生関連事業もあるので、それを活用してPR動画を制作するケースも増えています。地方自治体にとっては補助金だからもらっとけということなんでしょうが、ビジョンがないからとりあえず動画を作っておこうと。補助金ですから国に報告する必要があるので、やっぱり再生回数がものを言う。数字ですから効果があったと言いやすい。
効果測定は本当に難しくて、動画がなかったころは、例えば経済効果がどのくらいあったというのを算出することがありました。でもこの作業は本当に大変。一方、再生回数というのはわかりやすいですよね。
――ただ、実際に制作するのは広告代理店などです。
代理店が考えているのは、クライアントである自治体のご機嫌を取ることだけですよ。クライアントが気に入るようなものを作るだけ。大手になればなるほど重要なのは儲かるかどうか。お金です。もっとも、彼らは営利企業なわけで、顧客の要望を考えるのが第一ですから、仕方がないのかもしれません。だからこそ、自治体側がしっかりしないといけないと思います。地域を背負って入るわけですから。
――企業のCM動画も「炎上」するケースが相次いでいます。
企業の場合は、自治体などよりもしたたかだと思います。「炎上」も狙っている可能性があります。致命的にならないような、ギリギリの線で話題になるよう考えている気がしますね。騒ぎになって企業側が謝罪して、動画を削除することがありますよね。まあ、はっきりとは言えませんが、その流れすら想定されたシナリオなのかもしれません。いったん騒ぎになれば、動画を削除したとしてもネット上ではいろんな形で情報は拡散しているわけですし。それに謝罪したとなれば、企業の誠実さも打ち出すことができるかもしれない。
――殿村さんの会社も自治体などからPR事業を引き受けていますね。過激な動画などは提案しないのですか。
うちは小さい会社です。大手代理店などの競争にも参加するつもりはありません。私も元々、大手広告代理店に勤めていて、退社して独立した当初は、将来は会社を大きくして「1部上場」を夢見ていたんです。だからクライアントも企業PR一辺倒。そんな価値観が変わったのは阪神大震災を経験したからです。
当時は西宮に住んでいて、周りには亡くなった人もいます。料理人や主婦が炊き出しなどで被災者の役に立って入るというのに、私は、企業から「被災地に寄付するから、それを新聞が取り上げてくれるよう動いてくれ」などと言われたんです。被災地を食い物にする片棒を担いで入るような仕事がアホらしくなりました。
企業関連の華やかなイベントをやっても、終わればあれだけ集まった人々がさっといなくなる。虚業のように感じました。それからです。企業からの仕事はやめて、地域と伝統文化のPRに集中するようになったのは。
私の提案は変わってるので、クライアントである自治体側などから拒否されることも多いですね(笑)。地方自治体側と話をしていて気になるのは、東京の真似をしたいという傾向です。東京に目を向けるのではなくて、もっと地域の内部を見て欲しいです。世界一と誇れるものが必ずあるはずです。
殿村美樹(とのむらみき)
PRプロデューサー。株式会社「TMオフィス」代表取締役。地方PRを事業の中核にすえる。京都の清水寺で毎年発表されるイベント「今年の漢字」を手がけたほか、香川県の「うどん県」動画をヒットさせた。また、滋賀県彦根市のマスコットキャラクター「ひこにゃん」PRに成功。ゆるキャラブームに火をつけた。