トランプ氏のセックススキャンダルを裏付ける録音と動画はあるのか? BBC記者が背景を解説

「また『前例がない』事態となりました」

ロシアがアメリカのドナルド・トランプ次期大統領のセックススキャンダルを含む「不名誉な情報」を握っているとCNNBuzzFeedが報じた件で、同じ情報を目にしていたイギリスBBCのポール・ウッド記者がニュース番組で背景を語った。

「不名誉な情報」は、イギリスの情報機関の元職員がロシア側の情報をまとめ、35ページのメモに記している。アメリカの情報機関はこのメモを基に2ページの機密扱いの報告書を作成した。この報告書には、大統領選でトランプ氏の陣営がロシア側とつながっていた疑惑についても記載されているという。

メモを作成した元職員は、ロンドンの情報コンサルタント会社「オービス」の社長クリストファー・スティール氏(52)と見られ、2015年に国際サッカー連盟(FIFA)の汚職に関する情報をアメリカ連邦捜査局(FBI)に提供したとされる敏腕の諜報員として知られる。スティール氏は現在、ロシアの報復を恐れて雲隠れしていると報じられている。

CNNが10日、「ロシアがトランプ氏の個人情報や財務情報を入手していた」ことを情報機関首脳がトランプ氏に報告したと報じた。また、BuzzFeedはメモの全文を公開した。メモの中には、ロシア旅行中に売春婦と関係を持ったというセックススキャンダルを指摘する内容も含まれており、報道機関に出回っていたものの、未確認の部分が残る内容だったためにこれまで公開されていなかったものだった。トランプ氏は疑惑を強く否定し、CNNの記者は「偽ニュース」、BuzzFeedは「欠陥のあるクズ情報の寄せ集め」だと非難した。

国際情勢を専門とするBBC特派員で、イギリスとアメリカの諜報機関内部に情報源を持つウッド記者によると、アメリカの情報機関の職員たちはドナルド・トランプ氏がロシア訪問中のセックススキャンダル「ウォータースポーツゲート」の証拠となる録音と動画が「複数の日にわたって存在する」とみているようだ。

また、アメリカ中央情報局(CIA)職員は、裏付けがとれていない「ウォータースポーツゲート」メモには信憑性の高い情報も含まれており、「検討に値する」と思ったからこそ、バラク・オバマ大統領に報告したという。

アメリカのドナルド・トランプ次期大統領が2017年1月11日「トランプ・タワー」で記者会見に応じる様子。/ VAN TINE DENNIS/ABACA/ABACA USA

トランプ氏の大統領就任に暗雲が漂う。アメリカの複数の情報機関は、ロシアは民主党全国委員会(DNC)にサイバー攻撃を仕掛けて大統領選に干渉しただけでなく、トランプ氏が対立候補のヒラリー・クリントン氏に勝てるよう工作活動したとみられている。

ロシアのサイバー攻撃についてどう反応するか数週間考えた後、トランプ氏はようやく情報機関の出した結論の一部を認めることとなった。

「サイバー攻撃については、ロシアがやったと思う」と認めた直後に、トランプ氏は「他にもさまざまな国や人々がアメリカにハッキングしている」と付け加えた。それでも、トランプ氏の情報機関に対する攻撃は止まらず、自分が秘密裏に受けたブリーフィングの情報を官僚たちがリークしているなら、自分たちの経歴に「とんでもない汚点」を残すことになると語った。

トランプ氏はメディアが「偽ニュース」を流しているとこき下ろし、疑惑を報道したCNN所属記者の質問を拒否した。AP通信によると、トランプ氏の家族やアドバイザーはその間ずっと拍手をし、声援を送っていたという。

ウッド記者は11日、BBCのラジオ番組「トゥデイ」に出演し、情報機関のネットワーク内部にいる多数の情報提供者が、疑惑には信憑性があるだけでなく音声や映像を記録した証拠データが存在するという結論に至った経緯を説明した。

ウッド記者と司会者のジャスティン・ウェッブ氏とのやり取りは以下の通り。この疑惑に関して留意しておきたいのは、トランプ氏がロシア政府からの脅迫に屈する危険性が高いという点と、この疑惑はスティール氏が作成したメモが基になっているので、スティール氏に全責任があるという点であることをご確認願いたい。

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ポール・ウッド:情報機関職員の話によると、スティール氏は非常に高く評価されており、有能という評判で、スティール氏本人がこのメモを詳細にわたって書き上げたからこそ、アメリカの情報機関が信憑性があると判断するに至ったとのことでした。

私がこのメモを見せてもらったのは、10月の終わりから11月の初めまでの時期で、仲介者を通じてCIAの見解を聞くことが出来ました。私と直接話すのを職員が拒否したからです。しかし、信憑性ががあるとの見解でした。さらに、証拠データは複数、音声も映像も、複数の現場で記録されているとの情報が得られました。サンクトペテルブルクとモスクワ両方です。諜報員は間違いなく検討する必要があると判断し、だからこそ先週オバマ大統領にまで提出されるに至ったわけです。

この件をどう扱うかについては検討されている最中で、(連邦政府の各情報機関を統括する)アメリカ国家情報長官ジェームス・クラッパー氏が昨夜声明を出し、トランプ氏とオバマ大統領が、自分たちが扱っている情報を把握すべきだと確信していると述べました。しかし明確な根拠もなしに、機密情報についてブリーフィングを行う立場の人々が、少なくとも可能性が否定できず、さらに調査をする必要があると思わない限り、情報がオバマ大統領の耳までに入ることなどあり得ないのです。

ジャスティン・ウェッブ:すると、クリストファー・スティール氏の置かれた状況はどうなっているんでしょう?

