多くのトルコ国民が4月16日、トルコの政治体制を根本的に変えてしまいかねない国民投票で賛否を示すこととなる。承認されれば新憲法の下で、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は圧倒的な権限を手にし、今後10年以上大統領職にとどまる可能性がある。
国民投票に関するトルコ国民の賛否は拮抗している。エルドアン大統領に反対する政治勢力は、改憲に反対の声を上げて報復措置を受けることを恐れている。エルドアン大統領と政権与党「公正発展党」(AKP)は「イエス」という結果を出すべく熱心に活動しているが、世論調査結果ではいまだに接戦が続いている。
「圧倒的に不利な状況で、政権側が『イエス』を求める徹底したローラー作戦を実施中ですが、憲法改正に対する激しい反対意見はトルコ国民の間で根強くあります」と、シンクタンク「アトランティック・カウンシル」のアーロン・スタイン氏は述べた。
憲法改正が実現すると、国会議員の定数が増えるなど大きな影響が出るだろう。しかし最大の変化は大統領の権限強化になる。エルドアン大統領は行政府の長と国家元首を兼ねることとなり、首相職は廃止となる。大統領は議会を解散し、非常事態宣言を出し、大臣や判事を任命できるようになる。全て議会の承認は必要ない。
憲法改正案には大統領の任期を2期10年延長することも含まれている。トルコでは2年後に総選挙が予定されているので、エルドアン大統領が最長で2029年まで権力を手にすることが可能になる。
4月9日、トルコのイズミルで、次期国民投票を控えた決起集会の場で支持者に演説するタイイップ・エルドアン大統領
2016年7月15日、エルドアン大統領失脚を狙ったクーデター未遂事件以来、トルコは混乱し苦境に立っている。さらに政権側はクーデター未遂の余波で、公的機関や民間企業の反政府的とみなす勢力の取り締まりを継続している。さらにクルディスタン労働党 (PKK)の民兵と政府の間の対立も再燃した。そのためテロ爆破事件と当局の激しい報復合戦が繰り返されている。
エルドアン大統領の主張によると、新憲法の下、行政権を持つ大統領が誕生すれば、国内が安定するだけでなく、トルコ特有の頻繁に行き詰まる政治システムが改革できるという。キャンペーンを通じて、エルドアン大統領はナショナリズムに訴えかけて支持を集めようとしている。トルコは自国を中傷する外国に対し断固たる立場を取るべきだと訴えかけている。オランダやドイツとの間で外交的な摩擦が起きた時、エルドアン大統領が両国政府を「ナチスの残党」と呼んで非難したのもその戦術の1つだ。
2016年のクーデター未遂事件以来、トルコの政治情勢は大きく様変わりしてしまった。エルドアン大統領はアメリカに国外追放処分となった、イスラム聖職者フェトフッラー・ギュレン師の仕業だと非難している。反対意見を排除するため、トルコ当局は何十万人もの人々を解雇ないし投獄してきている。そのなかには、学者、ジャーナリスト、軍人が含まれる。少なくとも4万人の教師がギュレン師を支持した容疑で解雇された。
政治的に対立する野党も標的となっている。クルド系政党、国民民主主義党(HDP)は2015年の総選挙で急激に議席を増やしたものの、有力議員の多くが今も嫌疑不十分のまま拘束されている。
過去には、多数の野党勢力がトルコの少数政党乱立の連立内閣制を改善すべく憲法改正を支持してきた経緯がある。しかし、エルドアン大統領が独裁色を強め、新憲法案が大統領権限の大幅強化に重点を置いているので、多くの政党が「ノー」を強く呼びかけている。
政権による取り締まりが続くなか、16日の投票は憲法改正のための国民投票というよりは、エルドアン大統領に対する信任投票の度合いが強まっている。抑圧的姿勢を増し、自由を認めない政府を志向するようになってきているが、それでもエルドアン大統領を支持する声は大きいものがある。大統領職にとどまるために、もはや幅広い有権者からの支持は必要ないのだ。その代わり保守派の強力な支持基盤があり、極右勢力の一部からも支持を得ている。
「エルドアン大統領の弱みは、支持を得るために政治的な分断を作る手法に頼ってしまっていることです」と、シュタイン氏は述べた。「もはやトルコの様々な層の間からの合意形成を図ることはありません。大統領を支持しているのは、非常に右翼色が強くナショナリズムを志向する層です」
エルドアン大統領が過度に「イエス」を後押しするために必要な支持を集められなければ、副作用としてトルコの政治は不安定になると予想される。敗北したらエルドアン大統領の力は弱まり、対抗しようとする勢力が国内で勢いを増すだろう。しかし野党側もまとまりを欠いており、大統領は政府の全分野で相当な権限を持ち続けることになると思われる。今後の総選挙でAKPが過半数を獲得すれば、国会で法案を可決させようとすることもあり得る。
16日の投票は接戦になるという予測だが、トルコの世論調査というのは昔から当てにできない。世論調査会社が他国と比べて3倍の人数に電話をかけないと、まともな調査にはなる回答数が得られないのだ。話によると、聞かれた側は見知らぬ人間から投票について聞かれると、答えるのを嫌がる傾向があるという。
ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。
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