ロシア兵器の人気急上昇、プーチン大統領「チャンス逃すな」

ロシア製兵器に対する需要が高まっている。ロシア軍がシリア内戦に武力介入したことがPRにつながったという。ソ連崩壊後、低迷が続いていた「軍事大国」は復活するか。
PRIMORYE TERRITORY, RUSSIA - APRIL 7, 2017: A Sukhoi Su-35S multirole fighter aircraft seen after performing a flight during the 2nd qualification round of the 2017 Aviadarts contest of military pilots at Tsentralnaya-Uglovaya airfield. Pilots conduct air reconnaissance, perform aerobatics, penetrate air defense system and engage ground targets during the competition. Yuri Smityuk/TASS (Photo by Yuri Smityuk\TASS via Getty Images)
PRIMORYE TERRITORY, RUSSIA - APRIL 7, 2017: A Sukhoi Su-35S multirole fighter aircraft seen after performing a flight during the 2nd qualification round of the 2017 Aviadarts contest of military pilots at Tsentralnaya-Uglovaya airfield. Pilots conduct air reconnaissance, perform aerobatics, penetrate air defense system and engage ground targets during the competition. Yuri Smityuk/TASS (Photo by Yuri Smityuk\TASS via Getty Images)
Yuri Smityuk via Getty Images

ロシア製の兵器に対する需要が高まっている。シリア内戦をめぐってロシア軍が武力介入したことがPRにつながったという。プーチン政権はシリア「特需」をてこに、兵器の輸出増と軍需産業の活性化を見込む。ソ連崩壊後、低迷が続いていた「軍事大国」は復活するのか。

軍事パレードで披露された大陸間弾道ミサイル「ヤルス」=モスクワ

「ロシア軍はあらゆる潜在的な攻撃を撃退することができる」。5月9日、モスクワの「赤の広場」を埋め尽くした兵士らに向かってプーチン大統領が演説した。この日、ロシアの前身、ソ連が第2次大戦でナチス・ドイツに勝利したことを祝う軍事パレードが開かれていた。高性能の戦車や地対空ミサイル、新型の大陸間弾道ミサイルなどが続々と披露されていたころ、シリアにあるロシアのフメイミム空軍基地でもパレードがあり、最新鋭戦闘機スホーイ35などが飛行した。

今、これらの兵器に対し、各国から熱い視線が注がれている。ロシア国営のノーボスチ通信によると、スホーイ機のメーカー「統一航空機製造会社」(モスクワ)のスリュサリ社長は地元メディアの取材に「シリアでロシア軍が活躍したおかげで、スホイ機に対する諸外国からの需要が高まっている」と語った。

軍事パレードで演説するプーチン大統領=モスクワ

■シリア「特需」

ロシアは2015年9月、シリア内で活動するイスラム過激派組織IS(イスラム国)を攻撃する名目で空爆を開始。実践では初めてとなる軍艦からの巡航ミサイル攻撃も行った。ロシア紙「コメルサント」電子版によると、ロシア軍は2017年のはじめまでに162種類の最新鋭の兵器をシリア内戦で試したという。

ロシア製兵器をめぐっては、1991年の湾岸戦争でイラク軍が使っていた旧ソ連製兵器が米軍に「惨敗」し、その後進性が露呈した。そのとき失われた信頼性をシリア内戦の実績によって取り戻した格好だ。プーチン氏は4月下旬、モスクワの北にある都市ルイビンスクであった国の軍需産業委員会で、世界中でロシア製の兵器に対する関心が高まっていると指摘。「シリアでのテロとの戦い、実践という条件下でロシアの兵器が効果的に使われたことが理由だ。武器市場での我々の立場を固めるため、このチャンスを逃してはならない」と話し、兵器の輸出増に期待を込めた。

ロシア軍の空爆で破壊されたとみられる建物=2016年2月、シリア・アレッポ

ノーボスチ通信によると、ロシアの兵器輸出額は、2013、2014年はいずれも約100億ドルだったのに対し、2015年は約150億ドルに増加。2016年も140億~150億ドルに達する見込みだ。主な輸出先は中国、インド、ベトナム、イラン、エジプト、アルジェリア、ベネズエラ、アラブ首長国連邦で、中でも「お得意様」なのは中国とインドだ。中国は今年、スホイ35計10機の納品を受ける予定で、インドは毎年、ロシアから総額50億ドル規模の兵器を調達しているという。

■自国の軍備増強も

一方で、プーチン政権は自国の軍備増強にも力を入れている。特にプーチン氏は海軍力に注目。「2016年現在、海軍が保有する兵器のうち最新のものは約47%。2020年までに70%までに引き上げなければならない」と発言した上で、「平時でも有事が起きた場合でも、近海と遠洋の両面で課題を解決できる艦隊を編成する必要があり、2025年までに実現したい。戦略的に重要な海域で、ロシアのプレゼンスを確保することになる」と述べた。プーチン氏が海軍力に重きを置く背景には、アメリカが空母を世界規模で展開しているほか、中国軍も海洋進出を盛んに進めていることへの危機感があるとみられる。

ロシアが超大国ソ連として米国と冷戦状態にあったころ、軍隊は東側陣営を守る「世界軍」だった。それが1991年のソ連崩壊で社会や経済が混乱し、財政が悪化すると、肥大化した部隊を維持することは困難を極め、兵器や装備の更新も停滞した。プーチン氏は大統領2期目の2000年代、軍需産業の再建にも着手したが、改革は困難を極めた。近年になってようやく部隊のスリム化や再編、新兵器の開発などが進み、改革の成果が出てきた。

■のしかかる経済制裁

それでもプーチン氏の思惑通り、ことは進みそうにない。ストックホルム国際平和研究所によると、ロシアの国防費は前年と比べて5.9%増の約690億ドル(世界第3位)に達したが、クリミア併合(2014年)をきっかけに続く欧米の経済制裁や原油・天然ガス価格の低迷で経済は低迷。国防費の増加が国家財政を圧迫し、軍備の増強計画が狂う可能性がある。

▼モスクワの軍事パレード画像集が開きます

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