「ダコタ・アクセス・パイプライン」ルート変更へ アメリカ先住民たちの誇りを賭けた抗議デモが実る

「トランプ政権も今回の判断を尊重し、人々の意思を受け止めなければならない。闘いはまだ続く」

2016年12月4日に陸軍工兵部隊が、オアヘ湖の地下を掘削する地役権(ある土地の便益のために、他人の土地を利用する権利)の承認拒否を発表後、デモ拠点オセチ・サコウィン・キャンプに引き上げる最中、安堵と笑みの表情を浮かべるパイプライン建設反対デモの参加者。 / JOSH MORGAN FOR THE HUFFINGTON POST

【アメリカ・ノースダコタ州オセチ・サコウィン・キャンプよりレポート】

アメリカ先住民の居留地の水源が汚染される懸念から抗議デモが続いている石油パイプライン「ダコタ・アクセス・パイプライン」の建設計画について、アメリカ陸軍省は12月4日、水源となるミズーリ川をせき止めたダム湖「オアへ湖」の地下にパイプラインを通す工事を認可しないと発表した

ダコタ・アクセス・パイプラインは、石油パイプライン会社「エナジー・トランスファー・パートナーズがノースダコタ州からイリノイ州までをつなぐ1172マイル(約1886キロ)のパイプラインを建設するプロジェクトだ。建設ルート近くの居留地に住むアメリカ先住民スタンディングロック・スー族は、水源のミズーリ川が汚染されることを懸念し抗議デモを続けている。

抗議活動が勢いを増し、およそ2000人の退役軍人もデモ参加者を支援することが検討されていたが、連邦当局はダコタ・アクセス・パイプラインの建設を休止させる決定を出した。

陸軍省が4日に出した声明によると、オアへ湖の地下にパイプラインを建設する、総額37億8000万ドル(約4290億円)にのぼるプロジェクトに対し、最終的に建設承認を拒否した。代わりに陸軍省が環境影響評価を実施し、環境に与える影響を検証したうえで代替ルートが可能かどうか調査する。

「スタンディング・ロック・スー族とダコタ・アクセス・パイプラインの建設当事者側双方との間で協議のやりとりを継続し、情報交換を行っているが、明らかにまだやれることはある 」と、陸軍省土木工事部門のジョーエレン・ダーシー次官補は声明で述べた。「石油パイプライン全体の工事を責任をもって、迅速に完了するためには、建設代替地を探すのが最善の策だ」

「ダコタ・アクセス・パイプライン」のための地役権が否認されたことを知り、スタンディングロック・スー族居留地の端に位置するオセチ・セコウィン・キャンプで喜ぶアメリカ先住民とその他の活動家たち。 / SCOTT OLSON VIA GETTY IMAGES

長さ1172マイル(約1886キロ)に及ぶこの石油パイプラインはノースダコタ州にあるシェールオイルの代表的な生産地帯バッケンの原油を、イリノイ州にある既存の原油ターミナルへ運ぶために建設されている。スタンディングロック・スー族居留地に近い20マイル(約32キロ)の区間を除く、ほとんどの部分が建設済みだ。スー族と支援者たちは、パイプラインによって水と神聖な先住民の土地が脅威にさらされるとして懸念を表明している。またスー族はパイプラインの完成停止を求める裁判の中で、この計画は連邦法に違反しており、環境への影響も十分に調査されていないと主張している。

■ アメリカ先住民「オバマ政権への感謝を永遠に忘れない」

スタンディングロック・スー族の族長、デイブ・アーチャムボールトII世は声明で、今回の決定を歓迎した。

「我々は陸軍省の決定を心より支持する。これまでの歴史の誤りを正し、正しい行いに戻してくれたオバマ大統領、陸軍工兵隊、司法省、内務省の勇気ある行動を最高の感謝を持って称えたい」

スタンディングロック・スー族とすべての先住民部族は、「この歴史的な決断に対するオバマ政権への感謝を永遠に忘れないだろう」と、アーチャムボールト氏は語った。また、次期大統領のトランプ政権が、この決定を尊重するよう期待していると付け加えた。

