2017年もやってきたLGBT(性的マイノリティ)の一大イベント「TOKYO RAINBOW PRIDE(東京レインボープライド)」。
すでにゴールデンウィークの定番イベントとして一般にも周知されてきた感がある。イベントを支えてきた共同代表の山縣真矢(やまがた しんや)さんに、これまでの歴史と、今後の方向性について聞いた。
特定非営利活動法人「東京レインボープライド」共同代表理事 山縣真矢さん
■ 参加者の多様性が進み、より開かれたイベントに
――TOKYO RAINBOW PRIDEも今年で6回目を迎えました。ゴールデンウィークの行事として定着してきたようです。
東京でのプライドパレードという意味では1994年をはじめに断続的に行われていました。紆余曲折あって今の形になって6年目ですね。私自身は2002年から実行委員としてパレードに関わっています。
その当時は新宿2丁目のゲイ・コミュニティが中心になっての開催でした。実行委員もボランティアも7、8割がゲイ。あとはレズビアンの人とトランスジェンダーの人が数名いるだけだった。
資金集めにも苦労して、僕らスタッフが自分の行きつけのゲイバーを回って名刺大の広告を取ってきたものです。あとは当時、まだ売上が好調だったゲイ雑誌からも協賛してもらいました。企業の協賛はごく少数でそれもほとんどは外資でした。
今は国内、外資含めて錚々たる企業が協賛に名を連ねてくれています。とはいえ入ってくるものが増えたぶん、出て行くものも増えているので決して楽ではありません。
スタッフもボランティアでノーギャラですし、それどころか関係者を新宿2丁目に案内する時など自腹を切ることもあります。私の本業はライター&編集者なのですが、オフィシャルマガジンの『BEYOND』は、取材から原稿作成、編集までかなりの部分を担当しています。
現在はゲイ以外のセクシュアリティの参加者が増えました。十数名いる執行委員のうちゲイは半数くらいで、レズビアンもトランスジェンダーもストレート(異性愛者)もいます。
先日、ボランティアスタッフ全体のミーティングがありましたがやはりストレートの人も多く、高校生も40名ほどいてかなり若い人が多い印象でした。そういう意味では以前より開かれて、参加者のセクシュアリティも年齢も多様性が進んでいます。
新宿2丁目にある東京レインボープライドの事務所
■ 台湾のパレード8万人と比べるとまだまだ少ない
――いわゆる「LGBTブーム」もあり、セクシュアル・マイノリティ当事者の間でも、そして社会的にもかなり認知されたということでしょうか。
それはどうでしょうか。確かにある程度、LGBTや「TOKYO RAINBOW PRIDE」の名前は知られはじめたとは思います。ただ、最近ではインターネットの普及によってゲイの人たちが個人で様々な趣味の仲間とつながって活動出来るようになった。そのため「わざわざパレードを歩かなくても」と考える人も少なくないようなのです。
――しかし、2016年はパレードの参加者は4500人、フェスタ&パレード2日間合計で7万500人を動員と過去最高の人出でした。
もっと集まっていいはずだと思うのです。台湾は日本の5分の1の人口ですがプライドパレードで8万人が歩きます。ソウルでも2、3万人は歩く。もっとも東京の場合、警察への手続き上、デモ行進という扱いになるので制限が多いという事情もありますが。
デモ行進なので企業が広報活動を全面に打ち出すことも出来ません。そのあたりが世界有数のプライドパレードと言われるシドニーのマルディグラなどとは違います。将来的には浅草サンバカーニバルや高円寺の阿波踊りのように道路を封鎖してパレードが出来るようにしたいと思っています。
――昨年の様子を見てかなり盛大だと思ったのですが、運営側はまだまだという認識だったのですね。
2017年のパレード参加者は6000人を見込んでいます。当面の目標としては1万人に届いてほしいなあという思いはあります。
■ 侃侃諤諤の議論を重ねた日々
――何か目標にしたり参考にしたりしている市民運動はありますか。
関心があるのはアメリカのベイヤード・ラスティンという人です。キング牧師とともに公民権運動を牽引した黒人の活動家で、ゲイを公言していました。キング牧師の演説で有名なワシントン大行進(1963年8月28日)はラスティンが総監督として仕切っていたんです。
もっともラスティンの存在はパレードの運営に関わるようになってから勉強して知ったことです。私がパレードの運営に関わり始めたのは2002年で、私自身は単純に楽しそうだと思って関わりはじめました。ただ当時の中心メンバーには筋金入りのゲイリブみたいな人が多くて。そんな人たちと一緒に毎週末、2丁目のとあるゲイバーに集まって侃侃諤諤の議論をしていました。
メンバーに論客みたいな人もいたので、フライヤーの文章の一字一句に拘って2時間も3時間も議論することもありました。私はその議論を聞いて、いろいろ勉強したという感じです。活動の論点についてはもちろん、2丁目のコミュニティの人間関係といったことまで俎上にのぼっていました。今はそういう議論はほとんどしなくなりましたね。
――2002年当時は東京レズビアン&ゲイパレードという名称だったのですね。
