ドナルド・トランプ大統領がTwitterで突如「バラク・オバマ前政権に電話を盗聴された」と主張した問題が大きな波紋を呼んでいる。オバマ氏はツイートの直後に「事実無根だ」と否定し、連邦捜査局(FBI)のジェームズ・コミー長官も司法省に対してトランプ氏の主張を否定するように要請した。一方ホワイトハウスのショーン・スパイサー報道官は上下両院に対して疑惑を調査するよう求めるなど、事態は混沌としている。
きっかけは、3月4日午前6時35分のトランプ氏のツイートだった。
トランプ氏は突然、バラク・オバマ前大統領が2016年大統領選前にトランプ・タワーの「電話を盗聴」したと非難した。
「ひどすぎる!」と、トランプ氏は書き込んだ。「勝利の直前のトランプ・タワーでオバマが「電話を盗聴」していたことが今分かった。何も見つからなかった。これはマッカーシズムだ!」
トランプ氏のツイート全投稿は以下の通り。
ひどすぎる!勝利直前のトランプ・タワーでオバマが「電話を盗聴」していたことが今分かった。何も見つからなかった。これはマッカーシズムだ!
新情報。ジェフ・セッションズが会っていたロシア駐米大使はこれまでに22回、去年だけで4回もホワイトハウスにオバマを訪ねていた。
現職大統領が選挙期間中に候補者の電話を盗聴するのは合法なのか?以前裁判所は却下した。最低新記録だ!
良い弁護士がいればきっと見事に立証できるはずだ。選挙直前の10月、オバマ大統領が私の電話を盗聴していたという事実を!
非常に神聖な選挙の進行期間中に私の電話を盗聴するとは、オバマ大統領も落ちたものだ。これはニクソンのウォーターゲート事件だ。悪い(それか病んでいる)奴だ!
トランプ氏はTwitterに連続して投稿し盗聴疑惑を広めたが、その裏付けとなる証拠は示さなかった。
トランプ氏はさらにオバマ氏を「悪い(それか病んでいる)奴」と呼んだ。そしてニューヨークの拠点を盗聴されたという主張を、「ウォーターゲート事件」と結びつけた。ウォーターゲート事件では、共和党のリチャード・ニクソン大統領だ辞任に追いやられた。
オバマ氏の広報官ケビン・ルイス氏は同じ日の昼声明を発表し、盗聴を命じたという主張は「まったくの虚偽」と全面否定した。
ルイス氏は、「ホワイトハウスは司法省の調査に関わらない。これは前政権の『鉄則』だった」と強調した。
「その鉄則を実践した一例として、オバマ大統領も、ホワイトハウスの高官も誰ひとりとして、アメリカ国民の監視を命じたことは一切ない」と、ルイス氏が声明のなかで述べた。「それとは逆の主張は、単に虚偽だ」
オバマ氏の元大統領顧問ベン・ローズ氏も、大統領は盗聴を命じることができないことを指摘している。
盗聴を命令できる大統領はいない。そうした制限は、トランプ氏のような人たちからアメリカ国民を守るために定められている。
トランプ氏が、この主張を実証する証拠を持っていたのか、または機密情報の報告に言及していたのかどうかははっきりしない。しかし、複数の報道によると、トランプ氏の主張の根拠となっているのは、保守派ニュースサイト「ブライトバート・ニュース」が3日に掲載した記事の情報だ。「ブライトバート・ニュース」によると、オバマ氏がトランプ氏の選挙運動について盗聴する認可を「要請し、ついに手に入れた」と主張している。「ブライトバート・ニュース」スティーブン・バノン氏はトランプ氏の選挙運動の本部長を務めるため、ブライトバートの会長を辞任している。バノン氏は今、ホワイトハウスの首席戦略官だ。
政府機関の職員の話から、ホワイトハウスの高官の数人が、このブライトバートの記事を広めていることを確認した。
トランプ氏が「今分かったばかりだ」と書いた盗聴の主張は、実際に報道されてから何週間も経っていることがわかっている。ガーディアンは1月11日、FBIが2016年夏に外国情報監視法に基づきトランプ氏の関係者を監視する令状を申請したものの、却下されたと報じている。