ウッド:昨日の朝、本人が隣人に自分の飼育する猫たちの世話を頼み、身を隠しています。ひょっとしたら、その前日だった可能性もありますが、とにかく家を出たと知らされました。最初にメモを見せてくれたのは、彼に情報提供を依頼した側の人たちでした。直接スティール氏に話をさせてはもらえませんでした。彼らの話によると、スティール氏は文字通り「命が危険な状態」であり、トランプ氏の大統領選挙活動へのロシアによる介入疑惑を暴露した結果、自分の身がどうなるか心配しており、非常に危機的な状態にあると思っていたとのことです。大げさに思われるかもしれませんが、私は厳重な警告を受けました。スティール氏が姿を隠してしまったことからも事の重大性は明らかです。

ウェッブ:すると各情報機関や連邦議会の議員は、この怪情報に関してどういった動きをしているのでしょう?

ウッド:ジョン・マケイン上院議員のような、トランプ氏と仲が悪い共和党議員が諜報特別委員会や軍事委員会のような場で、公聴会を開くことについて議論をしているところです。こうなるとしばらく民主党議員が議論していた弾劾決議が実現する可能性が出てきます。

こんな話が大統領就任式の10日前に出てくるとは信じられません。私たちメディア関係者はトランプ氏とその選挙活動について「前例がない」という言葉を多用してきたので、この言葉を使うのは良くないのですが。それでも、また「前例がない」事態となりました。トランプ氏はアメリカの各情報機関との間で、開戦準備をしている状況にあります。10日後には自分が指揮をすることになる人々との間でですよ。CNNなどの大手メディアとは大喧嘩が始まっており、事態がどう収束するのか誰も分からない状態です。

ウェッブ:もちろん、報告書の内容がすべてデタラメである可能性はあります。ただ私が思うのは、諜報活動をする機関で働く人々、さらにウッドさんが話をされた方々の視点では、この人たちはロシア政府だろうと他の存在であろうと、事実無根の情報を持ち出してわざと混乱を引き起こす可能性があると信じるものなんですかね?

ウッド:確かに可能性としてはあります。私と話をした諜報員の1人はロシアの伝統「プロヴォカツィア」、すなわち挑発行為である可能性はあると語っていました。セックススキャンダルより深刻な、ロシア側が何らかの形でトランプ選挙活動に対し資金援助を行い、トランプ陣営に送金をしているという疑惑より、さらに深刻な事実から我々の目をそらすのがロシアのやり方だと。

各情報機関で働く人々と話をして私が直感したのは、トランプ氏のような大物がモスクワに旅行をするときには、ロシア側がその動向を記録していた可能性があるという点だったということはお話ししておく必要があると思います。しかし確たる物証を目にした訳でもないので、(2016年に)メモを目にしたとき、私たちがBBCでその内容を放送することはありませんでした。1つ補足しておきますが、ポルノ雑誌「ハスラー」の出版社を経営するラリー・フリント氏は、一定期間の間にドナルド・トランプ氏のスキャンダルネタを提供すれば、100万ドルの懸賞金を払うと広告を出しています。アメリカでハスラーに匹敵するもう一つのポルノ雑誌「ペントハウス」も同じく100万ドルの懸賞金をかけています。不届き者のFSB(ロシアの情報機関、ソ連時代のKGB後継組織)職員が大金目当てに情報を流すんじゃないかと勘ぐっているのですが。

ウェッブ:ウッド記者はコメントの中で、トランプ氏の選挙運動の資金の出どころについても言及され、さらに一時期ロシア側と何らかのつながりを示す情報が出回っているともおっしゃってましたよね。選挙期間中トランプ陣営とロシア政府の間に不適切な関係があったかどうかについて、FBIが捜査をした事実はありますか?

ウッド:間違いなく捜査はありました。かなり地位の高い人物に確認をとりました。情報機関ネットワークの1幹部職員としておきますが、彼は私が数多くの情報源から入手した情報の真偽について説明してくれました。ここで一番肝心な点は、アメリカでは外国諜報活動偵察法(FISA)裁判所という名の、情報裁判所から秘密令状が発行され2つのロシア銀行の電子情報が調査され、(調査事項の)残り半分はFBIがドナルド・トランプ氏が正式に任命したスタッフに対して調査を行っていたという事実です。

私の情報筋によると調査対象となったとみられる、これら3人すべてに取材をしたところ、3人とも違法行為を完全に否認し、全くのデタラメだと回答しました。しかし、私が入手した情報によると、最終的な調査対象になったのはドナルド・トランプ氏本人のようです。調査がいまでも継続しているのか、10日後にトランプ氏が就任するときに情報機関がどう動くのかは不明です。

ハフィントンポストUK版より翻訳・加筆しました。

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