イギリスのテリーザ・メイ首相は1月17日、欧州連合(EU)離脱に関する方針を演説した。メイ首相は、自国の移民規制を優先し、人・モノ・サービス・資本の自由な往来を原則とするEU単一市場からの脱退を表明した。
ロンドンにあるセントジェームズ宮殿内のランカスターハウスでの演説で、メイ首相は「単一市場のメンバーで居続けることは不可能だ」と述べた。自国の移民政策に対するコントロールを取り戻したいとの考えから、EU司法裁判所からも脱退する方針だ。
またメイ首相は、EU加盟国以外の国に共通の関税を課す「関税同盟」からも離脱し、世界中で新たな貿易協定を模索できるようにする、とも宣言した。
今後メイ首相は、こうした最終的な「ブレグジット」案を議会にはかる。EU離脱の手続きを定めたリスボン条約50条では離脱交渉は2年間を期限としている。期限失効後、EU単一市場からイギリスが離脱するための移行措置期間をどの程度にするか、EU側と交渉するとという。
2度目のEU離脱を問う国民投票を要求している自由民主党のティム・ファロン党首は、EU単一市場からの移行期間をEU側と交渉するとしているメイ首相を「民主主義の泥棒」だと批判した。
これに対しメイ首相は「私が提案していることは、単一市場のメンバーシップにとどまることを意味しない」と話した。
「ヨーロッパ各国の首脳たちは何度もこのメンバーシップが、モノ、資本、サービスそして人、この4つの自由を受け入れることだと繰り返し主張してきました。そしてEUから離脱するのにこの単一市場のメンバーでいることは、こうした自由を実行するために定められたEUの規則や条項を、EU議会で投票する権利がないのにただ遵守することになるのです」
「これではどうみても、EUを完全離脱していない、ということになるでしょう」と、メイ首相は付け加えた。
■メイ首相の演説の骨子
議会で最終案策定に向けて投票:「私は本日、政府がUKとEU間の合意に向けた最終案を提示することを約束します。これは両議会での評決を経てから施行されます」
移民規制のコントロールを回復:「EU離脱を問う国民投票キャンペーンの結果から、国民のメッセージは明確です。ブレグジットするということは、ヨーロッパからイギリスに来る人たちの数をコントロールしなければならないのです。約束は果たします」
労働者の権利をないがしろにしない:「そのためには、EUの法律を解釈してイギリスの規則にしていくことで、労働者の権利を完全に守り、維持していきます」
関税同盟の脱退:「全く新しい関税協定を結ぶことになるのか、何らかの形で関税同盟の準メンバーになるのか、または部分的な協定に調印するのか、前もって立場を決めていません。どのようにするかについては、私はオープンでいます。重要なのは方法ではなく、結果です」
完全なEU離脱前の移行時期:「イギリスとEU機関、そして加盟国にとって、当事者間で新しい協定を準備する期間を設けるのは、それぞれの利益になると考えます。企業はこの期間に、新しい協定のために計画し、準備することができるのです」
世界貿易機関(WTO)の規定に立ち戻る意思がある:「イギリスに不利な協定を締結するくらいならやらない方がよい、と同じように明言しておきます」
メイ首相は演説の冒頭で、EUに対しイギリスのEU離脱の投票の結果として協定が「白紙に戻る」ことがあってはならない、と述べた。
ニック・クレッグ前副首相は、ロシアのプーチン大統領やアメリカのトランプ次期大統領がEU統合を破壊するにつれて「イギリスは不運な操り人形になるリスクを抱えている」と警告した。
EU離脱キャンペーンを主導してきたイギリス独立党のナイジェル・ファラージ党首は、メイ首相の演説に皮肉を込めながらも評価した。
私がずっと使用してきて、周囲からバカにされてきた表現や言葉を、今、首相が使っていたことが信じられない。真の前進だ。
またファラージ氏は、「ブレグジットがEUの終わりを意味するだろう」と述べた。
メイ首相はこうしたEU解体論に異を唱え、「はっきり言わせてもらいます。EUの解体は起こってほしくありません。イギリスの利益に適いません。EUの成功は、今もなお間違いなくイギリスの国益となるのです。だからこそ、これからずっと、イギリスが離脱したということからから教訓を学んでほしいと思います」と語った。
メイ首相の演説前にフィリップ・ハモンド財務相は、単一市場脱退を含むEU離脱の計画を議会に説明した。
ハモンド財務相は、「私たちは、他の欧州諸国の首脳が設定した『人・モノ・サービス・資本の4つの自由』とは超えられない一線があるため、単一市場のメンバーになりえないという理解を持って前へ進みます」と述べた。
■ 単一市場と関税同盟の違い
EUの単一市場では、加盟各国が関税や制限なく相互に取引できる。たとえば、ドイツの製造業者は関税を支払うことなくフランスへ物品を販売することができる。また、規制を調和させ、市場を横断して一定の基準があることを認知させる。重要なのは、国境を越えたモノ、サービス、資本、労働の自由な移動ができることだ。
関税同盟は少し違う。関税同盟でも無関税が前提だが、EU市場参入を望む国には対外共通関税をかける。それらの国には、ポーランドと同じくイギリスへ商品を販売するのに同じコストがかかる。関税同盟の正規加盟国のままでいれば、イギリスは独自の貿易協定に署名することはできない。
ハフィントンポストUK版より翻訳・加筆しました。
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