シリア北西部イドリブ県の反体制派が支配するハンシャイフンで4月4日、化学兵器の使用が疑われる空爆で、少なくとも72人が死亡した。呼吸困難やけいれんといった症状が見られることから、猛毒のサリンのような神経ガスや塩素ガスといった化学兵器が使用されたと疑われる。
化学兵器攻撃は、国際条約の重大な違反であるだけでなく、世界の指導者、活動家、人道支援に従事する人々への挑戦だ。
SNSなどで拡散された動画や画像には、地面でもがき苦しみ、ゆっくりとけいれんしながら口から泡を出している人びとの姿を映し出した。最初の攻撃からほどなく、戦闘機は犠牲者が治療を受けている近隣の病院を爆撃した。
人権団体や、ホワイトハウスをはじめとする欧米各国の政府は、この極めて凄惨な攻撃はバシャール・アサド政権によるものと結論を出し、激しく非難した。シリア軍は関与を否定している。
4日の化学兵器が疑われる攻撃は、これまでシリア軍が民間人に対して使用した化学兵器攻撃と同じ状況だ。ANADOLU AGENCY VIA GETTY IMAGES
シリアを支援するロシア当局は5日、シリア政府を擁護し、反政府勢力によるものと主張したが、シリアで活動する国際NGO「人権のための医師団」エリ―ズ・ベイカー氏ら専門家はその主張を信用していない。シリア軍は、世界の権力者にメッセージを送るため、他の場所でも民間人を攻撃するだろうと予測している。
「これは、シリア内戦を通して私たちが目にしてきたパターンです。シリア軍は自国の人々に対する攻撃を厭わず、どんな手段でも使います」と、ベイカー氏はハフィントンポストUS版に語った。
「2013年、シリアの首都ダマスカス郊外で起きた神経ガスの攻撃がシリア軍の仕業だったことが明らかになっています。それ以来、シリア軍は化学兵器を使い続けています」とベイカー氏は付け加え、4日の攻撃を検証するために独立した調査が必要だと言及した。
「この攻撃が空爆だったことからもはっきりしています」と、ベイカー氏は語った。 「戦闘機を持っている軍隊は、シリア政府、ロシア軍、そしてアメリカ主導の有志連合だけであり、その3者のうち、過去に化学兵器攻撃をしたことがあるのは、シリア当局だけです。 IS(「イスラム国」)もシリアで化学兵器を使用していましたが、この地域にはISはいません」
Chemical bombing by Syrian govt on #KhanSheikhun, in Idlib (green)
— Annie Sparrow (@annie_sparrow) 4 April 2017
It's not like Putin/Assad forces (red) were aiming at IS (grey) & missed. pic.twitter.com/jMYzzNJnyT
シリア政府によるイドリブ県ハーン・シェイフーン(緑)への化学兵器の爆撃。プーチン大統領/アサド大統領軍(赤)がIS(灰色)を狙い失敗した攻撃とは違う。
アメリカ、イギリス、フランスの各国政府は、アメリカのバラク・オバマ前大統領が、化学兵器を使用すれば「平和的解決から軍事的解決に移る一線を超えることになる」と発言した1年後、2013年8月21日にサリンが使用されてシリア人およそ1700人が殺害された攻撃にシリア政府が関与していると結論付けた。
世界各国から非難の声が上がったが、アサド政権の関与が疑われる残虐行為に対して持続的な圧力とはならなかった。2013年9月14日にはロシアとアメリカがシリアの化学兵器を廃棄し、2014年半ばまでに全廃することで合意した。それでもアサド政権は化学兵器を使用した空爆を中止することなく、国連安全保障理事会でシリアで化学兵器の使用に関与した人物に制裁を与える決議案に対しロシアと中国は繰り返し拒否権を行使している。
ベイカー氏は、アサド政権が続ける戦争犯罪に対し、国際社会からの効果的な制裁がないため、シリアでは「何をしようと無反省な、やりたい放題」の状態が続いていると指摘する。
「シリア政府に制裁が下され、説明責任が果たされない限り、このような攻撃は続くでしょう」と、ベイカー氏は語った。「内戦が始まって7年になりますが、私たちが日々目にする違法な暴力行為に対して、国連は信頼のおける対策を何ら講じてきませんでした。シリア政府はこの事実をしっかりと認識した上で、罰を受けずに、どれほどのことができるのか、その限界を確かめようとしているのだと思います」
小さな子供数人を含む大勢の人々が虐殺された。ANADOLU AGENCY VIA GETTY IMAGES
アメリカのニッキー・ヘイリー国連大使は3月30日、アサド大統領の辞職を要求してきた従来の立場を転換し、「アサド政権の打倒は優先課題ではない」と述べ、シリア政府と連携してISと闘うという姿勢を表明した。しかしその数日後、この化学兵器攻撃が発生した。ヘイリー国連大使は5日、「4日の攻撃は残忍なアサド政権によるこれまでの行為の中でも最悪のものだった」と発言、3月30日の姿勢を撤回したかに見えた。
レバノンを拠点として紛争に苦しむ人々の支援に取り組む人道支援団体「 Basmeh and Zeitooneh for Relief and Development」代表のファディ・ハリソ氏によると、シリア問題に対するアメリカの政策転換と、今回発生した化学兵器による攻撃のタイミングが一致したのは偶然ではないという。
ハリソ氏は、 アメリカが最新の声明で、優先課題はISであり、アサド政権の打倒にはこだわらないという姿勢を表明したことがシリア政府を後押ししたと考えている。
また、今回の攻撃はベルギー・ブリュッセルでシリア支援を協議するEUや国連の国際会合が開催されるタイミングで発生した。この会議では2日間にわたって各国政府の高官らが集まり、紛争で荒廃したシリアに対する経済援助について協議する。
ハリソ氏は、今回の化学兵器による攻撃はアサド大統領からの「あからさまな侮辱行為」で、「お前たちは金を出し続け、私は殺し続ける、という警告のメッセージだ」と述べた。
シリアの活動家らと共に国際会合に出席しているハリソ氏は、ブリュッセルからハフィントンポストUS版の取材に答え、「これはEUに対するメッセージだと思います。『シリア政府は一切譲歩しない、シリアが再建されるとすれば、他国の指図は受けずに独自の条件で行う』という意思表明です」と語った。「私たちはこれまで、アサド政権が国際社会を操る手口を目にしてきました。紛争を激化させようとするたびに、まずは国際社会の反応をテストするのです」
ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。
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