「条約で決められた権利を守るため、そして母なる大地を守るために立ち上がってくれたすべての『水の保護者』たちに、両手をあげて感謝したい」と、アメリカインディアン国民会議のブライアン・クラドゥースビィ議長はの声明で述べた。「スタンディングロックのために立ち上がって(スタンディングして)くれて、ありがとう」

2016年12月4日、ノースダコタ州のキャノンボール郊外で、スタンディングロック・スー族の居留地の端のオセチ・サコウィン・キャンプを見下ろす丘の上に、支援者の退役軍人たちが「唯一の水」と書いた旗を立てている。/ SCOTT OLSON VIA GETTY IMAGES

フィリップ・ジョージさん(37)は、カナダのオンタリオ州グランドリバーの先住民居留地シックスネイションズからやって来て、スタンディングロックで4日に行われたデモに参加した一人だ。彼はこの勝利を、「数百年間に及ぶ集団虐殺と抑圧を受けてきた自分たち部族のために当然与えられるべきもので、嬉しくもあり悲しくもある」と表現した。

「この闘いは何世紀にもわたっている。ここで起きているのは、ほんの一部なのです」と、ジョージさんはハフィントンポストUS版に語った。「彼らが地役権を認めなかったのは嬉しいですが、ドナルド・トランプ氏が次期大統領になれば、この勝利がいつまで続くのかわかりません。トランプ氏が、我々部族と我々の文化に敬意を表するのかどうか、確信が持てないのです」

ジョージさんは今回の結果を、大きな目標のうちの小さな勝利にしかすぎないと考えている。先住民の抗議、そして部族間の関係について、やるべきことはもっとたくさんあると指摘した。

「連邦政府は我々の自治権や、土地を管理する権利、そして我々の在り方に敬意を表する必要があります」と、ジョージさんは語った。

■ 「トランプ政権がやってくる。闘いはまだ続く」

アメリカ先住民の居留地「パイン・リッジ・リザベーション」があるサウスダコタ州カイルに住むランス・キングさん(44)は、デモに参加するためスタンディングロックを2回訪れた。2回目は2週間滞在していた。

陸軍省の決定には「エキサイトしている」し、「うれしい」とキングさんは言う。「これはアメリカ国民の勝利だと思っている」

「確実なことは何一つありませんでした。誰もこうなるとは思っていなかったでしょう」と、ハフィントンポストUS版に語った。「興奮と不安が高まっていたので、私たちはびっくりしました。でも、ずっと祈っていました」

連邦政府のロレッタ・リンチ司法長官は12月4日の決定を踏まえて、司法省は引き続き推移を見守り続けると述べた。

「当局は地元警察を支持し続けることに決めており、デモ参加者たちの憲法上の権利として言論の自由を守り、問題についての誠意ある対話を望む」と述べた。「この問題に関して強い感情があることは理解しているが、段階的な解決と回復のためにどうしても必要なことがある。それはどのグループも自分の観点を平和的に意見表明することが原則であり、計画的で合理的なプロセスをサポートするため、私たちも加わっていく」

>オセチ・サコウィン・キャンプに歓喜の花火が打ち上がる。 SCOTT OLSON/GETTY IMAGES

知らせを聞いた環境保護団体からは、すぐに喜びの声が上がった。

「先住民たちの声が今日、聞き届けられました」と、天然資源保護協議会のレア・スー会長は語った。「独立部族としての権利が尊重されたのです」

環境保護団体グリーンピースの報道官リリアン・モリーナ氏もこの決断を賞賛したが、一方で、近く誕生するトランプ政権も「今回の判断を尊重し、この破壊的なパイプラインの建設を阻止するという人々の意思を受け止めなければならない。闘いはまだ続く」とも語った。

シエラ・クラブのマイケル・ブルーン事務局長は、パイプラインが環境に与える影響に関して、さらなる調査が行われるよう期待していると語った。

「歴史を振り返れば分かることですが、問題は『パイプラインから石油が漏れるかどうか』ではありません。『いつ漏れ出すのか』ということです」と、ブルーン事務局長は語った。「包括的環境アセスメントによって、この危険で汚れた計画は通過地域にある全てのコミュニティを脅威にさらすものだと明らかになるでしょう」

取材協力:フォトジャーナリスト、ジョシュ・モーガン

ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。

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