アメリカ・ペンシルベニア州のヘンリー・サイアス氏(40)が法律を学んだのは、「毎年、歯医者に通える」ような実務経験が伴うキャリアが必要だったからだ。弁護士で「社会的公正のためのフィラデルフィアの弁護士たち」共同創立者のサイアス氏は、オープンリー・トランス(トランスジェンダーを公表した)の男性としてアメリカで初の裁判官になる可能性がある。アメリカではオープンリー・トランスの女性裁判官が2人がいるが、「初のトランスジェンダー男性裁判官が裁判官席に着けば、歴史的偉業だ」と、セクシュアル・マイノリティやHIV感染者たちの市民権活動を支援する法律専門家グループ「ラムダ・リーガル」の公正裁判プロジェクトディレクター、エリック・レシュ氏はハフポストUS版に語った。
サイアス氏はフィラデルフィアの地方裁判所にあたる一般訴訟裁判所の裁判官になるためには、5月16日の民主党予備選で指名を獲得しなければならない。今回のサイアス氏の動きは、公の場でのトランスジェンダーたちの権利が各州で議題に上り、トランプ政権がトランスジェンダーの学生を擁護する政策を後退させているの時期に起きている。「ペンシルベニア、そして国を反映する司法制度が達成できれば、画期的な前進となるでしょう」と、レシュ氏は強調した。
ハフポストUS版は、住んでいたミシガン州からフィラデルフィアで公職に立候補するまで、サイアス氏がこれまで歩んできた道のりについて聞いた。ミシガンでのサイアス氏は、家族が自宅を失った後、6年間で5つの異なる小学校に通っていた。
――フィラデルフィアの住民は、あなたが裁判官になるために投票すべきなのしょうか?
サイアス 私には司法の場で長年働いた経験があります。連邦第1巡回区のことは、内側から理解しています。私はフィラデルフィアでも優秀な裁判官たちから学んでいます。私はその経験を、直接裁判官席へ持ち込みます。また、フィラデルフィアの人たちは、トランスジェンダーがフィラデルフィア住民になるにふさわしく、またトランスジェンダーの代表者がフィラデルフィア議会にいるというメッセージを伝えることができるし、伝えるべきであると思います。裁判所で、そしてこの十年で最も成功している法的な非営利団体の一つで得た経験から、私は裁判所を改善し、市民が真実を語り、その真実で我々の共同体をより良い方へ変えられるよう、安全で民主的な空間の維持のために働きつづける人物であることがわかります。
――今回の選挙報道の大部分は、あなたのジェンダーアイデンティティーに注目しています。それについて、どう思われましたか?
サイアス 立候補すると、2週間、街の各地を回って人々に自分の請願書に署名してもらいます。自分の指名獲得のためです。歩道で他人に歩み寄られるのを好む人はいません。私はすでに居心地の悪い立場から始まるのです。そして「こんにちは、私はトランスジェンダーで裁判官になろうとしています」と言います。それ以上、居心地の悪いことはありません。請願期間中、フィラデルフィアの人たちは、実に素晴らしかったです。私にとてもよくしてくれました。男性数人に「君がトランスだってことが関係あるのか?」と聞かれました。何というか「なぜ、そんなことが話題になるんだ?」というように。そして、それについて私は2つのことを話しました。まず、Googleの時代である現代は、トランスジェンダーであることを話さないのは難しい。それが公になる責任を自分でとるか、他人にさせるか、そのいずれしかありません。ですので、私の視点から言えば、いずれ話題になるのはわかっていますから、自分でいくらか責任をとる方が良いのです。
しかし、誰もが政府内で代表者を必要とします。そして、ほかの裁判官にとっても、担当している法廷でジェンダークイアーな人を相手にしている場合、参照できる同僚がいることで役に立てると思います。その(法廷の)空間でジェンダークイアーな人への尊重を維持するにはどうするのが適切なのか、裁判官たちは必ずしも知らないかもしれません。私に相談してくれれば、私がその情報を提供できます。これは政府にいろいろな人の関わりが必要だという、ほんの一例です。
現時点では、トランスジェンダーの人たちは、雇用面で多くの差別を経験しています。だから、フィラデルフィアがオープンリートランスの私を選出するのは、とても意味があることだと思います。なぜなら、フィラデルフィアの街、フィラデルフィアの人々が、トランスジェンダーの人たちは街の一員であり、コミュニティの一員であることを理解しているというメッセージを送ることになるからです。
RACHEL WISNIEWSKI
――司法の中で働くトランスジェンダーやクイアーの人が増えると、例えばノースカロライナ州の「ハウスビル2」(トランスジェンダーに「出生証明書と同一の性別」のトイレを使うよう求める州法)のように、さまざまな法律に影響する可能性についてはどう思いますか? ノースカロライナ州での根本的な感情は、トランスジェンダーの人たちを公職から外そうというものですが。
サイアス 特定のグループに属する人たちを公職から組織的に除外するのは、公職にいる女性たちに攻撃的な野次を浴びせて居心地悪くさせる、組織的な嫌がらせと同じことです。男性がいなければ、公人として活動できないと女性たちに思わせているのです。私たちは、開放された、民主的な場所にいるはずなのに、自宅の外に出たときに恐怖を感じる人々がいるのなら、そこは開放的でも民主的でもありません。ですから、そうした閉鎖的なカルチャーに抵抗できるよう、すべての手段をとる必要があるのです。
そのため、私は私なりに参加して、「トランスジェンダーは基本的に嘘つきだ、人を騙している」といった偏見に抵抗することに情熱を賭けています。そういった偏見はいたるところで複雑な事態を招きますが、司法制度の中では、トランスジェンダーが参加することで、真実を語っているのかどうか、自分自身の経験を語るのに信頼のおける語り手なのかという点が重要なのです。トランスジェンダーの人たちは基本的にニセモノだ、そしてトランスジェンダーのアイデンティティや言動から信頼のできる語り手ではない、とする考えに異論を唱えることが重要です。だから、政府機関の司法の場にトランスジェンダーが関わるのは、組織的な差別への抵抗に役立つと考えます。
――あなたが当選した場合、トランスジェンダーに対する認知度が高まることについて考えたことはありますか? 裁判官としてのあなたを見た全国のトランスの若者たちは「すごい、そんな選択肢が私にもあるんだ!」と言えるでしょう。
サイアス 本当に重要なのは、知名度のあるトランスジェンダーの人がいて、トランスジェンダーの若者に対し、「君たちには素晴らしい未来がある」と示せることです。私たちが愛され、自分たちの共同体に貢献でき、その貢献が目の当たりにされ、受け入れられることです。
トランスジェンダーの若者たちの未来に、制約があってはなりません。かつては、「私は同性愛嫌悪やトランスジェンダー嫌悪ではない」と考えていた親たちでさえ、わが子がカミングアウトすると、ある種の「喪に服す期間」を過ごしていたのです。「わが子は愛されることがなくなる。うちの子は生涯、面倒を見てくれる相手もいないし、翼を広げて素晴らしいキャリアを進む機会がなくなってしまう。そんなことは一切教わっていないのに」と嘆いていました。しかし、それはもう、真実とは言えません。そういった考えは正しくないのだとできるだけ多くの人々に分かってもらえたら、状況はきっと良くなるのです。
ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。
▼画像集が開きます
(スライドショーが見られない方はこちらへ)