トランプ財団は保守活動家ジェームス・オキーフ氏の団体「プロジェクト・ベリタス」に1万ドルを寄付した。これはブライトバート・ニュースと密接な関係で、トランプ氏の選挙陣営の非公式部門でもある。皮肉にも、プロジェクト・ベリタスは、大統領選の対抗馬だったヒラリー・クリントン氏の選挙陣営に潜入しようとした。クリントン氏と提携している外部のグループへの潜入に成功すると、選挙運動に関する内部情報をひそかに記録して公表した。トランプ氏は遊説中、クリントン氏の「疑惑」を何度も主張している。
■ ホワイトハウスは議会に調査を求める
ホワイトハウスのサラ・ハッカビー・サンダース副報道官は4日、「トランプ氏は、オバマ前大統領が大統領選中に盗聴をしていたという『極めて現実に起こりうる可能性』について述べているだけだ」と語った。
ABCニュースの討論番組「ディス・ウイーク」のインタビューで、司会者のマーサ・ラダッツ氏はサンダース副報道官に、トランプはなぜそれほど確信をもって主張したのかと尋ねた。
「もし盗聴されていたとすれば、これは大変なことだと思います、マーサ……」とサンダース氏は話し始めた。
「もし、もし、」ラダッツ氏は言葉を差しはさんだ。「なぜ、大統領は盗聴されたと言っているのですか?」
「彼は、それを見て、これは実際ありそうなことだと信じさせるに至った情報について主張しているんです」と、サンダース氏は答えた。
「トランプ大統領はただ、トランプ陣営が選挙戦でロシアと繋がりがあった、連絡を取り合っていたといった疑惑に対する調査の一環として、オバマ氏の疑惑の調査も依頼しているだけだ」と、サンダース氏は主張した。
「もしロシアとの関連を調査するなら、この件も含めましょう。私たちが依頼しているのはその点なんです」と、サンダース氏はラダッツ氏に語った。
「トランプは自分の信じていることをとても明確にしています。この件を徹底的に調査することを要請しているのです」と、サンダース氏は語った。「ここで真実をはっきりさせましょう」
サンダース氏はトランプ氏の主張の根拠は示さなかった。しかし盗聴疑惑に関するメディアの報道を「真剣に」とらえていると述べた。報道機関の中では、「ブライトバートニュース」や「ヒート・ストリート」といったトランプ氏を支持する保守系ニュースサイトだけが、オバマ氏が個人的にトランプ氏への盗聴を支持したと主張している。これらのサイトは、ニューヨーク・タイムズなど主流メディアの記事にリンクを張っているが、ニューヨークタイムズには明確にはそのような主張はない。
ホワイトハウスのスパイサー報道官は5日、声明を発表し、「オバマ前政権が捜査権の濫用をしていなかったかどうか、議会が調査することを求める」と述べた。一方、トランプ氏の主張については「議会の調査が行われるまでホワイトハウスも大統領もコメントしない」と、根拠を示さなかった。
スパイサー報道官は6日の会見でも盗聴の根拠となった情報源の開示を求められたがこれを拒否。ブライトバート・ニュースなどを根拠にしているのではないかという質問には答えず、「何かが起きたのは間違いない。問題はそれが監視なのか盗聴なのか、何かそういうものだ」と述べた。
■ FBIコミー長官「トランプ氏の主張否定を」司法省に要請
ニューヨーク・タイムズによると、FBIのジェームズ・コミー長官は5日、司法省に対し、オバマ氏が大統領選中にトランプ氏の通信を盗聴するよう命じたというトランプ氏の主張を公式に拒否するよう要請した。
匿名でニューヨークタイムズの取材に答えた当局者によると、コミー長官は、何の証拠も提供せずににツイートされたトランプ氏の主張は「虚偽であり、正さなければならない」と述べた。トランプ大統領が指名したジェフ・セッション司法長官率いる司法省はまだコミー長官の要請を拒否していない。
ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。
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