「かつてない左派の後退」、「ポピュリスト政党の大敗」、「共和党の期待外れ」……。フランス総選挙・第1回投票の結果が開票された6月11日夜、エマニュエル・マクロン大統領の新党「共和国前進」(LREM)の大勝利に一掃され、対立する各政党のリーダーは苦渋の表情だった。
第五共和政史上初めて50%を超えた記録的な棄権投票率にもかかわらず、マクロン大統領が引き起こした大きな波は、任期切れした議員、期待の星、各政党のリーダーたちを容赦なく飲み込んだ。18日に行われる第2回投票(決選投票)を待たずして、マクロン大統領の「共和国前進」が国会の覇権を握る見通しが立ったかたちだ。世論調査の予想によれば、決選投票では「共和国前進」と、その連携政党である「民主運動」(MoDem)が、国民議会(下院)の定数である577議席中390~445を獲得し、過半数の289議席を大きく超えるとされている。
「来週日曜の第2回投票は(「共和国前進」の)増大、もしくは複数政党の連合を示す選挙となるでしょう」と、社会党のジャン=クリストフ・カンバデリス第一書記は予測する。11日の投票でフランス人が確信をもってそれぞれの1票と投じたとすれば、実際「共和国前進」-「民主運動」以外の政党が入り込む余地はほんのわずかしか残らないこととなり、国民議会で信頼に足る野党を形成するには多大な苦労を要することが必至だからだ。
【フランス総選挙第1回投票結果】(上から)共和国前進および民主運動(32.2%)、共和党および民主独立連合、その他右派(21.5%)、国民戦線(14%)、服従しないフランス(11%)、社会党(10.2%)、その他(3.3%)、共産党(3%)、緑の党(3%)
■共和党と連携政党の「右派連合」が大敗を記録
一見すると、共和党-「民主独立連合」(UDI)の右派連合は第1回投票ではそれほど打撃を受けなかったかに見える。投票数の約21%を獲得したこれら政党の候補者は、国民議会で80~132の議席を占める見込みも立っている。とはいえこうした予測が1週間後の第2回投票で現実のものとなったとしても、80~132という議席獲得数は、右派および中道右派政党では第五共和政史上最悪のものとなる。これ以前の大敗というと、歴史的な政権交代のあおりを受けた1981年の総選挙――「共和国連合」(RPR)と「フランス民主連合」(UDF)の右派連合が150議席しか獲得できなかった総選挙――にさかのぼる。
共和党のベルナール・アコワイエ書記長が、自身の政党とその連携政党「民主独立連合」は"フランスで2番目の勢力を誇る"と豪語していたのも虚しく、この総選挙をうけた右派政党のわずかな収穫は、事前の予想よりもさらに乏しいものとなるだろう。というのも、80~132という予想議席獲得数の中からは、ティエリー・ソレール氏、フランク・リステール氏、イヴ・ジェゴ氏といった、すでにエドゥアール・フィリップ内閣に信任投票すると宣言し、マクロン陣営につくことを事実上認めた人々を除かなければならないからだ。
なお悪いことに、この右派の潰走――フランソワ・フィヨン元首相の大統領選での敗走に続く新たな打撃――は共和党間のリーダー争いを緊迫させる恐れがある。「オーケー、ブラボー、"体制決別主義"の勝利だ。(略)でも時計が真夜中の12時を打って、馬車がカボチャに戻ってしまう時はいずれくるだろう。その時、いったい誰が対峙者となるんだ?」と中道右派の「民衆運動連合」(UMP)のジャン=フランソワ・コペ氏は語気を強め、「何から何までやり直さなければならない」と右派の現体制を非難した。
■空中分解した左派、影の薄くなった「国民戦線」
大統領選の際のブノワ・アモン氏の得票数とその世論調査結果ほど厳しくなかったとはいえ、社会党は11日の投票で党首を失うこととなった。ジャン=クリストフ・カンバデリス第一書記がはやくも第1回投票で落選し、社会党は事実上瓦解。環境保護論者や極左の政治家を含めても国民議会で30以上の議席数は望めない見通しだ。
社会党の未来にとってさらに憂慮すべきことは、今回の総選挙で期待の星だった候補者がことごとく敗退したことだ。イヴリーヌ県ではブノワ・アモン氏が落選し、マティアス・フェクル氏、パスカル・ボワスータル氏、オレリー・フィリペッティ氏といった閣僚経験者も「マクロンの波」に軒並み飲み込まれた。リヨン群のヴィルールバンヌでは、ナジャット・ヴァロー=ベルカセム氏が「共和国前進」の候補者に大差をつけられた。マクロン新党との争いから生き残った社会党候補者はごく僅かにすぎない。こうした社会党の崩壊は、党自体に大規模な変革を迫ることになるだろう。というのも、今まで国からの政党助成金の主要な受益者だったこの政党の基盤が弱体化することは必然だからだ。
社会党の大敗につけこもうと画策していた「服従しないフランス」の党も振るわず、4月23日に行われた大統領選第1回投票と比べると約8ポイントを失った。このジャン=リュック・メランション氏の運動はたしかに「根付いている」とは言えるが、国民議会でのグループはかろうじて形をなしているにすぎない。マクロン大統領が構想し、右派も支持するリベラルな政策に対するものとしての「服従しないフランス」の能力の限界を示すものだろう。
これらの結果を受けて、たとえ連合の合意に達したとしても、左派政党は国民議会の議論で影響力を発揮するいかなる方法も持たないということになる。内閣不信任案を提出する力もなければ、憲法評議会に申し立てする力もない。
大統領選ではマクロン氏と一騎打ちを演じたマリーヌ・ルペン氏率いる「国民戦線」(FN)に関して言えば、今回の総選挙では3番目の位置につくことができたにもかかわらず、大きな失望が広がっている。最低でも「国民議会でひとつのグループを形成すること」を目標として掲げていた「国民戦線」だが、多くとも10議席しか獲得できない見通しで、おそらくは5議席以下にとどまるとのことだ。その名にふさわしい国民的な威信(とそれに伴う助成金)を失った「国民戦線」は、常に重い負債を抱えながら、これからの5年間、非常に厳しい政党運営を迫られることになるだろう。
■歴史的な棄権投票率
前述の通り、今回の総選挙の棄権投票率は50%を超え、フランス第五共和政史上最高値を記録した。この結果を受けて、マクロン陣営の大勝で終わらせずに、棄権投票がなぜこれほど多かったのかをきちんと明確にすべきだとの意見も出ている。フランスの世論調査機関「Ifop」が行った意識調査は、投票者が棄権投票を行った理由の一端を明らかにしている。
・すでに投票前からマクロン大統領の「共和国前進」の勝利が見込まれており、どうせ行っても無駄だと思ったから
・マクロン大統領やその陣営が主張する「変革」に対して、いまだに疑心暗鬼を持っているから(イデオロギー的な曖昧さ、とってつけたような「変革」の主張)
・およそ1年前から続く大統領選も含めた選挙戦にもう飽き飽きした、長すぎる(マスコミの報道の仕方を批判する声も)
・はっきした争点や目的のない選挙だったから
・マクロン氏への「熱狂」のほとぼりが冷めた
5月7日に行われた大統領選でも無効票・白票を合わせた棄権投票率が48年ぶりの高水準を記録した。積極的な意思表示として「棄権」を選択した有権者の一部からは、白紙投票を有効票としてカウントしてほしいとの声も上がっている。
「総選挙:第1回投票で記録的な棄権投票率」
ハフポスト・フランス版より翻訳・加筆しました。