「ぽちゃティブ」掲げて、今日も突き進む。日本初のぽっちゃり女性誌『la farfa』作り手の思い

『ワガママボディ』『ぽちゃ子』『ぽちゃカワ』『テディさん』…そういった言葉とともに、ぽっちゃり女性に向けて情報発信を続ける雑誌『la farfa』。編集長に、日本人の「痩せ信仰」や国内の「ぽっちゃりシーン」について話を聞いた。

日本国内のプラスサイズ(大きいサイズ)シーンをもっと盛り上げたい——。その気概を持って、ぽっちゃり女性に向けて情報発信を続けている雑誌がある。

1948年に創業した老舗出版社・ぶんか社は、2013年に日本初の「ぽっちゃり体型の女性」向けのファッション雑誌『la farfa(ラ・ファーファ)』を刊行した。

同誌では「ポジティブ」をもじった造語「ぽちゃティブ」という言葉をコアメッセージとして打ち出し、ぽっちゃり女性たちに「おしゃれ」をする楽しさ、喜びを伝え続けている。

『la farfa』の企画は、自身もぽっちゃり体型だったという前編集長の今晴美(こん・はるみ)氏が考案し、創刊に至った。今氏から編集方針を引き継ぎ、2016年7月から同誌の編集長を務めているのが清水明央さんだ。『la farfa』を通じて、どんなメッセージを女性たちに伝えていきたいのか。日本人の「痩せ信仰」や国内の「ぽっちゃりシーン」をめぐる環境について話を聞いた。

■大きいサイズは「見て見ぬ振り」をされていた

『la farfa』が創刊されたのは2013年。お笑い芸人の渡辺直美さんが「よしもとオシャレ芸人2013」で1位に輝くなど、“女性の憧れ”という立ち位置を確立し始めた時期だ。

そんな中、「着られる服が少ない。自分が着たいと思う色やデザインの服がない」と感じていた今氏。

「ぽっちゃりさんが着られる服をメディアで発信することによって、ファッションブランドが大きいサイズをもっと作るきっかけになるかもしれない」と考え、日本初のぽっちゃり女性専用雑誌『la farfa』の企画立案に至った。

大きいサイズは需要があるにも関わらず洋服のラインナップが少なく、プラスサイズを求めている女性たちは切り捨てられているというか、「見て見ぬ振り」をされているような印象を当時の編集部は感じていました。大きいサイズに対して、ポジティブにおしゃれな服を作ろうとしているブランドが少ないことを疑問に思い、そこを押し上げてメディアに露出し、その現場を訴えていきたいと考えたんです。

創刊号の表紙には、渡辺直美さんが起用された。現在、『la farfa』の専属読者モデルは30人を超えるが、当時は洋服を着てくれるプラスサイズモデルを集めるだけで一苦労だったという。

当時はプラスサイズモデルだけを扱っているようなモデル事務所がなかったので、雑誌を作りたくても洋服を着てくれる人がいなかったことに苦労しました。太っていることをポジティブに捉え、武器にしていたのはお笑い芸人の方が多かったようで、代表的なのが渡辺直美さん。彼女たちに協力してもらって、なんとか誌面を作ることができたようです。

創刊記念として、大きめサイズ専門ブランド『スマイルランド』(2002年から販売開始)を展開する通販大手のニッセンとコラボレートし、同ブランドのファッションショーも開催された。

現在、『la farfa』の編集部員は3人。しかも驚くことに全員が男性だ。しかも、清水さんはどちらかというと「痩せ型」。そのため、読者が本当に困っていることを少しでも理解できるように、読者の声を聞くことや、誌面で活躍するモデルたちとの会話を大事にしているという。

自分自身がぽっちゃり体型ではないので、彼女たちの思いを主観的に感じることはできません。でも、雑誌を作るという立場で考えると、主観的になりすぎてしまうと周りが見えなくなってしまい、冷静な判断ができなくなることもあります。客観視することが逆にいい方に作用して、公平な物の見方ができている面もあるのだと思います。主観的な部分はモデルたちに任せて、雑誌を作る編集側の立場として、あくまで客観的に「これは発信した方がいいな」「どういう風に発信していけばいいな」と、読者のことを考えて判断しています。

