「保育園落ちた日本死ね」のブログが話題になってから1年。今年もTwitter上には子どもが保育園に入れなかったという悲痛な声が溢れている。待機児童は、失業につながりかねない重大な問題だ。
保育園に落ちた長女を文字通りお腹に抱えながら、フリーランスで複数の会社のPRプランナーをしている平田麻莉さんは、フリーランスで働く人が保育園に入るには、さらに高いハードルがあると話す。一方で、多様な働き方に対応した新しい保育の形を生み出す可能性を秘めた存在でもある。
ハフィントンポストは3月1日、平田さんが共同代表を務める「プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会」との共催で「フリーランスの保活」について考えるイベントを開く。どうすれば、私たちは自分にふさわしい多様な働き方、保育のあり方を創造することができるだろうか?まずは平田さんのライフスタイルから考えてみたい。
平田さんは取材の場に、抱っこ紐で抱えた1歳の長女と一緒に現れた。2016年4月入園のタイミングで保育園に入れようとしたが「落選」して待機児童となり、今まさに2017年4月の入所の結果を待っている。
【UPDATE 2017/02/21 その後、平田さんの長女は4月から保育園に入れることになった。】
そのため、現在はクライアントとの会議など、すべての仕事を「カンガルースタイル」で乗り切らざるを得ない。
TPOは考えつつ、啓発活動だと思ってなるべくカンガルースタイルを実践しています。一時保育も激戦ですし、会議の時間に寝てくれるように食事の時間を調整したりして、何とかしています。電車で相席になる年配の方に子連れで仕事をしていると話すと「連れ出してかわいそう」なんてご心配いただくこともありますし、打合せの相手からも最初はたいてい驚かれます。
でも幸い、この子は割とおとなしくて。会議が終わった後に「意外と大丈夫なんですね〜」と言ってくださることが多いです。たまに「ギャン泣き」の時もありますが...そんな時は平謝りするしかないですね。
保育園の申請で当落の鍵を握っているのは、保育が必要な度合いを比較する「指数(点数)」だ。
ひとり親か、親の勤務はフルタイムか、それともパートかなどによって点数が左右される。そして、合計点が高い方がより「保育が必要な家庭」と判断され、優先順位が高くなるという仕組みだ。
フリーランスの中には自宅で働いている人もいる。多くの自治体では、会社で雇用されている「外勤」の人と同じ時間数働いていても自営業や「居宅内労働」と判定されると点数が低くなってしまう。それだけで東京23区内では、入所はほぼ絶望的だ。
「家で仕事をしているなら子供の面倒もついでに見られるだろう」と思われているんですよね。でも実際はそうとも限りません。フリーランスの働き方が十分に理解されていないなと感じます。
平田さん自身は、仕事は自宅外でしている。だが、2016年度の申請では、フリーランスというだけで「居宅内労働」の申請書を使用して申請する必要があると自治体で説明された。「外勤」と何とか認めてもらおうと、必死のあがきで、契約しているすべての会社から「外勤」という証明を発行してもらい、所定の申請書に加えて、勤務状況を記入したカレンダーを2カ月分出力して提出したという。しかし、2016年度の結果は「落選」。「外勤」と認められたかどうかは不明だ。
平田さん(中央)は打ち合わせも子連れで
平田さんは大学在学中からベンチャー企業での勤務を始めた。その仕事を退職し、研究者を目指して慶應大の博士課程に在学中に、長男(3)が誕生した。
「仕事人間」と自称するが、実は長男の出産後、学校もやめて専業主婦として過ごした時期もある。卵巣の腫瘍が悪性化した可能性があると言われ、最悪のケースを考えて、家族と過ごす時間を大切にしようと考えたからだ。
出産前は「サッと産んでサッと復帰するわー」なんて言ってたんですけど、生まれてみたら子供が可愛くて。20代は仕事しかしてない人生だったから、主婦生活は目から鱗が落ちた感じでした。
手術で片方の卵巣を摘出して健康が回復。安心して、また社会と関わりたいという想いが芽生え、「元気いっぱい」の長男に自分以外の遊び相手が必要だなと思い始めた頃に、再びフリーランスで働き始めることになった。ただ、その時も長男はすぐには認可保育所には入れず、無認可保育所に預けて仕事を再開した。
保育所に落ちて「日本死ね」という気持ちは、もちろん十分理解できます。私も子連れだとやはり仕事のパフォーマンスは下がるし、長女が重くなって腰も痛いし、今年落選したら本当につらい。でも、自治体が保育所という「箱」を増やすことの難しさも理解できる。
私は「女性の働き方」とひとくくりにされるのも違和感があります。どんなペースで働きたいか、どんな子育てや教育をしたいかは人によって違う。「子供が小さい頃はフリーランスで短時間働きたい」という人がいてもいい。
でもそれに対して、フルタイムで両親が共働きでないと入るのが難しい「認可保育園」という仕組みだけで解決しようとするのは限界がある。
日本でフリーランスで働く人は1000万人を超えた(2016年)。平田さんは1月、保育を含む様々な問題意識を抱えるフリーランス仲間とともに「プロフェッショナル&パラレルキャリアフリーランス協会」を設立した。
フリーランスは自由な働き方を選べるメリットの反面、税制や社会保障などの制度でも不利益があり、ローンが組みにくいなどのデメリットがあるからだ。
協会では、会費を納めた会員を対象に、医療・損害賠償保険や、妊娠・出産の共済制度、人間ドッグの割引制度、コワーキングスペース優待、法務・税務相談などの提供を検討している。
そして、保育についても、経験談を集めて国に政策提言をしたり、互助のチームを結成してお互いに預け合う仕組みを作りたいと考えている。
働き方も多様なら、預け方も多様にならないと。だから、例えば保育バウチャー制度とか、ベビーシッターとか、誰かの家庭で面倒をみるとか、いろんな保育があっていい。
昨年「死ね」と声を上げた人たちの問題提起には感謝しつつ、私は自分がやれることを一歩ずつやっていけたらいいなと。フリーランスのみなさんと一緒に悩みを共有して、提言したり、新しい制度を考えたり、動いていきたいと思っています。
※ハフィントンポストではフリーランス協会との共催イベント(無料)を2017年3月1日(水)10:30-12:30 に開き、フリーランスで働く人の子育て事情や工夫などについて語り合い、提言をまとめたいと考えています。
ゲストは以下の4人です。
菊地加奈子さん(社労士/保育園経営者)
新倉暁子さん(ライフオーガナイザー)
吉野ユリ子さん(ライフスタイル・ジャーナリスト)
竹下隆一郎(ハフィントンポスト日本版編集長)
フリーランスで働いている方、保活に苦労している方、フリーランスという仕事の仕方に興味がある方もぜひお越しください。詳細は下記から、またはこちらのページからご確認ください。ご参加を心よりお待ちしています。
また、フリーランスで保活経験のある方を対象にアンケートも実施しています。こちらもぜひご協力ください。
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