ヘイトスピーチを追い出したネット企業に賞賛。変化したアメリカのネット上の「言論の自由」の行方

ネオナチが開設したウェブサイト『The Daily Stormer』は、2013年の開設以来、人種差別的で、反ユダヤ主義的で、同性愛者嫌悪的で、女性嫌悪的なコンテンツを売り込んできた。
White supremacists carry a shield and Confederate flag as they arrive at a rally in Charlottesville, Virginia, U.S., August 12, 2017. REUTERS/Joshua Roberts
White supremacists carry a shield and Confederate flag as they arrive at a rally in Charlottesville, Virginia, U.S., August 12, 2017. REUTERS/Joshua Roberts
Joshua Roberts / Reuters

ネオナチが開設したウェブサイト『The Daily Stormer』は、2013年の開設以来、人種差別的で、反ユダヤ主義的で、同性愛者嫌悪的で、女性嫌悪的なコンテンツを売り込んできた。しかし、8月12日に死者を出した、バージニア州シャーロッツビルでの白人至上主義者による集会の後、いくつかのコンピュータ関連企業が、インターネットからそのサイトを実質的に追い出した。

The Daily Stormerとの取引を停止した企業のいくつかは、「多くのインターネット企業が禁止する、暴力の扇動を行った」ことが、サービス利用規約違反にあたると主張している。

しかし、それらの企業のうちの1人のCEOは、8月16日、職員らに対して、他のコンピュータ関連企業が公に認めようとしなかったことを率直に認めたEメールを送った。サービス利用規約の解釈は、多くの場合主観的であり、いつでも好きなときに顧客のウェブサイトを実質的に閉鎖することのできる権力をインターネット・インフラ企業に与えてしまっている。それによって、どんな団体も、自分たちのウェブサイトを運営しつづける能力を、私企業の恣意的な気まぐれの下に置くことになる。

「私は悪い気分で目覚め、インターネット上で許されるべきではない人物がいると判断しました」。CloudflareのCEOを務めるマシュー・プリンス氏は、ハッカーたちが行う分散型サービス妨害(DDoS)のサイバーアタックからThe Daily Stormerを保護することを止めるという会社の決定について書いた。プリンス氏は、自分の決定が危険な先例となるかもしれないことを認めた。「誰もそのような権力を持つべきではない」と、彼は社員らに言った。

言論の自由を支持する人々は、どんなコンテンツがネット上に存在する価値があるか、私企業が判断すべきではない、と主張する。「ネット上で、ネオナチを沈黙させるために今使われている方策は、すぐに、私たちが賛成する意見を持つ人に対しても使われるようになってしまうでしょう」。非営利のデジタル権利団体であるElectronic Frontier Foundation(EFF)は、声明にこのように書いた。

もしもインターネット関連企業のThe Daily Stormerに対する行動が先例としての役目を果たせば、同じ企業たちが、Black Lives Matter(黒人の生命を守る運動)のような団体を検閲するように圧力をかけられるかもしれないと、EFFは述べた。

私企業がヘイトスピーチや、ネット上でのいじめをどう監視するべきかに関する議論は、FacebookやTwitterのようなソーシャル・プラットフォームを中心に行われている。そうしたSNSでは、ユーザーたちは暴力的あるいは卑猥な内容を投稿したことでアカウントの停止を食らうことも珍しくない。

TwitterはThe Daily Stormerに関連するアカウントを停止し、Airbnbは集会参加者のアカウントを停止し、OkCupidは白人至上主義者のクリス・カントウェル氏を「10分以内に」終身禁止し、そしてGoFundMeは、反ナチの抗議活動をする群衆に車で突入し、32歳のヘザー・ハイヤー氏を死亡させ、その他19人を怪我させたとして告発されている男のクラウドファンディング活動を停止した。

しかし、ウェブサイト全体を停止することは、SNSやシェアリングエコノミープラットフォームへのアクセスを制限するよりも、大きな効果がある。だからこそ、違法行為がない限り、憎悪に満ちたコンテンツや暴力的なコンテンツを売りにするウェブサイトを運営する顧客を制限することは極めてまれなことだ。

「大きな課題のひとつは、IS(イスラム国)のアカウントを停止することができるのに、誰もしないことです。もしも、白人ナショナリズム的な投稿をするトランプ大統領のような、白人至上主義的なアカウントを停止すれば、政治的なひいきをしているとして非難されます」。あるコンピュータ関連企業の従業員は匿名で語った。

The Daily Stormerは、ヘザー・ハイヤー氏を死亡させたとして告発されている男を擁護し、代わりにハイヤー氏を貶した投稿によって、国民的な注目を集めた。それはこのように題された。「事件で殺された女性は、肥満で子供のない32歳のふしだらな女だった」。

The Daily Stormerのドメイン登記を処理した(しかし実際には同サイトのコンテンツをサーバー上に保持していなかった)GoDaddyは、その投稿が公開されてから間もなく、同サイトとの関係を絶った。その後The Daily StormerはGoogleに登録したが、Googleは約3時間後にそのドメインを無効にした、とGoogleのスポークスマンはハフポストUS版の取材に対して語った。Cloudflareは8月16日、The Daily Sotrmerへのサービス提供を中止した。

また、The Daily Stormerは、ロシアや中国のWebドメインへの移動を試みたが、作成された数時間後にどちらも無効にされた。フランスのWebホスティング会社であるScalewayもまたThe Daily Stormerのサーバーへのアクセスをロックした、とVoxは報道した。