■編集方針の根幹は、読者を「ぽちゃティブ」になれるマインドにすること

『la farfa』の読者ターゲットは、20代から30代で、着ている服のサイズがL〜10Lまで女性たち。

ポジティブやアクティブの造語である『ぽちゃティブ』という言葉を生み出し、「太っているとおしゃれをしにくいといったネガティブな部分を、ぽちゃティブになれるマインドにする」というコンセプトのもと、ぽっちゃりした体型の女性たちに向けて多様なコーディネートやファッショングッズを紹介している。

『la farfa』では、「太っている」「デブ」といったネガティブな言葉を使わないことを絶対のルールにしている。確かに『la farfa』を開くと、ぽちゃティブという言葉以外にも、語感がかわいらしく、そして明るい印象を残す言葉がたくさん並ぶ。

『ワガママボディ』『ぽちゃ子』『ぽちゃカワ』『テディさん』…そういった言葉とともに、華やかな服を着て、笑顔でポーズをとるla farfaモデル(通称:ラファモ)たちが写っている。

日本は痩せ信仰が強いですね。その価値観を少しでも変えられるように、『la farfa』のモデルが「今のままでもいいんだよ」というメッセージを読者へ伝え、女性たちの味方でいるような雑誌にしようというのも、大きなテーマのひとつです。

ファッション雑誌は、基本的に「トレンドを発信する」という立ち位置をとっていることもあり、読者に対してどこか一方通行だ。見事なプロポーションのモデルたちが最新のファッションアイテムに身を包み、時たま体型カバーのヒントを教授することさえあれど、基本的に読者のスリーサイズは考慮しない誌面づくりをしている。

一方で、『la farfa』は徹底して読者に寄り添う雑誌でいることを意識している。

その一例として、読者が自分と似た体型のモデルを探せるよう、ラファモのスリーサイズ・体重は必ず誌面上に公表される。これは、「買った服が着られない」という、『la farfa』の読者に一番多い悩みを解決するためでもある。

一言でぽっちゃり体型と言っても、いろいろな体型があるんです。例えば、お腹周りが大きい人、胸が大きい人、腰回りが出ている人、おしりが大きい人、手足が太い人とか、体型によって様々です。そのため、読者は自分のスリーサイズに近いモデルを見つけると、「このモデルが着られるのなら、私も着られるかも」と思えるので、モデルのスリーサイズを公表しています。

『la farfa』は読者ターゲットが明確で、「ぽっちゃり女子」というセグメントされた女性たちに向けた雑誌作りしているので、編集方針がすごくわかりやすい。読んでいる人たちからしても、「私たちに向けた本だな」というのが伝わりやすいですよね。最近のファッション誌は尖ったものが少なくなって、誰に向けたものなのかわかりづらいものが多くなってしまったと感じています。

■批判的な声に耐えられるか、自分をさらけ出せるか

誌面で活躍するラファモたちは、一般公募で募っている。清水さんによると、ラファモのオーディションでは、見栄えよりもメンタルやキャラクターを重視して選考しているという。

その理由は、時たまネット上などでラファモたちに向けて批判的な声が寄せられるという背景があるためだ。一度誌面に出てしまうと、彼女たちの名前や姿はずっと世の中に残り続ける。その状況を受け止め、心ない中傷にも耐えられる強さがあるかということが、重要な選考基準になる。

ラファモになるということは、ぽっちゃりしている自分をさらけ出して『la farfa』という雑誌の中でモデルとして表現するということ。それに対して抵抗がないかは、面接の時に必ず確認するようにしています。

ラファモたちの中には、ぽっちゃり体型であるがゆえに他人からからかわれたり、いじめられていた経験を持つモデルもいるという。しかし、いじめられていたという経験がある故に、「社会に出た後にマイノリティーの立場にいる人たちのことを考えられるという一面があるかもしれない」と、清水さんは言う。

ラファモたちに共通していることは、自分のことよりも周りの人のことを考えられたり、奉仕をするというマインドを持っている子が多いなと思います。彼女たちは、決して人に押し付けるような物言いをしません。

