三浦弘行九段の将棋不正疑惑、渡辺明竜王「ソフトと一致90%超」と指摘

指し手の不自然さを日本将棋連盟の幹部に訴え、対応を求めていた。

将棋のタイトル戦「竜王戦」の挑戦者になった三浦弘行九段(42)が過去の対局で将棋ソフトを不正使用したとされる疑惑で、渡辺明竜王(32)が、三浦九段の勝った20局のうち4局で定跡手順を外れて以降「ソフトとの一致率が90%を超える」として、その不自然さを日本将棋連盟の幹部に訴え、対応を求めていたと、10月21日に朝日新聞デジタルが報じた。

渡辺明竜王

三浦九段をめぐっては、対局中の不自然な離席を5人前後の棋士が指摘し、対応を求めていたと日本将棋連盟が公表。連盟側は12日、三浦九段に年内の公式戦出場を停止する処分を下した。

■将棋界に激震、「将棋ソフト不正疑惑」とは?

三浦弘行九段

将棋の対局中、棋士は持ち時間の範囲で対局室から出られることになっているが、三浦九段をめぐっては7月以降「対局中に十数分、席を外す」「1手ごとに席を立つ」などの指摘が対戦相手らから相次いでいた

朝日新聞デジタルによると、「竜王戦」で三浦九段と対局する予定だった渡辺竜王のもとに、三浦九段の対局の指し手が将棋ソフトの手順と似ているとの指摘が報道関係者から寄せられたという。

渡辺竜王が、三浦九段の指し手とソフトが選ぶ手が一致するか調べたところ、三浦九段が勝った20局のうち4局で、定跡手順を外れて以降の「一致率」が90%を超えたという。

渡辺竜王は「トップ棋士でも、ソフトとの一致率は高い人で平均約70%。三浦九段は離席が多く、感想戦で示す手もソフトと一致していた。不正の疑いが強い以上、理事会に対応してもらう必要があると判断した」と日本将棋連盟の幹部に訴え、対応を求めた

これを受けて日本将棋連盟は「対局中スマートフォンなどに搭載の将棋ソフトを使って不正をした疑いもある」として10月11日、三浦九段に説明を求めた。聞き取りをしたのは日本将棋連盟の常務会だが、疑惑への対応を訴えていた渡辺竜王も同席した

三浦九段は対局中のスマホなどの使用を否定し、「別室で休んでいただけ。疑念を持たれたままでは対局できない。休場したい」と話したという。ただ、休場届は提出期日だった10月12日までに提出されず、連盟は「12月31日まで公式戦の出場停止」の処分を決めた

■日本将棋連盟「追加調査はしない」、しかし…

三浦九段の処分決定から一夜明けた10月13日、日本将棋連盟は記者会見を開き、三浦九段の不正の有無について追加調査しない方針を示した

常務理事の島朗九段(53)は会見で、「聞き取りは尽くした。復帰後は疑念を抱かせることのない対局姿勢で臨んでくれると思う」と説明。一方で、事情を聴いた常務会について「材料を十分準備して臨んだ。ここでは多くを語れない」と話し、離席の多さ以外にも不正が疑われる内容を把握していることを示唆した

島朗九段

これに対し三浦九段は18日、弁護士を通じて声明を発表。「休場届の提出は、全くの濡れ衣である将棋ソフト使用疑惑によるものであり、適正な手続による処分とは到底言い難いもの」として、疑惑を全面否定。「将棋の序盤中盤は、盤面の状況をある程度想定できるため、コンピュータと一致率が高くなることは当然のことだと思います」と説明。また、「終盤については、最善手を指せばコンピュータと一致することは不思議なことではありません」として、渡辺竜王らの指摘に真っ向から反論した。

■聞き取り調査前日、トップ棋士らが疑惑めぐり会合

20日発売の週刊文春によると、三浦九段の疑惑をめぐり、10月10日夜にトップ棋士らの会合が島九段の自宅で開かれたという。参加者は島九段、渡辺竜王、佐藤天彦名人(28)、羽生三冠、棋士会長の佐藤康光九段(47)、プロ棋士で最もソフトに精通していると言われる千田翔太五段(22)、将棋連盟会長の谷川浩司九段(54)の7人。会合では、不正を否定する声は上がらなかったという。

羽生三冠(左)と谷川九段

羽生三冠の妻の理恵さんは、トップ棋士らの会合があった10日、ここ最近の羽生三冠の様子についてTwitterで以下のように明かしている。

トップ棋士の会合翌日の11日朝、羽生三冠は島九段に宛てて、「限りなく“黒に近い灰色”だと思います」と記したメールを送ったと、週刊文春は伝えている

■羽生三冠「白の証明も黒の証明も難しい」「疑わしきは罰せずが大原則」

羽生三冠は10月20日、島九段へのメール報道をめぐり「誤解を招くような表現」があったとして、妻の理恵さんのTwitterを通じて以下のコメントを発表した。


■96年に羽生七冠の独占崩す 三浦弘行九段とは?

日本将棋連盟の棋士データベースによると、三浦九段は1974年生まれの42歳。1992年に四段に昇段しプロデビュー。名人挑戦権を争うA級順位戦(10人)に在籍するトップ棋士の一人だ。

96年7月には当時の羽生善治七冠を破り、「棋聖」の位を奪取。史上初の七冠独占を168日で崩したことで名を馳せた。2013年には、棋士と将棋ソフトが対戦する電王戦に出場。将棋ソフト「GPS将棋」に敗れた。

【UPDATE】

日本将棋連盟が設置した第三者調査委員会(委員長:但木敬一弁護士)は2016年12月26日、「不正行為に及んでいたと認めるに足りる証拠はないと判断した」と発表した。

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