18日には、The Daily StormerのウェブサイトはGoogle検索を通してアクセスすることはできなくなった。同サイトがオフラインに追いやられる前、設立者のアンドリュー・アングリン氏は読者に対して、The Daily Stormerは、ユーザーに対して匿名性を提供するソフトウェアであるTorを通してのみアクセス可能な、闇のウェブ上に存在し続けるだろう、と伝えた。

これに対してTorプロジェクトは17日、同プロジェクトはThe Daily Stormerの「憎悪をぶちまける」イデオロギーは受け入れないが、開かれたプラットフォームを保つために監視は行わない、と言った。アングリン氏は取材に応じなかった。

The Daily Stormerに対してサービスを提供したとして既に批判されてきたGoDaddyのデジタル犯罪部門の責任者ベン・バトラー氏は、The Daily Stormerが「一線を越えて暴力を奨励し推進した」ために関係を断つことを決定した、と声明で述べた。同社は、その「一線」が何なのかや、The Daiy Stormerが以前も「一線」を越えていたのかどうかについての取材は、応じなかった。

The Daily Stormerは長らく、暴力を推進していると解釈されうるコンテンツを公開してきたのだ。

例えば2016年の大統領選挙中、アングリン氏は当時共和党候補だったドナルド・トランプ氏の味方につき、読者に対してトランプ氏の批判者 、特にユダヤ人に対して嫌がらせをするように促した。アングリン氏とその読者は、彼らのターゲットの個人情報を共有するのにそのウェブサイトを繰り返し用いてきた。

中立的な姿勢を保っているインターネット企業は、シャーロッツビル事件後にその立場を守ることがより難しくなったと感じている。「もしも私がGoogle社員で、直近2週間に社員の作成したメモについて説教を受けていたら、今回の白人至上主義者の事件の報道について暗い気持ちになっていたでしょう」と、Googleではないコンピュータ関連企業で働く従業員は言った。

一方、あるGoogleのスポークスマンは、The Daily Stormerは同社のサービス利用規約を侵害したと話す。「私たちは、サービスが暴力を扇動するのに用いられるのを望んでいません」と彼は言った。彼は、GoogleがThe Daily Stormerとの関係を断つ決定が恣意的だったかどうかについてコメントしなかった。

しかし、世界中に豊富なサービスがある中で、The Daily Stormerのようなサイトに対してドメイン登録やDDoSサービスを拒むことがどれだけ有効かもまた不明瞭だ。

「児童ポルノの不正取引をしない限り、いかがわしいコンテンツを提供するために、世界のどこかで常にドメインを見つけることができます」。あるコンピュータ関連企業の従業員は言った。「人々にとって、GoDaddyやGoogleに決断させるのが、きっと満足のいくことなのだということはわかります。しかし実際的な問題として、もしもあなたの目的が、このゴミをインターネットから一掃することならば、それは本当に有効とは言えないのです」。

コンピュータ関連企業が「中立性」を持つことは不可能

しかし「開かれた」プラットフォームであるウェブは、いじめや暴力を与える側の人々に対して、より開かれているのだとジャクリン・フリードマン氏は主張する。彼女は、Facebookのヘイトスピーチ禁止を性別に関わる偏見の暴力にも適用する運動を成功させた。

「ナチがTwitter上で『言論の自由』を持つとき、私はそこで、はっきり言う(そして反ユダヤ主義と殺しの脅迫の殺到を受ける)か、その公共の広場に参加しないかの選択を強いられます」と彼女は言った。「コンピュータ関連企業が、不可能な『中立性』の代わりに、努力して求めるべきものは、透明性です。立場を明確にするのです。価値観をすべてのユーザーに対して明らかにするのです。そして、それに従って行動するのです」。彼女は付け加えた。

「私たちがこれまで見てきた最大の問題は、たとえ目に余る違反があるとしても、インターネット企業が行動をとりたがらないことです」と、ヘイト集団について調べているSouthern Poverty Law Centerの研究アナリスト、キーガン・ハンケス氏は言った。しかし過去数日間のうちに、それは逆転した。「みんながシャーロッツビル事件の映像を見たからです」。彼は言った。

ハンケス氏は付け加えた。「彼らがこの問題を深刻に捉え始めたのは、気分の良いことでした。なぜなら私たちは、何年にもわたってその点を強調しようと試みてきたからです」。

反ユダヤ主義や、偏見と戦う団体、名誉毀損防止連盟は、GoDaddyはThe Daily Stormerへのサービスを無効にするという正しい決断をしたと評価している。「インターネット企業がコンテンツを禁止するガイドラインを持っていて、そのサービス利用規約を遵守させるための行動をとらないとき、その企業はそれを大目に見ているかもしれないことを示唆しています」と、同団体の技術・社会責任者はメール取材に答えた。

しかし、私企業にヘイトスピーチを除去したり、ヘイトスピーチの定義を決定したりする義務がある限り、私企業の決定はなお恣意的でありうる。

18日、白人ナショナリストのリチャード・スペンサー氏によるウェブサイトのAltRight.comは「Cloudflare(水曜日にThe Daily Stormerへのサービス提供を停止した会社)によるDDoS保護」を依然として受けている。AltRight.comは白人ナショナリストに「殴り合いや取っ組み合いの方法を学び」そして「我々の次の集会に参加」するように呼びかける記事を特集している。

Cloudflareの広報は、同社は「どんな特定のユーザーについても、彼らの許可なしにはコメントできない」と話している。

ハフポストUS版に掲載された記事を翻訳しました。

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