オランダ下院選(定数150)の投開票が3月15日行われ、出口調査の結果、現職のマルク・ルッテ首相率いる与党自由民主党(VVD)が31議席を獲得し、現有の40議席から大きく減らしたものの、第一党を維持する見通しとなった。
「自由民主党が3期連続でオランダの最大政党になることがはっきりした」と、ルッテ首相はハーグ市内で支持者に勝利宣言した。「ブレグジット(イギリスのEU離脱)後、そしてアメリカ大統領選後、オランダがポピュリズムという誤った流れを食い止める夜になった」と、ルッテ首相は強調した。
投票後手を振るルッテ首相。MICHAEL KOOREN/REUTERS
世論調査で一時首位となっていた極右のヘルト・ウィルダース氏率いる自由党(PVV。現有議席15)は、キリスト教民主勢力(同13)、左派のグリーン・レフト(同4)に並ぶ19議席を獲得。自民党と連立を組む労働党(PvdA)は9議席(同35)と大きく議席を失った。
ウィルダース氏は選挙結果について、Twitterで自由党に投票した人たちに感謝を述べ、「ルッテはまだ私を排除できない」と挑発した。
PVVに投票してくれた人たちに感謝! 我々は議席を伸ばした!それが第一の収穫だ!ルッテはまだ私を排除できない!!
数百万人ものオランダ人有権者が15日に新政権を選ぶために投票し、他のヨーロッパの国々は、極右のポピュリスト政党自由党が第一党となるかどうか、不安を抱えながら見守っていたが、極右の対等に歯止めがかかったことにヨーロッパ各国では安堵の声も聞かれた。
下院選の投票は午前7時30分に開始した。投票率は81%に達し、前回の選挙にくらべはるかに高かった。首都アムステルダムでは、予想以上に多くの人々が投票所に足を運んだため、市当局が追加の投票用紙を印刷しなければならなくなった。いくつかの投票所の職員は、あふれる投票箱を写真に撮り投稿した。
投票箱がいっぱいになってしまったら、国民の意思を尊重するため、踏みつけなければならない。驚くべきことだ!
15日朝の投票にいち早く投票所に到着した人の中に、熾烈を極めた今回の選挙の2人の重要人物、ルッテ首相とヘルト・ウィルダース氏の姿もあった。
反イスラム・反移民的の派手な言動で知られる極右のウィルダース氏は2016年12月9日、2014年の演説集会でオランダ国内に多くいるモロッコ系移民に対するヘイトを扇動した罪で有罪判決を受けたが、事前の世論調査では数カ月にわたって圧倒的な支持を得ていた。ウィルダース氏は、移民の制限・オランダの脱イスラム化・欧州連合(EU)の脱退で「オランダを再び我々のものにする」ことを公約に掲げていた。
「我々は自国の管理を取り戻す。我々は、自分の家の玄関への鍵を取り戻す」と、ウィルダースは13日のテレビ討論でEU離脱について語った。
ウィルダース氏は、デイリー・エクスプレス紙に対し、下院選の勝算について「楽観的だ」と見通しを語った。ウィルダース氏は、「一般の人々は、自国を取り戻すことに関心を持っている」と話した。
票を投じる極右指導者ウィルダース氏。国際メディアからの大きな関心が集まった。
ウィルダース氏への支持は根強いが、投票日までの数週間の選挙戦では接戦となっていた。投票前日まで、ウィルダー氏の自由党とルッテ首相の自由民主党は接戦になると見られていた。3月14日の世論調査ではルッテ首相が国会の150議席中24から28議席、一方ウィルダー氏側は19から22議席を獲得するという議席予想が出ていた。
ルッテ首相は、自身がかつて通っていた小学校で投票し、オランダの有権者たちに投票所に行くよう訴えた。「この選挙は重要なイベントであり、多くの人たちが一生懸命戦ってきました」と、ルッテ首相は投票しながら語った。
ルッテ首相は13日と14日の討論会で再度自らの主張を訴えた。13日には有権者たちにオランダ経済が好調であることを訴え、ウィルダース氏のほとんど中身のない表面的な政策を批判した。
