2017年の韓国大統領選で有力候補とみられていた潘基文(パン・ギムン)前国連事務総長が、2月1日、大統領選への不出馬を宣言した。
「私が主導して政治交代、国家統合を成し遂げようとしていた純粋な意志を断念するという決定をしました」。潘基文氏はこの日、国会で緊急の記者会見を開き、このように述べた。
不出馬を決意した背景に自らの名誉が失墜したことや「一部政治家たちの旧態依然で偏狭な態度」を挙げた。
私の純粋な愛国心と抱負は、人格殺人に近い陰湿な攻撃、各種の虚偽ニュースのために、政治交代という大義名分が見えなくなり、むしろ私個人や家族、そして私が10年務めた国連の名誉に大きな傷だけを残すこととなり、結局は国民の皆様に大きなご迷惑をかけることとなりました。また、一部政治家たちの旧態依然で偏狭な利己主義的な態度にも極めて失望し、結局、彼らと共に道を歩むことは無意味であるとの判断に至りました。(韓国日報、2月1日)
潘基文氏は、自分が解決しようしていた夢やビジョンはあきらめないとしながら、「自身の経験や国際的な名声を土台に、韓国の危機を解決するためにどのような方法であれ貢献する」と述べ、不出馬宣言を締めくくった。
■支持率伸び悩み、支持層も広がらず
2017年春にも予想される大統領選の有力候補とみられていた潘基文氏が、選挙戦に突入する前から早々と出馬断念を余儀なくされた。背景には、思うように支持が広がらなかったことが挙げられる。
潘氏は国連事務総長に在任中から、既存の政治勢力としがらみのない清新な人物として期待が高く、朴槿恵大統領の後を継ぐ与党・保守系の大統領候補と目されていた。しかし、朴槿恵大統領が知人女性の崔順実(チェ・スンシル)被告と共謀した職権乱用や不正蓄財などに問われ、国会で弾劾訴追・職務停止となり、保守陣営に大きな逆風が吹く中で、国連の任期を満了して2017年1月に韓国に帰国した。
帰国後は「政権交代」ではない「政治交代」というキャッチフレーズを掲げ、与野党にとらわれず幅広い支持を集めて刷新感を打ち出そうとした。しかし、国連事務総長時代の発言を、国内の選挙を意識して次々と撤回。慰安婦問題での合意を評価した発言を野党支持層に配慮して覆したり、性的少数者(LGBT)への連帯発言を保守系のキリスト教団体に配慮して否定したりして、つかみどころのない言行が「油ウナギ」と評され、失望感を広げていた。自身や親族を巡る贈収賄などのスキャンダルも相次いで報じられ、クリーンな人物というイメージも薄れていた。
最有力候補の出馬辞退で、大統領選の構図はさらに混迷すると予想される。保守系では大統領代行を務める黄教安(ファン・ギョアン)首相への安定感、野党系では安熙正(アン・ヒジョン)忠清南道知事の清新なイメージに支持が高まる傾向がみられる。潘氏の支持層がどこへ向かうのかは予断を許さない。