韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が、演説文や閣議の資料などを、知人の民間人女性に流出させていた疑惑に揺れている。朴大統領は10月25日、「国民の皆様に申し訳ない」と謝罪したが、さらに外交や安全保障の文書まで、この知人女性に事前に流出させていた可能性も報じられた。
この女性が関与する財団に、青瓦台(大統領府)が圧力をかけて企業に多額の資金を提供させた疑惑も浮上しており、朴大統領は就任以来、最大の窮地に立たされている。
崔順実氏(左)に朴大統領の演説文が事前に流れていたことを報じた韓国・JTBC
直接のきっかけは、韓国のケーブルテレビ局「JTBC」が10月24日、朴大統領の40年来の友人とされる女性、崔順実(チェ・スンシル)氏のパソコンのファイルを入手し、その内容の一部を報じたことだった。
そこには、朴大統領の演説文や公式発言が、発表前に崔氏に渡っており、崔氏が手直しをした形跡もあった。閣議の資料や、朴大統領が地方自治体から受けた業務報告の内容なども含まれていた。
10月25日、国民に謝罪する朴槿恵大統領
報道を受け、朴大統領は25日、国民向け談話を発表。ハフポスト韓国版によると、「就任後、一定期間、一部の資料について意見を聞いたことはあるが、青瓦台及び補佐体系が完備されてからはやめた」と事実関係を大筋で認め「もっと丁寧にしようという純粋な気持ちでやったことで、国民の皆様にご心配をかけ、驚かせ、心を痛めたことに申し訳なく思う」と謝罪した。
しかしJTBCはこの談話発表後に、さらなるファイルの内容を報道。朴氏が大統領に当選直後の2012年末、李明博大統領(当時)との引き継ぎのため会談したときの朴氏の発言原稿が、会談前に崔氏に渡っていた。この中には「韓国軍が北朝鮮当局と極秘に接触した」などの内容も含まれていた。さらに別のファイルからは、朴氏の外国首脳との電話会談の発言内容が、会談前に崔氏に渡っていたり、崔氏が青瓦台の人事について朴氏にアドバイスしたりしていた形跡もあったという。同じくケーブルテレビのTV朝鮮も、青瓦台(大統領府)の人事に介入していた疑惑を報じた。
韓国には大統領記録物管理法という法律があり、流出させた者は7年以下の懲役または罰金刑に処せられる可能性がある。
■「崔順実ゲート」で支持率低迷。弾劾はあるのか
崔氏を巡っては、文化体育観光省の許可で設立された「文化財団ミル」と「Kスポーツ財団」の理事長や理事に、崔氏の知人が多数就任し、韓国企業が計800億ウォン(約73億円)を出資していたことが報じられている。存在自体あまり知られていない2つの財団に企業が巨額の資金を拠出したことに、青瓦台の圧力があったのではないかと疑われている。
韓国ギャラップによる、1988年以降の歴代大統領の支持率(朴槿恵氏がオレンジ線)
こうした「崔順実ゲート」と呼ばれる疑惑が次々に報じられ、朴大統領の支持率は徐々に低下。10月20日時点の韓国ギャラップの調査では支持25%、不支持65%となった。24日に朴大統領が突然、大統領の求心力向上を狙った憲法改正の意向を示したのも、疑惑報道が続いて支持率が低迷する政権の先行きを打開する狙いがあったとみられる。
謝罪会見の直後、韓国の大手ポータルサイト「NAVER」では、リアルタイムのキーワードで「弾劾」が1位に浮上した。韓国の憲法では「弾劾訴追」の規定があり、国会議員の3分の2以上が賛成すれば、憲法裁判所が審判するまで大統領の職務が停止される。2004年に、当時の盧武鉉大統領が国会から弾劾訴追され一時的に職務停止されたが、憲法裁判所が弾劾を否決して復帰したことがある。
演説文流出を受け、朴大統領を支える与党・セヌリ党も「国民の皆様に申し訳ない」「徹底的に真相究明を求める」とする談話を発表し、朴大統領の足元が根本から揺らいでいる。朴大統領同様、セヌリ党も支持率が落ち込んでおり、与野党が弾劾に同意すれば、朴大統領の政治生命に致命的なダメージを与える可能性がある。