トランプ大統領の就任直前に「百人一首」 ケネディ前大使が込めた思いとは

「日本は、百人一首によって、詩をスポーツに変えてしまった」(キャロライン・ケネディ氏)
The Huffington Post

トランプ大統領が就任する直前の2017年1月13日、東京都内にあるアメリカの駐日大使公邸。高校生およそ60人が招かれ、英語で書かれた「百人一首」の大会が開かれていた。

オバマ政権時に駐日大使をつとめたキャロライン・ケネディ氏は、詩に関する本を出版するなど文学や詩に詳しい。安部晋三首相との最後の会食など主だった公式行事はすでに済んでおり、テレビカメラが殺到するような大がかりな会合ではなかった。

ケネディ氏の引っ越しの準備が慌ただしく進む中、公邸内のGreat Room(メインの部屋のひとつ)に畳を敷き、のんびりとした雰囲気の中で行われた。彼女らしいユニークな方法で、最後の交流を深め、日本を去っていた。

日本在住で、詩人・翻訳家のピーター・マクミランさんが百人一首を英訳し、かるたを制作した。

由良の戸を 渡る船人 梶を絶え 行方も知らぬ 恋の道かな

→ Crossing Straits of Yura the boatman loses the rudder. The boat is adrift not knowing where it goes. Is the course of love like this?

上の「英訳」を読むと、小さな舟がゆらゆらと流れるように、たどり着く先がわからない恋の不安定さを、うまく表現しているのが分かる。

百人一首は、読み手が歌の前半部分(上の句)を読み上げて、出来るだけ早く、後半部分(下の句)が書かれた札を取る競技。うまい人は歌を全部暗記することで、読み手が上の句を読み終わる前に、下の句を「予測」して、取ってしまう。

冬休みに英語の歌を暗記した高校生たちが、体を乗り出して手札をスピーディに取っていた。

英語で読まれた歌に素早く反応する高校生の様子がわかる(アメリカ大使館 YouTubeより)

日本人にとって親しみのある百人一首が英語で読み上げられるのは不思議な光景だった。ベタなハリウッド映画を観ていると、アメリカ人は、恋の気持ちを「ストレート」に伝えているように見え、直接的な表現が多い英語と日本語の違いを感じることがある。

でも、百人一首が英語で読まれているのを聞くと、英語の中に潜んでいる「あいまいさ」も浮かび上がってくるようだ。

ケネディ氏は「ニューヨークにいた頃から、詩と関わっていた。(百人一首など)詩が持っている聖なる役割と、深さに心が打たれた。日本は、百人一首によって、詩を『スポーツ』に変えてしまった。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの競技に間に合うかもしれませんね。もちろん日本が勝つのは確実ですが」と語った。

ケネディ氏は、在任中、詩を通したイベントを何度も行い、日本や韓国などアジアとアメリカの子どもたちの交流を促した。離任のあいさつでも、「女性が成功すれば国家が成長する」と語り、「社会の多様性(ダイバーシティ)」が在職中のテーマだったようだ。

オバマ前大統領の広島訪問時には、日本人にオバマ氏の気持ちが伝わるよう、広島平和記念資料館での立ち振る舞いに関してアドバイスもするなど、「和解」にもこだわっていた。

アメリカはいま、「分断」が続いていると伝えられている。それは国内だけなく、国際社会にも影響を与えるのか。遠い日本にある在日アメリカ大使館では、そうしたことが起こりえない、と少なくとも期待させるようなイベントだった。

▼「英訳・百人一首30首」画像集が開きます▼


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