例えば、水着特集の時、彼女たちは「私たちが水着を着てみんなを勇気づけてあげる」というような押しつける感じの表現ではなくて、「ちょっと恥ずかしいけど水着になってみました」というスタンスなんです。彼女たちと話していると、そういった考え方が共通しているんじゃないかなと感じることが多いです。

■日本は太っている、痩せているの違いが極端

「痩せてかわいくなりたい、キレイになりたい」という欲求は、多くの日本人、とりわけ若い女性たちが抱いているものだ。日本に限られた話ではないが、欧米と比べると、日本の『痩せ信仰』は少し行き過ぎた面があるのではないかと清水さんは指摘する。

日本のBMIの基準は、世界標準でもあるWHOが定めた基準と評価がちょっと違っていて。海外だとBMI30以上が肥満で、25〜29.99の場合は標準体重と肥満の間である「過体重」と定めていますが、日本だとBMI25以上で肥満になります(※)。WHOのように、普通体型と肥満体型のグレーゾーンという認識が日本にはあまりないんですね。太っている、痩せているの違いについて、極端な見せ方をしているなと感じます。

肥満度の判定基準(日本肥満学会、厚生労働省公式サイトより)

「美意識」に対して大きく影響を与えるファッション業界においても、欧米と日本の違いは際立っている。

フランスでは5月8日、極端に痩せているモデルたちの活動を禁止する法律が施行された。この法律によって、フランスで活動するモデルたちは肥満度を示す体格指数(BMI)が低すぎず、健康体であることを証明する医師の診断書の提出が義務付けられるようになる。

ファッションの最先端の地ともいえるフランスで、痩せているという「美」よりも「健康」であることが重視されることになった変化について、「国が法律によってメッセージを発信するということは意義深いと思います」と清水さんは語る。

かたや、日本国内において「痩せすぎ」モデルを規制する動きはまだ見られない。

しかし、日本国内のプラスサイズシーンにとって明るいニュースも多い。ニッセンは2017年4月、プラスサイズ専門のECモール『アリノマ(Alinoma)』を開設した。セシールも5月にぽっちゃり女性向けのファッションブランドの新しいライン展開を始めている

こうした動きには、アパレル業界全体が不振に喘ぐ中、レギュラーサイズ以外の新しい市場価値を見出そうとしている背景があるという。

プラスサイズシーンはこれまであまり注目されてこなかった分、まだまだ伸びしろはあると考えています。そのため、百貨店やアパレルブランド側からすると、他のブランドよりも早く参入したいという思惑もあって、洋服のサイズ展開を広げていく企業が増えた背景があると思います。

また、洋服のサイズごとの型は大まかな基準はありますが、各ブランドごとにそれぞれ使っている型は、それぞれデザイナーが違うためブランドごとに異なります。例えば、こういうシルエットを出したいとか、身頃や肩幅をどれくらいにするとかコンセプトによって作る洋服は変わってくると思います。

もし、Lサイズ以上のサイズを作るとなると、新しい型をおこす分、コストも手間もかかりますが、ちょっとずつ3Lより大きな型を作るといった取り組みをするブランドが増えているように感じます。

今後『la farfa』では、台湾・韓国などのアジア各国を中心とした海外進出も目指している。2016年9月からは、世界基準となるぽっちゃりモデルを選出するオーディション開催などに取り組むプロジェクト、『PJP(ぽちゃティブ・ジャパン・プロジェクト)』をスタートさせた。

そして、2017年2月に『PJPP(ぽちゃティブ・ジャパン・プロジェクト・パーティ)』で、初代PJPクィーンが選出されたばかりだ。今後もPJPとしての活動を拡大していく予定とのこと。

まだまだ、SNS上で多くの「いいね」を集めるのは、スラッと引き締まったカラダをした芸能人たちの『非の打ち所がない一コマ』だ。まるで「いいね」の数が「美しさ」や「かわいさ」の価値を作っているようだ。けれどその価値は普遍的ではないし、誰かに強制されるべきものでもない。

誰もが自由におしゃれを楽しんで、好きに自分を表現できる。そんな日を実現するために、今日も『la farfa』は読者に寄り添いつづけている。

■インタビュイー:清水明央さん

(株)ぶんか社 第二編集部 la farfa 編集長

■『la farfa』媒体情報

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