「男らしさ」を求める男性ほど、メンタルヘルスの問題を抱えやすい傾向にある。そして、問題を抱えても助けを求めにくい。そんなアメリカ心理学会の新研究が、学術誌「ジャーナル・オブ・カウンセリング・サイコロジー」に11月21日に掲載された。
研究者たちは、これまで行われてきた78の研究を分析し「『男らしさ』とメンタルヘルスの関係」について調べた。対象になったのは合計2万人の男性。大半が白人だが、アフリカ系アメリカ人とアジア系アメリカ人も含まれた。
彼らは「伝統的に社会が男性に求める、男らしさの基準」を元に、男らしさとメンタルヘルスの間に関係を調べた。研究者たちが設定した「男らしさ」の基準とは、下記の11項目だ。
男らしさを測る11の基準
1. 勝利にこだわる
2. 感情をコントロールしようとする
3. リスクを負う
4. 暴力的
5. 物事を支配したがる
6. 性行為に積極的(プレイボーイだ)
7. 自立していて、他人に頼らない
8. 仕事を優先する
9. 女性を支配しようとする
10. 同性愛を軽蔑する
11. ステータスを重視する
分析の結果、伝統的な男らしさは、ストレス、うつ、不安、薬物乱用、身体に自信がないなど、男性のメンタルヘルスにネガティブな影響を与える傾向にあることがわかった。
特に強い関係が観察されたのは「自立していて、他人に頼らない」「女性を支配しようとする」「プレイボーイである」の3つだった。
また、このうち「女性を支配しようとする」と「プレイボーイである」男性には、最も性差別的な行動をする傾向が見られた。
「『男らしい』人ほど、明らかに女性を支配しようとする態度がありました。性差別は社会的に間違った、全ての人にとって害になる行為ですが、それは性差別をした本人にとってもいえます」と研究の責任者であるインディアナ大学ブルーミントン校心理学部のY. ジョエル・ウォン博士はハフィントンポストUS版に語った。
さらに厄介なことに、性差別をする男性は、心の病を抱えても助けを求めない傾向にあることがわかった。
とはいえ、全種類の男らしさが、メンタルヘルスにネガティブに影響を与えていたわけではなかった。例えば「仕事を優先する」傾向は、メンタルヘルスにポジティブにもネガティブにも関係していなかった。一方、「リスクを負う」傾向は、ポジティブにもネガティブにも関係していた。どんな種類のリスクを負うかが、問題のようだ。
今回の研究結果は、「男性らしさ」が男性の心理に与える影響について調べた研究の一つにすぎない。多くの心理学者が述べているように、これは非常に複雑な問題で、人種や社会、経済などの要素も取り入れて調べる必要がある。
「社会的なプレッシャーを感じている時や、日々人種差別に直面しているという状況で、人間は特定の行動をとる可能性があります。そうやって、失われた自分の一部を取り戻すのです」とノースカロライナ大学チャペルヒル校でジェンダーと人種を研究する心理学者、ウィズダム・パウエル博士はアメリカ心理学会のインタビューで述べている。
今回の研究で調べていない、人種や教育レベル、所属政党や育った文化の影響が「男性らしさ」につながっている可能性もある。今後、そういった要素を含めた研究が期待される。
今回の研究は白人男性を中心にした調査だが、武蔵大学社会学部で「男性学」を研究する田中俊之助教授も、日本の男性をとりまく現状に関し「男子は何でも競争して勝つことを良しとして育てられ、その結果、男性はとにかくどんなことでも人より優位に立ちたい、認められたいという気持ちが強くなる」と話している。そして「男性は、一生働き、家族を養わなければいけない」というプレッシャーにさらされていると指摘する。
男性だけでなく女性も生きやすい世の中にするためには、「男性らしさ」「女性らしさ」の基準を押し付けない社会にする必要があるのかもしれない。
ハフィントンポストUS版に掲載された記事を翻訳・編集しました。
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