ウィルダース氏はポピュリストの典型的な手法で自身の政策について主張し、オランダの社会保障システムを脅かす移民を警戒する有権者たちに訴えかけ、与党を攻撃した。
主要政党の党首たちは14日、最後のテレビ討論会で白熱した議論を繰り広げた。労働党のウェイク・アッシャー党首は、ウィルダース氏いめを「1万回怒りのツイートをしておいて、何の解決方法も示さない」と非難した。ウィルダース氏はそれに対し、「オランダはみんなのものではなく、オランダ人のものだ。そしてあなたの政党は我々オランダ人をまるで自分の家にいないような気分にさせている」と反論した。
デン・ハーグ市の有権者ウェンディ・デ・グラーフさんは15日朝、物議を醸すような発言は一部あるが、それでもウィルダース氏に投票したと語った。「彼の言うことのすべてに同意しているわけではありません。しかし、移民は問題だと私は感じています」と、彼女は語った。
オランダ全土の投票所で行列ができていた。REMKO DE WAAL VIA GETTY IMAGES
オランダの有権者のおよそ半数は、13日の時点ではまだ誰に投票するか決めかねていた。有権者が自分に最も一致する政党はどこかを決めるのを手助けするオンライン調査の運営団体「ProDemos」は、システムが14日の午後から15日の朝にかけて60万回から70万回使用されたと語った。そのシステムは、サイバー攻撃を受けて時折ダウンしていたが、選挙期間を通じて計630万回以上使用された。
トルコのメブリュト・チャブシオール外務相がオランダ・ロッテルダムで開かれた政治集会に参加するため入国しようとしたところ、オランダ側が拒否したため、オランダとトルコの対立が激化したことから、下院選の結果は不透明なままだった。
自由民主党を長年支持するデイヴ・チョーさんは15日、ロイター通信に「今週起きたトルコとの騒動で、ルッテ首相はよくやってくれたと思います」と語った。
ハーグ市内で投票所に並ぶ有権者たち。JOHN THYS VIA GETTY IMAGES
労働党は無党派層に向け、選挙直前になってTwitterで訴えた。#tochmaarPvdA(最後は労働党)や#PvdAafterallといったハッシュタグが、15日朝すぐにトレンド入りした。しかし労働党は大幅に議席数を失い、労働党のハンス・スペックマン氏は「痛い敗北だ。損失は大きい」と語った。
2017年3月15日、アムステルダムの投票所で投票するオランダの労働党党首・現オランダ副首相のローデウェイク・アッシャー氏。ROB ENGELAAR VIA GETTY IMAGES
オランダ下院選では28の政党が150の議席を争ったが、10%以上の得票率を獲得できたは自由民主党などわずかで、オランダの政治はかつてないほど分裂することになる。自由民主党も過半数を獲得できず、最大で6つの政党と連立交渉する必要に迫られる可能性がある。各党が連立合意に至るにはしばらく時間がかかりそうだが、ほとんどの党首がはっきり表明していることがある。「ウィルダース氏の自由党とは連立を組まない」ことだ。
「あなたの政党とは協力できない。絶対に」と、ルッテ首相は13日の討論会で、ウィルダース氏に警告した。
しかし、自由党が政権に加わるかどうかにかかわらず、ウィルダース氏の選挙運動は成功した。数十年間ウィルダース氏が最も訴えていた移民とイスラム教徒の問題が、選挙の主な争点となったからだ。
ウィルダース氏の求心力を抑えようと、主要な政党のいくつかは移民とEUの問題については右寄りの政策に移行した。ルッテ首相は1月の公開書簡で、オランダの習慣を尊重しない人々は「普通に振る舞うか、さもなければ出て行ってほしい」と語っている。
ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。
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