韓国の大統領を巡る不正疑惑は、韓国最大財閥で事実上のトップに身柄拘束を求める事態に発展した。
韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領や、知人女性の崔順実(チェ・スンシル)被告らによる国政介入などの疑惑を捜査している特別検事チームは1月16日、サムスングループの事実上のトップ、李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長(48)に、贈賄などの疑いで拘束令状(逮捕状)を請求した。
聯合ニュースの報道によると、李副会長は2015年7月、グループ企業の「サムスン物産」と「第一毛織」を合併させたとき、朴槿恵大統領から支援を受ける見返りに、「影の実力者」崔順実被告側に巨額の金品を支援した疑いが持たれている。
崔氏は公職に就いていないが、特別検事チームは、朴大統領と崔氏を事実上の「共同体」とみなし、崔被告側に賄賂を贈る行為が贈賄罪にあたると判断した。
■背景となった合併劇とは
2014年9月20日、仁川アジア大会の乗馬団体競技に出場したチョン・ユラ氏
疑惑の端緒となったのは、サムスングループが、崔被告が実質的に所有していたドイツのペーパーカンパニーに約220億ウォン(約21億円)のコンサルティング契約を結んで約35億ウォン(約3億4000万円)を送金し、乗馬用の高級な馬をサムスン電子名義で購入して崔被告側に提供したとされる疑惑だ。崔被告の娘、チョン・ユラ氏は乗馬でアジア大会に出場したことがあり、ドイツで乗馬のトレーニングをしていたことがある。
この多額の資金提供の背景に、李在鎔副会長がサムスングループの経営権を継承していく中で進められたグループ内の合併劇があったというのが、検察側の見立てだ。
李在鎔副会長は、サムスングループ創業家の3代目にあたる。父で2代目の李健熙・サムスン電子会長(75)は2014年5月に自宅で倒れて意識不明となり、入院したままになっており、長男の在鎔氏に事実上の経営権を継承する動きが進んでいた。
2015年5月、サムスングループの持ち株会社の「第一毛織」に、「サムスン物産」を吸収合併させ、社名をサムスン物産と変更する計画が発表される。韓国の財閥は「循環出資」と呼ばれ、グループ内で株式を持ち合う複雑な資本関係のところが多く、サムスン物産も、グループの中核をなすサムスン電子の株式を4.1%保有する大株主だった。
しかし、第一毛織とサムスン物産の合併比率を1対0.35としたため、サムスン物産株を大量保有していたアメリカのヘッジファンド「エリオット・マネジメント」が「一般株主の利益にならない」と猛反対した。
ところが、2015年7月のサムスン物産の株主総会では、賛成が3分の2を超えて合併が承認された。年金資金の運用のために同社株を11%(当時)保有していた政府機関の「国民年金管理公団」が賛成に回ったことが大きかったが、政府機関が自らの資産価値を減らす合併に賛成したことは、当時から背景を疑問視する声があった。
結果として、旧「第一毛織」の株を23.2%保有していた李在鎔氏が、合併で新「サムスン物産」の16.5%の大株主となり、オーナー一族の合計も30.4%となった。サムスン電子への支配力も強化された。
朴大統領や崔被告の疑惑が社会問題となった2016年末、既存の検察から独立してこの疑惑を集中捜査する特別検事チームが発足すると、12月31日には当時のムン・ヒョンピョ保健福祉相を、両社の合併に賛成するよう国民年金管理公団側に圧力を加えた容疑で逮捕。「サムスンルート」の捜査を進めていた。
特別検事チームは1月16日、「朴大統領が青瓦台高官や保健福祉省の秘書官を通じて、保健福祉相に『合併が成就するよう、うまくやってほしい』と指示していた」ことを確認したとしている。李副会長の身柄拘束で、特別検事チームは朴大統領が利権に直接介入した構図の証拠固めを進めるとみられ、地裁が逮捕状発付に応じるかどうかが注目される。
【UPDATE】2017/01/19 10:35
ソウル中央地裁は1月19日、李在鎔副会長への逮捕状請求を棄却した。聯合ニュースによると、李副会長は朴大統領側に総額433億ウォン(約42億円)を提供した疑いで逮捕状を請求していたが、地裁は「贈収賄の要件となる対価の関係と不正な請託などについて、現在までの証明の度合い、各種支援の経緯、具体的な事実関係と法律的な評価を巡る争いの余地、関係者の捜査などを踏まえ、現段階で身柄拘束の事由と必要性などを認めることは難しい」とした。
サムスンを足がかりに、朴大統領による不正疑惑の捜査を計画していた特別検事チームは、最初から大きな壁にぶち当たることになった。特別検事は今後、令状の再請求や在宅起訴などを通じて、サムスンが絡む贈収賄事件の捜査を進めるとみられる。