その頃はレズビアンとかゲイという言葉に、社会的にあまり良いイメージがなかったこともあって、あえてその言葉を前面に打ち出していました。
その後、トランスジェンダーなどのセクシュアリティの人たちから、私たちは入らないのかという意見も出たので、東京プライドという名称に変更し、その後、分裂などもあって、主催団体も変わり、レインボープライドに変わるわけです。ここに至るまでには、いろいろなことがありましたね。
日本のパレードはまだまだこれから。まずは1万人の参加を目指すという山縣さん
■ ブームを超えられるか
――現在はLGBTという呼称がずいぶん一般化しました。
ブームと言われますが、意外とみんな知らないなあというのが私の実感です。最近の調査でもLGBTを知らないという人がまだ半分くらいはいます。ただオリンピックまではまだ、LGBTについてメディアも取り上げてくれると思っています。
性的指向による差別をオリンピック憲章で禁じているために、関連した施策が必要になるからです。そういう動きに乗じて活動するということについてTOKYO RAINBOW PRIDEに対しても批判がなくはありません。オリンピック誘致にもともと否定的な人もいますから。
しかし、すでに企業も同性パートナーに対する制度を作ったりするなど動いていますし、法的な議論も進められています。そういう意味では単にオリンピックまでのブームでは終わらないと思いますし、終わらせてはいけないと思っています。また若い世代の意識が非常にフラットで、先ほども言いましたが、若いボランティアも多く参加するようになっています。世代交代が進めば、LGBTについて理解のある層が割合的にも広がっていくのではないでしょうか。
■ 誰もが参加でき、自分の性を振り返るきっかけにしてほしい
――2016年は過去最大の動員を達成した半面、保守系の政治家や紛争当事国の参加について議論が分かれるなどといった新たな論点も見えてきました。
LGBTに他の問題が混ざって来るときにどう扱うかというのは難しい問題です。正直なところ困惑もあります。もちろんTOKYO RAINBOW PRIDEとして参加者の基準は設けています。LGBTフレンドリーであることはもちろんですが、人種や民族をはじめ、他のどんな人権課題に対しても差別的な団体でないことなどです。これは参加申し込みのフォームでチェックするようになっています。
政治家について言えば来る者を拒む理由はありません。視察に来るのは歓迎です。LGBTでなくSOGI(※ 性的指向と性自認)という言い方をするならば、それは全ての人に関係することですし、TOKYO RAINBOW PRIDEに参加することで自分の性を振り返るきっかけにしてほしいです。性や生が悦ばしいものであり祝福されるべきものだということをみんなで表現できればいいと思っています。他者の存在を否定せず、LGBTの存在を理解しようとしてくれる人であれば拒む理由はないと思います。
「当事者はもちろん、LGBTの存在を理解したいと考える人なら、誰でもTOKYO RAINBOW PRIDEに参加してほしい」と話す山縣さん
■ LGBTのことだけを考えていたら足元をすくわれる
――今後、どのように活動を進めていきたいと思いますか?
最近、教育勅語を肯定する発言を政治家がしたり、古い家族観に固執するような政治家の動きがあります。また在日外国人へのヘイトが問題になり、残念なことにそれを支持する一定の勢力も存在する。そういう勢力というのはどう考えてもLGBTのことを認めないでしょう。しかしこれはLGBTという論点のみならず日本全体の問題だと感じています。
こういう風潮がもっとひどくなって、社会からの圧力でプライドパレードが出来ないというようなことになったら、その時は本当に恐ろしいと思います。たとえば戦時中にTOKYO RAINBOW PRIDEみたいなパレードは絶対に出来ないわけで、LGBTのことだけを考えていると足元をすくわれるような気がするのです。いま私たちが積み上げているものも、おかしな人が権力を握ったらいっきに吹き飛んでしまう。
他のマイノリティの問題についても目を向けながら、もっと大きな枠組みで取り組んでいかなければいけないと思っています。
TOKYO RAINBOW PRIDE http://tokyorainbowpride.com/
(※)
Sexual Orientation(性的指向)とGender Identity(性自認)の頭文字を合わせた略語。全てのセクシュアリティについて含意するために公的な場などでLGBTに変わって使われはじめた用語。
山縣真矢(やまがた・しんや) NPO法人東京レインボープライド共同代表理事。フリーライター/編集者。音楽雑誌の編集者からフリーランスになったことを契機にボランティアでHIVの啓発運動に参加。2002年から東京で断続的に行われたプライドパレードの運営に携わる。2011年5月、現在の「東京レインボープライド」立ち上げに参加。2012年9月に代表となり、2015年8月にNPO法人化するにあたって、杉山文野とともに共同代表理事に就任。
(取材・文 宇田川しい)
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