兵庫県尼崎市と伊丹市が運営する競艇「ボートレース尼崎」で、「オネエ」をターゲットにした集客イベントが実施されたが、「性的少数者(LGBT)への偏見に満ちている」と指摘を受け、年度途中で事業が中止になった。
「オネエタレント」を起用した企画だったが、当事者はどこに偏見を感じ取ったのだろうか。
ボートレース尼崎が公開していた「来場促進事業業務委託仕様書」によると、この事業は、来場者の減少と高齢化に歯止めをかけようと計画された集客イベントの一つ。
「オネエ来(こ)れクション事業」「オネエネットワークを活かし(コネクション)、オネエを集めよう(コレクション)。オネエよ来たれ!BOATRACE尼崎へ!!」というサブタイトルがついている。
なぜ「オネエ」だったのか。仕様書には、こう書かれていた。
オネエ系タレントの勢いには歯止めがかからない。彼女たちの活躍により、いまや容姿やもの珍しさよりも、親しみやすさで多くの国民に受け入れられている感さえある。(中略)本企画は彼女ら「オネエ」に焦点をあて、ボートレース尼崎の新たな顧客層として引き寄せる様々な仕掛けを行うことにより、ボートレースの楽しさやボートレーサーの魅力に目覚めてもらう。そしてそれを他のオネエ仲間やショーパブ等のお客様等に広く情報発信してもらうことにより、オネエ業界におけるボートレースブームを巻き起こしていくものである。
また、「類は友を呼ぶ」とあるように、共通の価値観をもつ者や似通った者同士は、自然に寄り添うことがあることから、「オネエにはオネエを」をコンセプトに、オネエ集団がボートレースを楽しみ、それが次第にオネエの固定客にまで派生し、そしてその話題が広く伝わって、多くの新たな顧客層をBOATRACE尼崎へ取り込むことを目標とする。
その上で、以下のように銘打った企画を立てていた(表現は本文からの抜粋)。
- オネエがボートするわよ(リーダーオネエを任命後、ボートレースをレクチャーする)
- 見切ったわよこれがオネエ流のボートレースよ(オネエ層を呼ぶためにBOATRACE尼崎をプロデュースしてもらう)
- 最強よ友達のオネエ連れてくるじゃない(オネエ軍団を連れ立ってもらう)
- ボートレースフィーバーよ(口コミ効果によりオネエの域を超えて、ボートレースやBOATRACE尼崎を拡散する)
- あなたオネエの素質あるわね(オネエを起用して、一般層向けにイベントを行う)
1月21日には「お釜が当たる!オネエ達による抽選会」と題して、タレントを招いて炊飯器などのプレゼントが当たる抽選会やトークショーを実施した。
しかし2月1日に、企画内容に疑問を呈するメールが、イベント実施主体の「ファン拡大推進企画実行委員会」(尼崎市、伊丹市などで構成)に寄せられ、尼崎市や伊丹市などと協議した結果、今後の企画を中止することを決めたという。
実行委員会の担当者はハフィントンポストの取材に対し「偏見を助長する意図があったわけではないが、不快感を抱かれた方がおられたのは事実で、今後の事業を取りやめることにした」と説明した。
■「オネエ=笑いの対象、笑われる存在というステレオタイプ」
同性愛をカミングアウトし、LGBTの理解促進をめざすMEIJI ALLY WEEKで代表を務める大学生の松岡宗嗣さんは、1月30日にTwitterでこのイベントに疑問を呈していた。
当事者は、どういった部分が「偏見」と感じるのだろうか。松岡さんに解説してもらった。
「メディアがオネエ=笑いの対象として消費しているのに対して、一般に生きるセクシュアルマイノリティはまだまだ可視化され身近な存在になっているとは言えない現状があります。そのため、セクシュアルマイノリティがメディアの中での語られ方と同じイメージを持たれてしまい、その偏見によって生きづらさを感じてしまう構造があります。今回の企画はその構造を強化してしまうことにつながる可能性があると思います」
そもそも「オネエ」の性的指向が男性であるとは必ずしも限らないし、「あなたオネエの素質あるわね」という企画も「性自認や性表現を『選んで』いると捉えられてしまう可能性があります」という。
「問題は、本来、差別や偏見をなくしていく側のはずの行政がそれを助長するようなPR企画を出していることです」
ただ、オネエタレント自身が悪いわけではない。「この問題の難しいところは、その人たちを活用したPR企画というのは全否定はしにくいというところだと思います。まずはメディアで語られる『オネエ』とは違う、一般に生きるセクシュアルマイノリティがいることを誰もが自覚してほしい。そして、オネエだから全て笑いの対象として捉えるのではなく、その人が持つ美しさやその人の性格、コミュニケーションの力などが注目されるようになってほしいと思っています」