フランス大統領選がどれだけ重要なのかがよくわかる、4つのポイント

4月23日の第1回投票で票数が上位の候補者2人に絞り込まれ、5月7日の決選投票に進む。

フランス大統領選は混迷している。予想外の候補者に注目が集まり、中にはスキャンダルを抱える人もいるため、結果がどうなるかは分からない。

4月23日の第1回投票で票数が上位の候補者2人に絞り込まれ、5月7日の決選投票に進む。

この選挙にはフランスとEU両者の未来がかかっている。世論調査では、4人の候補者は決選投票に向けて大接戦となっている。候補者は共産主義者の支持を集める急進左派から「フレグジット」(フランスのEU離脱)を求める極右政党の党首までと幅広い。

どの候補者が勝利したとしても、全員がフランスの政治を劇的に方向転換する力を持っており、EUとの関係を一変させる可能性がある。また、今後彼らは近年フランスを悩ませている喫緊の社会問題や政治課題に取り組まなければならない。

フランスは若者の高い失業率や経済の低迷にあえいでいる。またフランス人としてのアイデンティティや移民問題も抱えている。さらに130人が死亡した2015年11月13日のパリ同時多発テロ事件以来、多くのテロが発生し、現在も非常事態宣言が発令されている。

このような理由から、今回のフランス大統領選は他に類を見ないほど重要だ。

フランスの政治が分裂

ほんの数カ月前までは、フランス大統領選の結果は比較的予想がついた。まったくの不人気だった現職のフランソワ・オランド大統領が2016年12月、2期目を目指さず不出馬を宣言したため、保守・中道の共和党予備選で勝利したフィヨン氏が大統領選に勝利すると予想されていた。

しかしフィヨン氏は、その直後スキャンダルに見舞われた。2017年1月25日、フィヨン氏は勤務実態のない家族に公費から多額の給与を支払っていた疑惑が明らかになった。この疑惑でフィヨン氏は勢いを失い、さらに公的資金を悪用したとして現在捜査を受けている

フィヨン陣営が苦戦し、オランド大統領の所属する社会党が混乱に陥る一方で、中道派無所属のエマニュエル・マクロン氏が有力候補に浮上した。支持率トップとなった元銀行員のマクロン氏は、大規模集会で大勢の群衆にEUの結束強化と経済再生を訴えた。

マクロン氏と共にここ数カ月の世論調査で支持率が急上昇しているのが、急進左派のジャン=リュック・メランション氏と所属政党「ラ・フランス・アンスミーズ」(「服従しないフランス」)だ。メランション氏は自身をアメリカのバーニー・サンダース上院議員と重ね合わせ、42万5000ドル(4635万円)以上の収入がある人の税率を90%にすると公約を掲げ、週32時間労働制を求めている。

そして最後は極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首だ。第1回目の投票でマクロン氏と接戦になるとみられている。ルペン氏は、移民の大幅な削減、EUからの離脱、フランスにおけるイスラム教のモスク閉鎖などポピュリスト的な政策を掲げている。

こうした候補者から、フランス政治の分裂と伝統的な既成政党離れが進んでいるのがわかる。フィヨン氏が息を吹き返さない限り、フランスは初めて既成政党以外からの大統領を迎えることになる。

極右政党「国民戦線」の党首マリーヌ・ルペン氏。ROBERT PRATTA / REUTERS

ヨーロッパ極右ポピュリスト最大の試練

難民危機、多発するテロ攻撃、変わらぬ反EUムードの中、ヨーロッパ極右ポピュリスト政党が各国で台頭している。こうした政党は歴史の長いものが多いが、イギリスのEU離脱、アメリカのドナルド・トランプ大統領当選で勢いづいている。

ヨーロッパの極右は、今こそ(彼らの意見によれば)エスタブリッシュメント(既得権益層)の政治家を政府から追い出し、真の「民衆」に権力を取り戻すポピュリスト躍進の時機が到来したと主張している。

