オバマケア撤廃に向けトランプ大統領が動く 就任直後に大統領令を出した狙いは?

代替案提出までの時間稼ぎ?

オバマケアの見直しを指示する大統領令に署名するトランプ大統領

アメリカのドナルド・トランプ大統領は1月20日、医療保険制度改革(オバマケア)の見直しを支持する大統領令に署名した。共和党は一貫して国民皆保険につながるオバマケアを「社会主義的」として批判してきたことが背景にある。「小さな政府」を志向する共和党からすると、社会保障費の増大で財政支出に負担を強いるオバマケアは容認できない政策だからだ。

■ オバマケアとは?

オバマケアは 医療保険制度改革法「アフォーダブル・ケア・アクト(ACA)」という、アメリカの医療保険制度を改革する法律のニックネームだ。この法律には賛否両論があったが、2010年3月に議会を通過しオバマ大統領が署名した。

この法律の目的は、より多くのアメリカ国民に医療保険に加入してもらうこと。現在、4800万人のアメリカ国民が医療保険にひとつも入っていない(訳注・アメリカは日本と違って国民皆保険ではない)。この法律では、保険に加入していない人でも職場を通じて自分の保険を買うことができる。

オバマケアによって、保険会社は持病を抱えている人の保険加入を断ることはできないし、医療費が巨額になったからといって加入している保険のプランから追い出されることもないし、保険金の支払に上限を設けることもできない。また、医療費の自己負担分も年間で一人当たり6350ドル(約62万円) 、家族当たり1万2700ドル(約125万円)を超えてはならないとされている。大きな病気や事故でこの上限を超えた費用がかかる場合、その分は全額、医療保険が負担することになる。

オバマケアは 「エッセンシャル・ヘルス・ベネフィット」(基本的医療給付) も規定しており、あらゆる医療保険プランに保険適用が義務付けられている。これには薬の処方や妊産婦医療も含まれる。この規定によると、人間ドックや避妊も追加料金なしで利用できるようになる。

■ 就任直後の大統領令

大統領に就任してから数時間後、トランプ氏はオバマケアを監督している政府機関にACAの規制を緩和するよう指示した。議会がオバマケア撤廃にこぎつける前に土台を崩しておく狙いだ。

トランプ大統領は就任式後のパレードに参加した後、大統領執務室で大統領令に署名した。これは大統領としての最初の執務の1つとなった。

トランプ政権がこうした措置を取ることは、多くの保険政策専門家が予期していた。オバマケア撤廃へ向けてトランプ氏とともに力を入れている議会の共和党議員がいつ、どのように撤廃できるのか、また、どのような代替案を作成するのか模索している。

この大統領令は、オバマケア撤廃をトランプ氏が独自の判断でできるようにするものだ。

「この大統領令は、直接オバマケアを変更できるものではありません。しかし、連邦政府の機関が議会を待つことなくさまざまな方法でオバマケアを骨抜きにするよう、トランプ氏が指示したのです」とヘンリー・J・カイザー・ファミリー財団のラリー・レビット氏がハフィントンポストUS版に語った。

オバマケアは、2010年に成立し、2014年に完全施行された。およそ2000万人のアメリカ人が健康保険に加入するのを助け、消費者保護を数百万人レベルで新たに拡大した。現在、健康保険を持たない人の数は、過去最低を記録している。

しかし、オバマケアにより、以前より高い保険料を払ったり、大きな保険負担を強いられる人もおり、バラク・オバマ前大統領が法案に署名して以来、共和党を中心に反発を招いている。

オバマケアは、保険会社が直接個人に販売する民間の健康保険に新しい規則を設け、州のメディケイド(州が運営する低所得者向けの医療補助制度)プログラム策定に制限を加えている。しかし、こうした州法の大多数と同様に、オバマケアはこれらの規則の運用と実施について裁量権の多くを保険社会福祉省に与えている。

オバマケアが定める民間保険の規則のうち、共和党が最も嫌うのが「個人強制加入」だ。これは保険料を支払う余裕があるにもかかわらわず支払わない人に制裁金を科すもので、その目的は、深刻な病状の人だけでなく、健康な人にも保険を購入させることにある。

オバマケアのメディケイド用ガイドラインも共和党の怒りを買っている。なぜなら、共和党の主張によると、このガイドラインはプログラム策定にあたって州に十分な柔軟性を与えていないからだ。

トランプ氏の大統領令は、規制を緩和するために保健社会福祉省が何の権限を行使するかを指示するものだ。例えば、個人強制加入を拡大するために支払い困難者への免除を拡大したり、州がメディケイドの受給者に新たに費用負担を許可したりするものだ。

■ 代替案提出までの時間稼ぎ?

今回の大統領令は驚くものではない。トランプ氏が保健社会福祉省長官に指名する共和党のトム・プライス上院議員は、オバマケアの運用を柔軟にする意志を表明している。メディケアやメディケイドの責任者としてトランプ氏が選んだシーマ・バーマ氏は、保険社会福祉省が認可するようなメディケイドのプログラムを州が設定できるように後押しするものだ。

しかし、個人強制加入の仕組みに変更を加えるのは、健康な顧客を想定したほど確保できていないことを懸念していた保険業界にとって、さらなる動揺を生む結果になりかねない。保険業者は保険料を値上げすることで対応するか、市場から完全に退場することになるだろう。

さらに、メディケイドに州が求める変更を加えると、保険加入者やこれから加入できるはずの人の数が減るおそれがある。彼らが医療を受けるのは困難になるだろう。

「この大統領令による最も大きな変更は、支払い困難者への個人強制加入の免除を拡大することで、保険業者が動揺し、個人保険市場が混乱に陥ることになる」と、レビット氏は語った。「州がオバマケアのすべての条項を放棄するきっかけにもなりかねません」

ワシントン・アンド・リー大学のティモシー・ジョスト教授はハフィントンポストUS版に、「この大統領令はオバマケアの規則を変更する手続きを長引かせている行政手続法にも適う」と言った。

「プライス氏、バーマ氏、内国歳入長官が就任するまでは、大きな動きはないでしょう」と、ジョスト氏は言った。「しかしその先は、オバマ政権とは異なるACAの解釈をする、新たな規則と指針が出てくるでしょう」

この大統領令は、トランプ氏がオバマケア撤廃に踏み切ったように見えるが、議会にオバマケアの代替案について考える時間を与えることにもなりうると、ジョスト氏は語った。「興味深いのは、これによって議会が早急に撤廃、代替案を用意しなければならないという圧力から解放されるのかという点です。議会からすると、代替案がすぐに出せなくても、トランプ氏がオバマケアが起こした問題に対処していると言い訳できるからです」と、ジョスト氏は言った。

ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。

▼画像集「オバマケアをめぐる議会の攻防」が開きます

(スライドショーが見られない方はこちらへ)

注目記事