計算づくめの演出だった。6月29日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の公式プロフィール写真が公開された。
24日に公認カメラマンのソアジグ・ド・ラ・モワソニエール氏によってエリゼ宮(大統領官邸)で撮影され、29日に公開されたこの写真は、今後フランス全土の市役所で設置が可能となる。またマクロン大統領の広報アドバイザーは、この写真撮影の舞台裏を収めた短い動画を公開している。
フランソワ・ミッテラン氏を除く過去のフランス大統領の前例にならって、マクロン大統領は立ってポーズをとることを選んだ。垂直方向を強調した構図が、過去のフランス大統領も体現しようとした「権威の姿勢」と相まっている。官邸側はこれがマクロン大統領にとって一番しっくりくる姿勢だったと説明。また一部では、何枚かのアメリカの政治家の公式プロフィール写真を思い起こさせるという声も上がっている。
あらましに関しては以上だ。ここからは、この公式写真のなかで入念に演出・配置されたさまざまなアイテムと、そこから読み解くことのできるマクロン大統領のイメージ戦略を詳しく検討していこう。あくまでひとつの解釈として読んでほしい。
(1)書斎
フランソワ・オランド氏、ジャック・シラク氏は庭、ニコラ・サルコジ氏、フランソワ・ミッテラン氏、ジョルジュ・ポンピドゥー氏、ド・ゴール将軍は図書室を選んだが(記事の下のスライドショーを参照)、マクロン大統領が撮影場所として選択したのは書斎だった。仕事場を選ぶことで、職務に取り組んでいる自らの姿をアピールしようとする大統領の意図は明白だ。
(2)開かれた窓
とはいえマクロン大統領の書斎は閉じられていない。フランスの大統領はしばしば、エリゼ宮という「象牙の塔」に閉じこもっていると非難されがちだが、この書斎の「開かれた窓」はそうした批判に対する返答だとでも言うかのよう。その窓は「庭」だけでなく、「世界」に対しても開かれている。
(3)二対の旗
これはニコラ・サルコジ元大統領以来、重要なモチーフだ。フランス国旗の横には必ず欧州旗がなければならない。しかし2つの旗の「横」に立ったサルコジ氏とオランド前大統領とは対照的に、マクロン大統領は2つの旗の「間」に立つことを選んだ。マクロン氏自身が政治というチェス盤の上で占めているポジションと同じである。2つの旗は完全に左右対称となるよう、大統領の右手にはフランス国旗が、左手には欧州旗が置かれ、あたかもマクロン氏自身が両者をつなぐ「ハイフン」になることを望んでいるかのようだ。
フランスとEUの関係改善は、任期中のマクロン大統領の願いでもある。「フランスは強いEUなくしては成功しないし、またEUは強いフランスなくしては前に進むことができない。私たちは運命共同体。これがこの写真が言おうとしていることだ」。ドイツへの移動中、マクロン陣営の関係者はこうコメントした。
(4)二重の文字盤をもつ時計
大統領選のキャンペーン中、マクロン氏は「時計のあるじ」になると予告していた。大統領の左腕のうしろ、机の上に置かれた「二重の文字盤をもつ時計」が、この言葉をよく表している。置き時計は(夜の)8時20分を指しており、公式プロフィール写真が撮られた時刻とぴったり同じだ。
マクロン氏は今後もある種のやり方で、「テンポ」を印象付けようとするだろう。例えば早くもそれは来週実行される。上下両院議会で予定されているエドゥアール・フィリップ首相の施政方針演説の直前に、所信表明演説を行おうとしているのだ(反対政党からは「フィリップ首相の演説を侵略しようとしている」「首相の施政方針演説は付録ではない」などと批判する声が上がっている)。余談だが、閣僚会議の際に使用される時計もこの置時計だという。また政府の広報担当クリストフ・カスタネ氏は、時計は先週以降行方不明だったが、今週の水曜日(6月28日)になって再び現れたと述べている。
(5)3つの本
では大統領の書斎机に置かれた3つの本は何なのだろうか。開かれたページを上にして、机の右側に置かれた本は、かのド・ゴール将軍の『戦争回想録』である。このフランス第五共和政の父――諸政党の超越を体現した人物――の著作を選ぶことで、マクロン大統領は超党派的な系譜に自らを書き入れ、左派・右派の分断を揺り動かしたい意志を強調している。
また大統領の左手には、2人の国民的作家の2冊の本がある。1つはスタンダールの『赤と黒』。主人公の青年ジュリアン・ソレルが、立身出世の野望と愛を手中に収めようとして挫折し、その「規律」を学ぶまでの軌跡を描く、一種のイニシエーション小説だ。もう1つはアンドレ・ジッドの『地の糧』。生と欲望を祝福する作品としばしば見なされている。
(6)iPhoneのなかのニワトリ
2つ重ねられた大統領のiPhoneの液晶画面に写り込んだニワトリ――ガリア時代以来のフランスのシンボル――を見るためには、少々ズームをする必要がある。フランスを「スマートな国家」にしたいマクロン氏にとって、この伝統(ガリア時代以来の象徴)と現代化(スマートフォン)の融合は、フランスという国の「根本」と決別するつもりはないという彼の意志を示している。
ハフポスト・フランス版より翻訳・加筆しました。
▼関連スライドショー(公式肖像写真で辿るフランス第五共和政大統領)
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