2017年、ヨーロッパではフランス、オランダ、ドイツで大きな選挙が行われる。極右ポピュリスト政党は、過激な反移民、反イスラムを争点に持ち込み、それぞれの選挙戦で存在感を増している。

しかし実際には、極右ポピュリスト政党が選挙戦を制する見込みはフランス以外にはない。オランダの自由党首ヘルト・ウィルダース氏は、3月のオランダ下院選で事前の予測を下回る結果となった。ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は選挙に勝利する十分な票を獲得する望みはない。

一方、ルペン氏は決選投票の本命候補だ。世論調査によるとルペン氏は決選投票で首位候補に敗退する予想ではあるが、波乱を起こすことも考えられる。フィヨン氏やマクロン氏が相手となった場合は特にそうだ。

ルペン氏の選挙運動は、フランス国内のポピュリストの強さを示す指標であると同時に、緩やかに結束しているヨーロッパ各国の極右政党の指針にもなる。

2010年12月8日夜、モスクワのレストランでロシアのウラジミール・プーチン首相(右)と談話するフランソワ・フィヨン氏。AFP VIA GETTY IMAGES

ロシアとの関係

4人の有力候補のうち、マクロン氏を除く3人はロシアに対して友好的な政治姿勢を打ち出しているが、マクロン氏は4人の中で唯一、ロシアのウラジミール・プーチン大統領を徹底的に批判する立場をとっている。マクロン陣営は 「政府から資金援助を受けたロシアのメディアが自身を中傷するニュースや、フィヨン氏が優勢だとする誤った世論調査の結果を報じ、大統領選に干渉しようとしている」と訴えている

ロシアのメディア「スプートニク」が、マクロン氏は不倫をしており、「富裕層の同性愛者団体」から支援を受けていると偽情報を流した後、マクロン氏は「同性の愛人との不倫疑惑」を否定する対応に追われた。

マクロン氏の対立候補たちは全員、ロシアに対してより友好的な姿勢を示している。ルペン氏は、フランスがロシアによるクリミア併合を受けて行った対ロ制裁措置を停止すべきだと訴え、プーチン首相と会談するためにモスクワを訪問した。また、メランション氏も、ルペン氏と同じく反EU派で、NATOからの離脱を言明している。

一方フィヨン氏は、ロシアへの制裁措置は「的を射ていない」と発言したほか、あるレバノン人実業家にプーチン大統領との面談を取り計らい、その見返りとして5万ドルを受け取った疑いがもたれている。

JEAN-SEBASTIEN EVRARD VIA GETTY IMAGES

EUの運命

ルペン氏、メランション氏の両候補はEUからの離脱と、NATOなど、現代ヨーロッパの土台となっている国際機関依存からの転換を訴えている。

仮にフランスがEUから離脱すると、EUという通商圏の終焉が始まる可能性が十分にある。EUの主要国で、加盟国の中でも最大規模の経済国フランスの離脱はイギリスのEU離脱の直後に起こることになる。イギリスの離脱だけでも、EUにとっては既にトラウマをもたらすような出来事だ。

ルペン氏が選挙に勝ち大統領にならなければ、ポピュリストがヨーロッパ大陸の政治を支配するというヨーロッパ極右の主張にも陰りが出てくる。しかし第1回投票で敗退しようが、第2回投票で大敗しようが、ルペン氏はかつての極小政党とその過激な政策を主流派のものに近づけることにすでに成功している。

国民戦線への支持が消えてなくなる見込みはない。国民戦線は、若年失業率が高いフランスの若い有権者に高い人気を誇り、ポピュリスト政党は反対勢力としては上々の成果を収めている。反対をしている時には、そうした極端な政策を実行する必要はない。EUは、フランスがルペン氏を選出しなければ、壊滅的な被害をもたらす可能性もある試練を乗り越えることになるだろうが、多くの有権者の間に反EU感情が残り続けるだろう。

ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。

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